アリは何種類くらいいるの?
日本には約300種(日本産アリ類画像データベース参照)、世界には1万種いると言われています。
どんなアリがいるの?
大きさも小さいもので1mm、大きいもので4~5cm、色も黒や赤や黄色や薄い黄色やツートンカラーやメタリックカラー、 スタイルもずんぐりむっくりした種、脚の長い種、頭の大きい種など、本当にいろんなかたちのアリがいます。
かたちだけではなく、キノコを育てる種や敵が来ると自爆して巣を守る種、オナカに蜜を貯蔵する種、オスのいない種、
別のアリの巣をのっとる種など、生態もいろいろです。
アリって、シロアリの仲間?
昆虫の中では遠いグループです。シロアリは不完全変態昆虫でゴキブリの仲間、アリは完全変態昆虫でハチの仲間です。
遠いグループにもかかわらず、それぞれで非常に高度な社会性が独立に進化してきたというのはすごいことです。
女王アリはどうやって生まれてくるの?
女王アリやワーカーなど、かたちやはたらきの違うものを「カースト」と呼びます。
ワーカーも女王アリと同じメスで、多くの種では、卵の時点で運命は決まっておらず、幼虫期に女王になるかワーカーになるかが決まります。これをカースト分化と言います。
カーストを分化させるスイッチとして、ミツバチではロイヤルゼリーが有名ですが、アリでは餌の状態や温度などが挙げられています。
一般的なアリの生活史はどんな感じ?
アリの生態には本当にビックリするほどの多様性があって、例外だらけなので、これが「一般的なアリ」と表現するのはいつもむずかしいです。
まずは結婚飛行というものをするアリについて紹介します。
このタイプでは、成熟したコロニーで翅のついた女王アリとオスアリがたくさん育てられます。
その翅アリたちがある時(ある種では夏の蒸し暑い夜、またある種では昼間、ある種では夕方)に、巣から飛び立ちます。
いくつかのコロニーからオスとメスが飛び立って、それぞれがほかのコロニーの異性と出会い、交尾をします。
オスは巣から飛び出した後、交尾をするしないにもかかわらず、力尽きたりカエルなどに食べられたりして死んでしまうのですが、女王アリは地面に降り立ち、翅を落として巣穴を掘り始めます。
最初はもちろんワーカーがいないため、女王は飛ぶときに使った胸筋を栄養エネルギーとして使って、餌を食べずに卵を生んで育てます。
最初のワーカーが羽化すると、女王アリはやっと働き手ができたということで、繁殖に専念します。
コロニーが初期の段階では、ほかのアリとの争いに負けないように、どんどんワーカーを生産していきます。
ある程度コロニーが成熟してきたのち、次世代の翅アリを生産しはじめます。

結婚飛行をしないタイプもいます。
アルゼンチンアリなどは、翅のある女王アリが飛んでいくことはなく、他のコロニーから飛んできたオスと巣の中で交尾し、そのあとで単独で巣を作ることはせず、そのままもといた巣に居座ります。
結婚飛行タイプでは、女王だけで巣作りするので捕食リスクなどもありますし、コロニーが成熟するまでに時間がかかるのですが、このタイプでは、母巣にいて安全ですし、初めからワーカーがいて労働力もあるので、個体数が増えるのが早いと言われています。
巣の中のことは、全部女王アリが命令して仕切っているの?
女王」という名前から、巣の中を完全に統治しているというイメージをもたれがちですが、そんなことはありません。
餌のとりかた、巣の掘り方、巣の引っ越しなど、実際にはワーカーたちの外部刺激に対する(フェロモンとか)単純な反応で高度な社会行動が成立しているようです。これを「自己組織化」といいます。
「自己組織化」はアリ業界だけの用語ではなく、ほかの生物や化学、物理分野、はたまた経済学の世界でも使われる言葉らしいです。興味のある人は調べてみてください。
アリって言っても、そんなたいしたことない存在でしょ?
そんなことはありません。
アリはわらわらいるというイメージをよくもたれますが、本当にわらわらしていて、ある地域ではそのバイオマス(その地域に住んでいる生き物の重さ)は哺乳類よりもはるかに大きいと言われています。
その分、生態系に与える影響も大きく、アリは生態系の中で捕食者という役割だけではなく、脊椎動物などに食べられる被食者という役割もあります。また、さまざまな動物や植物との共生や生物間相互作用がみられ、生態系の中で特に大きな存在であると言えます。
このような特徴から、「地球はアリの惑星」とも呼ばれています(実際にそのタイトルの本がある)。
アリの生態的な繁栄は、ひとえに高度な社会性が発達したことが背景にあります。
アリの研究ってどんなことがされているの?
アリは高度な社会性を発達させた生き物ですので、それに焦点を当てた研究が多く、分野としても生態学、動物行動学、神経生理学、発生生物学など多岐にわたります。
生態学分野では、社会性がどのように進化したか、どのように維持されているかなどを明らかにしようとする進化生態学がよく研究されています。また、アリと他動物や他植物との共生や共進化についても、行動学的解析や化学分析、系統樹解析などを駆使して盛んに研究されています。
コロニーメンバー同士がどのようにコミュニケーションをとっているかなどに迫る、行動学的、神経生理学的な研究もおこなわれています。同じメスで同じ遺伝的な背景をもちながら女王とワーカーというかたちも機能も全く異なる成虫ができるのはなぜか、を調べるために、発生生物学的な研究もなされています。ちなみに、当研究室でおこなわれている精子貯蔵メカニズムを探るという、機能を調べる研究はアリの研究の中ではけっこう珍しいほうだと思っています。
また、すべての研究の基本となるアリの分類学も昔からよく研究されています。
いずれにしても、さまざまな角度から総合的に研究をすすめることで、「アリ」というものをよりよく理解できるので、どの分野の研究も大事です。

