【対談】カーボンニュートラルの実現へ
エネルギー変換材料研究の最前線
「エネルギーの未来に研究力で立ち向かう」

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2024.3.21
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私たちの住む地球が持続可能であるために、全世界的な達成目標として掲げられた「カーボンニュートラル」。実現には、一人ひとりの意識の改善とともに、「科学」という大きな力が必要です。甲南大学では、理工学部機能分子化学科に所属する四人の教員が集まって自発的に立ち上がった「エネルギー変換材料研究所」がこの社会的課題の解決へ向けて活動しています。専門分野の違うメンバーがどのように研究に取り組み、どう結びつきながらプロジェクトを推進しているのか、研究所の成り立ちと今後のビジョンも含めて、二人の先生に語っていただきました。

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

今回は特別編として、エネルギー変換材料研究所のメンバーである山本雅博教授と木本篤志准教授の対談をお届けします!

 

 

山本教授

 

山本:まず、研究所のメンバーを紹介します。右から池田茂先生、所長の町田信也先生、そして私山本、木本篤志先生です。4人とも理工学部機能分子化学科に所属しています。

 

 

山本:研究所の発足経緯ですが、実は以前からメンバー間での共同研究は行われていました。私の専門は計算科学・量子化学で、町田先生と一緒に、蓄電池内でのイオンの動態を量子力学に基づいた計算で予測して電池の性能を向上させるためのイオン移動経路の解析に関する研究をしていました。

 

 

木本准教授

 

木本:私の専門は有機太陽電池ですが、池田先生と一緒に水素エネルギーの発生効率を高めるために無機化合物からなる光触媒と有機化合物とのハイブリッド化を実現する道を模索していました。

 

 

山本:そのような四人が意見と情報を交換するうちに、昨今の環境・エネルギー分野で材料科学に関する研究や人材のニーズが高まっていることを再認識して、そのプラットフォームとして、分野横断型の研究所を立ち上げようということになりました。

 

 

木本:蓄電池や太陽電池などは脱炭素・エネルギー効率化社会において重要な役割を果たすとされていますが、私たちはそういったデバイスを構成する材料を進化させることで、性能を大きく高められればと考えています。こういった成果は次世代のクリーンエネルギーである水素ガスの製造なども含むもので、トータルに考えてSDGsに資するものだと思います。研究所としては、私たちは四人とも専門分野が異なるので、研究成果を融合できる可能性を秘めている点が大きな特徴ですね。

 

 

山本:通常はプロジェクトというと中心になる研究者とそのサポート役で構成されるケースが多いのですが、私たちは四人全員がプレイヤーなので、研究成果をもち寄って、互いにヒントを与え合うことができます。蓄電池、光触媒、太陽電池、高次計算と入口が4つあって、どこからでもインプットもアウトプットもできる点がほかとは違っていると思います。

 

 

 

【参考記事】

【世界で開発戦争、勃発!?】日本のお家芸・素材開発で再び世界をリードできるか。(町田信也教授・所長)

カーボンニュートラル実現への道【第2弾】「水素」と「光触媒」が世界のエネルギー問題を解決する!?(池田茂教授)

●「私たちの行動が未来を救う!?カーボンニュートラル実現への道」

 

 

 

お二人はどんな研究に携わっているのでしょうか。

 

 

木本:私は、これまで利用できなかった近赤外光を使って発電できる有機半導体材料を研究しています。太陽エネルギーを利用する場合、今の材料だと太陽光の中でも可視光領域をターゲットとしており、それ以外の波長領域の光は発電に使われていなかったのですが、そういったこれまで活用されていなかった光を発電に使える有機半導体材料を使えば、発電特性が上がります。有機半導体材料というのは溶液(インキ)状にして他の基板にコーティングなどもできて、それがそのまま太陽電池へと展開できます。たとえば柔軟なプラスチック製の基板を用いれば、フレキシブルな太陽電池を作ることが可能となり、産業的にも活用範囲が広いです。山本先生のご専門は、私たちの研究を側面支援というか、底上げしていただいていると表現すべきか、説明が少し難しいですね。

 

 

山本:みなさんの研究には膨大な計測や実験が必要な場合が多いので、それを実際にやるのではなく理論上のシミュレーションを行う研究をしています。わかりやすい例で言いますと、自動車の衝突試験でこれまでは車体を実際に衝突させて実験をしていましたが今はコンピュータ上での衝突試験による計算結果が実験結果と完全に一致するのでコストと時間が大幅に圧縮できるのです。木本先生は池田先生とのタッグで面白いことに挑んでおられますよね?

