DNAは運命の相手と出会い、結ばれる!−UndruggableをDruggableにする核酸医薬品の開発−。フロンティアサイエンス学部 生命化学科 川上 純司 (核酸化学 / 物理系薬学)

薬学の専門家で、核酸医薬について研究している川上純司教授にお話を伺いました。

About Me ( KAWAKAMI Junji )

研究室名は遺伝子薬学研究室で、専門分野は遺伝情報を標的とした薬学です。もともとは核酸(DNAやRNA)の多様な構造形成とその性質を研究していましたが、私が大学院の修士課程2年の時にアンチセンスDNA/RNA研究会が発足し、DNAやRNAを薬として使えるかもしれないというアイデアが実用化に向かって一歩踏み出しました。これを機に、研究会の代表を務めておられた先生の門下に加わり、博士課程では現在の核酸医薬へ繫がる研究を始めました。アンチセンスDNA/RNA研究会が発展的に日本核酸医薬学会へ改組した2015年から学会の事務局長を任せて頂いており、学生時代に芽生えた興味と深い関わりを持ち続けることができている幸せを感じています。

Research

An antisense DNA binds only to its destined partner.

これまでの医薬品は病因タンパク質を標的とし、そのタンパク質に結合して機能制御する化合物が探索され、利用されてきました。しかし、ヒトの体内にある数万種類ものタンパク質の中から標的タンパク質にだけ結合する化合物が見つかることは稀であり、通常は目的以外のタンパク質にも結合してしまい副作用をもたらします。

アンチセンス型の核酸医薬品は、核酸の厳密な相補鎖認識能を利用して、主にmRNA(センス)に結合し、標的タンパク質の機能を阻害することを目的とした分子です。核酸医薬品はセントラルドグマの上流にある遺伝情報を標的とすることができるため、共通性の高い開発ストラテジーであらゆる標的タンパク質に対する薬剤を創り出すことができます。また、一本鎖のDNAやRNAが自分の運命の相手(相補鎖核酸)とだけ結ばれて二重らせん構造を形成する性質を利用することで、既存の医薬品よりも格段に副作用が少ない医薬品になると考えられています。

Oligonucleotide Therapeutics make “undruggable” druggable.

このような既存の医薬品と全く異なる特性と作用メカニズムをもつ核酸医薬品は、これまで「undruggable(創薬不可能)」と呼ばれてきたありとあらゆる難治性疾患に対する治療を可能にすると期待されていますが、非常に高価であることが大きなネックです。例えば、数年前に承認された神経変性疾患に対する核酸医薬品には、一円玉と同じ1gで7億4千万円もの値段がついています。これは、医薬品の価格に多額の研究開発費用が上乗せされていることが大きな要因です。我々は核酸医薬品がどのような塩基配列をもち、どのような化学修飾をどこに施せば有効な医薬品となり得るかを、試行錯誤せずとも予測できる手法の開発を行っています。我々の研究の先には、これまで治療の手段がなく絶望の淵にあった多くの患者さんのもとに、安価な核酸医薬品が届く未来が待っていると信じています。

KONAN’s Value

甲南大学は「旧制高校」「文系」のイメージが強いですが、経営者の子息が多く巣立ったという歴史は理系の企業にも影響を与えています。現在、核酸医薬品の品質基準を設定するという国家プロジェクトで30社を超える理系企業とご一緒しているのですが、甲南大学と関係のある企業が多いことに驚かされます。また、フロンティアサイエンス学部のあるポートアイランドは医療産業都市として理系企業が多く集積し、「ご近所さん」と共同研究を実施することができる垣根の低い環境が実現しています。学生さんが測定試料をぶら下げて共同研究企業の研究所に徒歩で向かうという光景は、国内を探しても他所ではなかなか見られるものではないと思います。

Private

若い頃は大型バイクでのツーリングが好きでしたが、最近では休みの日は文房具収集に時間を使うことが多いです。ターゲットは主に古い鉛筆と古い万年筆。昔から営業しているとおぼしき佇まいの文房具屋さんを探して歩き、デッドストックを出してもらって宝探しをしていると、あっという間に時間が経ってしまいます。オークションサイトで1本数千円する鉛筆を落札しては、「誰もこの古ぼけた鉛筆に価値があるとは思わないだろうな」とほくそ笑みつつ、普通に削って使っています。また、万年筆のインクは色素を調合して好みの色を自作しています。

Profile

フロンティアサイエンス学部 生命化学科 教授

川上 純司

KAWAKAMI Junji

専門領域
核酸化学、物理系薬学

キャリア
大阪大学 薬学部 卒
大阪大学大学院 薬学研究科、北海道大学大学院 薬学研究科 修了、博士(薬学)
甲南大学 フロンティアサイエンス学部 生命化学科 教授
大阪大学大学院 薬学研究科 招へい教授
甲南大学 核酸医薬研究所 所長

所属学会
日本核酸医薬学会 評議員、主任幹事、事務局長
日本核酸化学会 評議員
日本薬学会
日本化学会
日本分子生物学会
高分子学会
RNA Society