すこし違うところで、数学的な研究もされています。
渋滞学と言われる分野では、アリが行列を作るにもかかわらず渋滞しないのはなぜかということが研究されていますし、巡回セールスマン問題と言う、各巡回地点すべてを効率よくまわるにはどのようなルートが最適かという問いを解決するために、アリの道しるべフェロモンによる餌探索方法がモデルとして使われているそうです。この辺は興味があれば調べてみてください。
どうしたら、アリをうまく採集できる?
アリの採集方法はいろいろあります。
女王アリの研究をするために大量の女王アリを採集する必要があるんですが、その時は結婚飛行のタイミングを狙います。
当研究室で扱っているキイロシリアゲアリは9月の雨の降った後の蒸し暑い夜に一斉に結婚飛行をします。
女王アリやオスアリは明るい場所に集まるので、コンビニや自販機、クリーニング屋などに行って、ピンセットや吸虫管などで一気に採集します。
研究室ブログでも少し説明しています→女王アリの採集
女王アリを実験室で飼育すると、やがてワーカーが生まれてコロニーが発達する様子をみることができます。

育てるのはじれったい!という人はコロニー採りというのをします。
アリにもよるのですが、いろいろなアリが朽ち木の中に巣を作っていますので、やさしく割って、アリを見つけたらジップロックに入れて持ち帰り、室内で人工の巣に移します。
他にも、落ち葉をふるいでふるって採集する「ふるいがけ法」、見つけたらただちに採集する「見つけ採り法」がありますが、こちらはおもにワーカーしか採集できません。地域でどんなアリがいるかなどを調べるアリ相調査などでよく使われている手法です。
どうしたら、アリを飼える?
アリは身の回りにあるものを使って飼育できるので、あまりお金をかけずにすむのが特徴です。
当研究室では、スチロール角形ケースにホームセンターで買える石こうを敷いて、飼育しています。
一般的には下記の図のように、大きいケースの中に出入口を開けた小さいケースを入れ、広い部分は採餌場所、小さいスペースは巣の中でアリたちが普段いる場所と想定して飼育しています。
巣のスタイルは研究者やアリ愛好家によってそれぞれで、試験管を利用している研究者もいます。
餌はハチミツを水で溶かしたものを与えています。雑食ですので、なにかの肉や粉チーズなども食べます。
うちであげている餌について、研究室ブログでも紹介しています。→アリの餌
ヒアリが話題になっていますが大丈夫なの?
以下のサイトに、現在の状況、ヒアリの特徴、対処法、問い合わせ先などが記載されていますので、ご覧ください。
○ 国際社会性昆虫学会(JIUSSI)ヒアリに関するQ&A
○ 人と自然の博物館による解説

○ ヒアリと誤解されやすい日本のアリの特徴と写真(研究室ブログ)