 

 

木本:池田先生の開発している光触媒は無機化合物ですが、そこに私が研究している有機半導体をコーティングして、光触媒単独では吸収できない波長領域の光を吸収して光触媒反応を起こすことをねらっています。もしこれが実現できれば、太陽光でより効率よく水素ガスを発生させることができますので、重要な設計戦略として提案できると考えています。しかし、まだまだ越えなければならない問題も多く現在模索している段階です。

 

 

先生方の連携のエピソードにはどんなものがありますか?

 

 

山本:私は町田先生とリチウム電池内のリチウムイオンの動態を計算科学的に予測する手法を開発していますが、これが確立できれば今より高容量、大電流でしかも安全な蓄電池を作ることができます。あとはある物質を入れると蓄電池のパフォーマンスが非常に高まることが分かったのですが、その理由がまだわかっていないので、現在、究明中です。また、池田先生をサポートして、光触媒の半導体の電子状態を割り出すための計算にも取り組んでいます。

 

 

木本:私は池田先生と先ほど話したハイブリッド光触媒の研究を今後も共同でやっていきます。山本先生には、今後、有機化合物の中でも金属原子の入った特殊な組成を有する化合物の計算を手伝っていただく可能性があります。私たちは垂直統合ではなく水平連携だから、どこから意外なテーマが浮上するかわからないところがある。そこが面白いと思います。それと、お互いがそれぞれの専門領域の知り合いも大勢いるので、最新の情報や知見もつなげて広げていくことができます。この間も池田先生の知り合いの先生を通じて得た情報からヒントを得て新しいハイブリッド型の素子のアイデアが生まれたので、研究費を申請して進めていくことになりました。このような融合的な連携がこの枠組みの中で今後もいろいろあると思っています。

 

 

山本:異なる学域での協働は、国が絡んだ大きなプロジェクトでもあるのですが、そんな場合は構成メンバーのスケジューリングさえ大変なんです。それが学内の隣の研究室にメンバーがいるので思いついたらちょっとお茶を飲みながら相談できるのはとてもいいと思います。

 

 

 

 

世の中にどのように貢献できるとお考えですか。

 

 

木本:カーボンニュートラルやエネルギーの効率化はさまざまな考え方、とらえ方がありますが、「エネルギー材料」という立脚点があれば、コンセプトがより明確になり、社会に有用なアイデアを出していきやすいと思います。

 

 

山本:単純に産業製品ということでも、蓄電池も太陽電池も水素ガスも、コストと効率の点で国際間の競合は激しいわけですから、私たちの研究は国を引っ張る産業への貢献にもつながっていくでしょう。

 

 

木本:新素材の開発は化学だけではなく物理、工学、医療などさまざまな科学の発展に資する、波及効果の高いものです。特に材料科学のいいところは製品として実装化されるスピードが早いことです。他の研究分野に比べてはるかに早い。このプロジェクトで得られた成果もうまくいけば1、2年で産業の最前線に躍り出る可能性もあります。

 

 

山本:連携でアウトプットが多いとそれだけ実装化の道筋も増えるわけです。

 

 

 

教育機関として学生への影響についてはいかがでしょう?

 

 

山本:一つの課題に対して異なる分野・視点からのアプローチが生まれるので、刺激的な議論ができる。そのことはよい影響を与えるのではないでしょうか。

 

 

木本:私たちは研究所として自分の研究を外にアピールする、いわばブランド力をつけることが求められるのですが、その姿を見て学生が学べることは結構あると思います。

 

 

山本:それは社会に出てから必要な力でもありますからね。

 

 

 

最後に研究所の今後について一言お願いします!

 

 

山本:私たちは四人とも化学畑の人間ですが、「エネルギー材料」をキーワードに、地学とか物理学とか他のレイヤーが入ってくると一層興味深くなると思います。一見お互い関連のなさそうな要素の重ね合わせによって新しいベクトルをつくっていけるはずです。

 

 

木本:「甲南新世紀戦略研究プロジェクト」に採択されたことを機に、いろいろ巻き込んでさまざまな面で楽しい研究所にしていきたいと思います。

 

 

山本:最後にお知らせですが、2026年4月、理工学部に「環境・エネルギー工学科」を設置構想中です。詳細は確定次第、甲南大学のホームページでお知らせします。

 

 

 

KONAN-PLANET 記者

 

本日は2人の先生による対談をお届けしました! 今後の取り組みや新しい学科にも注目です!

 

 

本記事は学園広報誌「Konan Today No.65」に掲載中の 「なるほど!甲南アカデミア 特別編」を再編集しています。

 

 

 

 

 

 

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