第4回 寝室の環境を変えて,良質の睡眠を手に入れる!

 今回は,睡眠に最適な寝室の環境についてお話しします。これまで,学習したことをしっかり記憶に留めるために良質の睡眠の重要であること,そして,良質の睡眠を得る上で朝・夕の過ごし方が重要であることをお話ししてきました。更に,今回お話しする寝室の環境や布団の中の状態も,良質の睡眠を得る上で非常に重要な要因になります。ここで,布団の中の状態を寝床内気候(しんしょうないきこう)といいます。寝床内気候は,就寝した時の人と寝具の間にできる空間の温度と湿度を指します。最適な寝室環境や寝床内気候は,比較的容易に手に入れることが出来ますので,ぜひ参考にして下さい。これにより,記憶力のアップのみならず,睡眠時の「熟睡感」と朝起きる時の「爽快感」を手に入れることが期待できます。

 睡眠に影響する環境要因は,大きく分けて物理的環境条件と化学的環境条件に分けられます。物理的環境条件には,温湿度,光,音および機械刺激などがあります。化学的環境条件には,香などが挙げられます。

 まず,温湿度に関して説明します。睡眠時には体温が下がります。これによって,昼間の活動によりオーバーヒート気味になった身体や脳を冷却し,休息・修復するのです。言い換えると,就床の少し前から体温は低下し始めますが,入眠後も深部体温は速やかに低下し,その後,起床に向けて徐々に昼間の体温に戻ることが必要となります。それでは寝床内気候の最適値はいくらかと言うと,一般的には,温度32~34℃,湿度50±10%です。睡眠時の温湿度は,寝室環境と寝床内気候で異なることに注意して下さい。つまり人が直接影響を受ける寝床内気候は,人の体温や汗が寝具の透過性によって,寝具内に保持されたり,あるいは寝具から外部に発散されことによってつくられます。しかし,寝室環境の温湿度が寝具を介して人に到達することによっても影響されます。

 我々の温度感覚は,裸でいて暑くもなく寒くもない温度(中性温度)は約29℃です。就床中は深部体温や代謝が低下するので,寝具や寝衣により29℃より若干高めの温度32~34℃,湿度50±10%を維持することが理想です。さて,寝床内気候を温度32~34℃,湿度50±10%にするには寝室環境はいくら位にすればよいのでしょう。寝具や寝衣の保温・保湿特性や,毛布を掛けるか,あるいは布団を何枚掛けるかなどで異なりますが,理想的には,室温を26℃とし,湿度を50~60%にして,この寝室環境に合わせて寝具や寝衣を調整することによって寝床内気候を温度32~34℃,湿度50±10%にします。

 もし寝室環境・寝床内気候が高温環境になってしまうと,レム睡眠と深いノンレム睡眠が減少します。特に睡眠前半の覚醒が増えます。つまり,脳を休めたり修復する,あるいは恐怖記憶を消去する睡眠が減少します。そして記憶の定着に重要な睡眠が減少数するのです。また,寝室環境・寝床内気候が低温環境では,レム睡眠が減少します。特に睡眠後半での影響が大きいのです。高温環境と低温環境では,低温環境の方が睡眠に与える悪影響は大きいのですが,普通は寝具や寝衣により低温環境は是正されるので,正しく寝具や寝衣を利用した場合,室温は3℃以上であれば睡眠に影響は少ないようです。以上のことから,寝室環境をエアコンで室温26℃,湿度50~60%にする場合,一晩中,もしくは夜の前半にエアコンを使用し,タイマーで後半に停止するといった使い方を推奨します。

 次に,光環境について説明します。前回までの説明で光が睡眠関連ホルモンのメラトニンの分泌を抑制することをお話ししました。光は寝ている間にも睡眠を阻害します。寝室内照度は, 0.3ルクスで睡眠の深さおよび熟睡感でともに良好な睡眠が得られます。30.0ルクス以上で,レム睡眠や深いノンレム睡眠が減少します。特に睡眠後半で影響が大きいのです。ちなみに,月明かりは約0.5~1.0ルクス,ロウソクを近くで見ると10~15ルクス,街灯下で50~100ルクス,室内照明では300~500ルクスになります。0.3ルクスというと障子やレースのカーテン越しの月明かり位です。また,枕元から離れた場所に豆電球を付ける程度も良いでしょう。朝早起きして勉強しようと考えて部屋の照明を付けたまま寝るなど以ての外です。また,0.0ルクスの暗黒状態は,心理的不安感などから睡眠深度は低下しますので注意が必要です。

 音環境は,・・・・音楽やラジオを掛けたまま寝たりしていませんか?・・・・睡眠は40デシベル以上で,寝付きが悪くなるとともに,覚醒と浅いノンレム睡眠が増加します。このことはレム睡眠や深いノンレム睡眠の減少につながります。置き時計の秒針音は20デシベル,ささやき声は30デシベル,深夜の市街地では40デシベル,普通の会話は60デシベル位になります。ちなみに電気のスイッチを入れる音は48デシベル,切る音は56デシベルと言われていますから,先ほどの光環境でも述べましたが,寝る時は必ず電気を消してから(スイッチを切ってから)床に付きましょう!

 機械刺激で睡眠に関連したものには,寝具や寝衣の質感があります。肌触り,堅さ,重量などの機械刺激要素が重要なのです。ヒトの皮膚の感覚細胞は,持続的な接触刺激や圧迫刺激に対しては順応し,最初は感じていても次第に感じなくなります。例えば服を着ていて,最初は着衣感があっても次第に感じなくなり,服を着ているのを忘れるものです。一方,間欠的な刺激,例えば強い摩擦刺激や反復刺激は,睡眠を阻害します。寝返りの度に,寝具がガサガサ(音刺激)したり,身体に絡みついたり擦れたり(機械刺激)すると,睡眠深度が維持できません。肩が出たりして寝床内気候が乱れるのも問題ですので,首元を柔らかく包み込むものが良いでしょう。敷き布団は,適度な堅さ,身体の支持性,寝返りのし易さ,保温性などがあるものが好ましいです。掛け布団は,軽く,柔らかく,そして吸湿性・放湿性があるものが好ましいです。また,寝衣は,肌触りが重要で,柔らかく,身体を締め付けないものが好ましいです。寝衣の肌触り良いと布団が少々固くても入眠が容易であると言われています。

 最後に,化学的環境条件の一つ,香りに関してお話しします。ラベンダーやカモミールなどの香りは,鎮静作用があり,高ぶった気分を沈め入眠を容易にしてくれます。また,ヒノキなど木の香り(森の香り)も効果的です。睡眠前に,ジャスミンやペパーミントなどの香りをかぐと目が覚めてしまいますから注意して下さい。私の研究室でも,アロマテラピーの実験をしてこれらの効果を確認しています。ただし,香りによっては,体調に強く影響するものもあるので,皆さんが自身に合っているか確認した上で使用して下さい。

せっかく寝るのですから,快適な睡眠環境を整えて,寝ましょう!

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