第2回「サーカディアンリズムを整えて,良質の睡眠を手に入れる!」

 本稿を始める前に,予めお断りしておくことがあります。睡眠は非常に「神経質」な活動です。良い睡眠は,心や身体を健やかにしてくれます。一方,悪い睡眠は,心や身体の健康を損ないます。また,心や身体が不健康だと,良い睡眠が実現されません。本稿では,「健康な方」を対象として話を進めます。もし,心や身体に疾患があるようでしたら,医師の診断を仰ぎ適切な治療を受けて下さい。また,長年の生活サイクルはなかなか変えることが出来ません。もし,ご自身が来年早々の受験を控えた学生であるような場合,本稿に従わず,現在の生活サイクルを続けることをお勧めします。もし,本稿にあることを取り入れようとお考えでしたら,ご両親や担任の先生に相談してみてください。

 それでは,良質の睡眠を如何に手に入れるか,その方法を解説していきます。皆さんは,朝何時に起きますか? また,朝起きた時の寝不足感や身体の倦怠感は如何ですか? ヒトは,サーカディアンリズムといわれる約24時間の周期で活動と睡眠を繰り返します。この約24時間の周期には,睡眠−活動のみならず,体温の変化や,ホルモン分泌などもあります。例えば,多くの人で早朝4時位で深部体温が最低になります。また,睡眠と関連の深いメラトニンというホルモンの分泌は,習慣的入眠時刻の1〜2時間前から上昇し最低体温の1時間くらい前に最大となります。さて,このサーカディアンリズムが正しく刻まれていると,ヒトは朝の習慣的起床時刻に,強い寝不足感や倦怠感を感じずに,起きることができます。もちろん,前日に極度に疲労したり,睡眠時間が非常に短い場合などは,別です。このような場合を除いて,朝,特定の時間に起床できなかったり,朝起きた時の寝不足感や倦怠感を強く感じる場合,まず,正しいサーカディアンリズムを手に入れなければなりません。

 サーカディアンリズムの基本は,自由継続と同調です。自由継続とは,外界からの朝・昼・晩に関わる情報が入力されない状態での1日の時間で,各生物で固有です。つまり,1日中明るさが変化しなく静かで時計などの時間に関わる手掛かりがない部屋で生活を続けていると,ヒト,ハムスター,そしてラットでは1日が24時間より数十分〜1時間ほど長くなります。また,マウスでは24時間より少し短くなります。自由継続は植物にもあります。インゲン豆の1日は24.4時間です。そして,この自由継続が,明暗サイクル(昼夜の明るさのサイクル),食事サイクル(朝食・昼食・夕食のサイクル),温度サイクル(一日内の寒暖のサイクル)や社会的行動のサイクルなどの影響を受け,地球上の生活サイクル(24時間周期)に同調(各生物固有の自由継続が24時間周期に矯正)されます。これら同調を生むサイクルを同調因子と言い,明暗サイクルが最も強く働きます。

 ヒトにおいて,自由継続が同調されないと(先程の明るさ変化が無く時計も無い部屋にいると),サーカディアンリズムの位相が後退していきます。すなわち,ヒトにとっての朝だと思っている時間が,昼の方にシフトしていきます。つまり,起きる時間や寝る時間が,実際の時間(地球上の時間)に対してどんどん遅くなっていくのです。本人は,朝に起床しているつもりでも昼に起床し,夜に就床しているつもりでも夜中に就床しています。更にずれると,朝に起床しているつもりでも夜に起床し,夜に就床しているつもりでも翌日の昼に就床しています。そこで,正常なサーカディアンリズム(24時間周期)を手に入れるには,自由継続を同調因子により同調させサーカディアンリズムの位相を前進させなければなりません。

 我々が正常なサーカディアンリズム(24時間周期)を手に入れる最も基本的なことは,朝,屋外に出て日光に当たることです。また,夜に強い光に当たらないようにすることです。午前中に強い光に当たると,サーカディアンリズムの位相が前進します。一方,夕方以降に強い光に当たるとサーカディアンリズムの位相は後退します。もう少し詳しく説明しますと,深部体温の最低時刻を午前4時,日の出を午前6時頃とすると,7時くらいの日光浴は位相を4時間近く前進させます。午前10時頃では1〜2時間前進させます。その後,正午までの日光浴は位相を前進させます。また,5時以降では,位相を数十分〜1時間後退させ,夜の7〜8時の高強度光で3時間ほど後退します。そして深夜3時では位相を7〜8時間も後退させます。夜間の強い光は厳禁です。上記記載の,午前中の光刺激と午後の光刺激を上手く組み合わせると,清々しく起床することが出来る時間を身に付けることが出来ます。

 また,起床後2時間以内に摂食することも同調を助けます。これらの同調により自由継続を短くし,正常なサーカディアンリズム(24時間周期)を手に入れることができます。 理想的な明暗サイクルによる同調のコツは,朝起き(6〜7時位)をし,1〜2時間以内に朝食をとり,朝食後1時間後に排便をし(朝食後1時間程度で,腸の蠕動運動が誘発されます),8〜9時頃に外光を充分浴び,夜は,7〜8時以降強い光を浴びないことです。注意しなければならないことは,起床時間と,最初に外光を浴びる時間を固定することです。

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