英文学/演劇の専門家で、シェイクスピアを中心としたエリザベス朝演劇を研究されている杉浦裕子教授にお話を伺いました。
About Me ( SUGIURA Yuko )
シェイクスピアを中心としたエリザベス朝演劇を研究しています。
演劇に対する興味は中学時代にハマった漫画『ガラスの仮面』がきっかけです。そして大学の英文科でシェイクスピアのゼミに入ったのですが、ちょうどその頃、シェイクスピア作品の優れた映画版の数々が公開され、その面白さにすっかり魅了されました。演劇は、テクストがセリフで構成されており、行間を自由に想像して膨らませることができます。どういう状況で、どういう間を置き、どういう気持ちを込めてセリフを発するかによって変幻自在の上演が可能になります。また、映画版と舞台版とでそれぞれ違う特色もあるし、時代設定、場所設定、ジェンダー設定、伝統芸能との組合せ、ステージの形状などを自由に変えることで無限の解釈が可能になります。同じ上演でもその日の観客の反応によって劇場の雰囲気や役者の演技も変わってきます。上演されることで常に新しい要素が加わるのが面白いところです。
しかし、シェイクスピア劇の本当の魅力は、人生という芝居の儚さと深淵、愛しくも愚かな人間という存在、物事を相対的に見る眼などを教えてくれる所にあると思っています。400年以上の時を経てもストーリーが決して表層的ではなく、いろんな隠し球を持っていて、様々な立場にいるはずの観る人・読む人の心を打つというのは、やはり並はずれたことだと思います。昭和時代の演劇でも、令和の現代に観ると価値観が時代に合わなくて受け付けないことはあります。でもシェイクスピア劇はそうならないのです。シェイクスピアの研究というのは様々なアプローチ方法があり、それは広大な海のようで、それぞれの研究者が自分の研究方法・アプローチというのを探してもがいていますが、おそらく全員に共通しているのはシンプルにシェイクスピア劇が好きだ、シェイクスピア劇を観て感動した、という気持ち/経験だと思います。一ファンとして、これからも魅力を学生たちに伝えていきたいと思います。
Research
Boys’ Companies and Theatre Studies around Shakespeare
「シェイクスピア劇におけるイリュージョン」というテーマで博士論文を完成させた後は、もう少しシェイクスピアの周辺を研究することで、エリザベス朝演劇全体について視野を広げようと努めてきました。
その一つが少年劇団研究です。シェイクスピアは少年劇団に劇を提供しておりませんが、同時代の劇作家の多くは、成人劇団だけではなく少年劇団にも劇を提供しました。少年劇団によって上演された劇は、それを上演した媒体(少年俳優たちの立場の危うさと曖昧性)をも加味することで、劇の解釈の幅が広がります。これまで、ジョン・リリー、ベン・ジョンソン、ジョン・マーストン、フランシス・ボーモント、トマス・ミドルトンらの劇を、少年劇団という観点から論じてきました。
もう一つは、シェイクスピア前後の戯曲の研究です。これは鹿児島に赴任していた時から鹿児島在住の研究者仲間と長期にわたって行ってきた翻訳プロジェクト研究で、具体的には、シェイクスピアが活躍し出すよりも前に書かれた戯曲の翻訳および解説を所収した『近代初期イギリス演劇選集』を2023年に、シェイクスピアの死後の彼の改作劇の翻訳および解説を所収した『王政復古期シェイクスピア改作戯曲選集』を2018年に、それぞれ共訳で出版しました。現在はシェイクスピアの外典と言われる作品の翻訳プロジェクトを遂行中です。
最近では、法学院劇をもう少し調べてみたいと思っているのと、科研費のグループ研究として18世紀におけるシェイクスピア崇拝も研究しております。私はエリザベス・モンタギューという、18世紀のブルーストッキング・レディーズの一人が行ったシェイクスピア批評に着目しています。
こうして、シェイクスピアの周辺に視野を広げつつも、ゼミや講義ではシェイクスピア作品を読んでいますし、時々シェイクスピア劇で論文も書いております。

KONAN’s Value
甲南大学に赴任して、やはり「文学部」という場所で研究できることのありがたさを感じています。イギリスの文学・歴史・文化を専門とする同僚や、アメリカ文学・文化、言語学の同僚から受ける刺激ももちろんですが、学科を超えて文学・思想・美術・歴史など、それぞれの分野の先生方の学問に触れる機会や交流を通して、「人文学」という大きな学問の船に自分も乗っているように感じることで、自らの学問の土台も安定したように思います。
文学部に入ってくる学生さんたちには、学科の中の様々な授業、あるいは学科を超えて様々な授業を受けていく中で、授業を超えて繋がる要素がだんだん見えてくると思います。学問は大きな海ですから、簡単には測れないけれど、そもそも簡単にわかった気になる必要もないものです。よくわからないものの中から浮かび上がってくる何か、繋がってくる何かを感じ取り、思考し、時代の流れに翻弄されない軸を自分の中につくっていってほしいと思います。
Private
趣味は大人のバレエと野球観戦、観劇です。バレエは30代の頃に始め、体幹やバランス感覚を鍛えるのに役立っていると思います。お陰で片足を骨折したときにももう片足で立つのが苦ではありませんでした。
野球観戦は物心ついた時から高校野球もプロ野球もずっと見てきたので、自然と生活の一部でした。地元が福岡なので福岡ソフトバンクホークスを応援していますが、西宮在住なので甲子園に阪神戦や高校野球を見に行くこともあります。野球を観ていると試合の「流れ」というのがあります。その「流れ」の意識が日々の授業でも活かされているかも??
年に数回は観劇をしています。ミュージカルも大好きです。観劇の趣味はもちろん今の仕事と密接に絡んでいますが、もし人生をやり直すなら、劇場の舞台裏で働くスタッフになりたいですね。裏方として役者さんたちと一緒に作品を作り上げるということをやってみたいです。

Profile

文学部英語英米文学科 教授
杉浦 裕子
SUGIURA Yuko
専門領域
英文学/演劇
キャリア
バーミンガム大学大学院シェイクスピア研究所 修士課程修了、MA
福岡女子大学大学院 文学研究科 博士課程修了、博士(文学)
志學館大学講師
鳴門教育大学准教授
所属学会
日本シェイクスピア協会
日本英文学会
日本英文学会関西支部
European Shakespeare Research Association