細胞の中の分子のふるまいを見てきたかのように理解したい。フロンティアサイエンス学部 三好 大輔(分子設計化学、核酸化学)

核酸を中心とする生体分子研究の専門家で、分子設計化学、核酸化学について研究している三好大輔教授にお話を伺いました。

About Me ( MIYOSHI Daisuke )

私は核酸を中心とする生体分子を化学的に研究しています。特に細胞の中で核酸(DNAやRNA)の挙動に興味があります。核酸が細胞の中でどのような構造を形成しているのか、それが細胞の機能にどのように影響するのか、などを長らく研究しています。最近では、核酸を狙った創薬研究にも、学部内外の先生方と共同で取り組んでいます。

Research

Is that really correct?

小学校、中学校、高校、大学と理科を勉強してきましたが、習ったことに疑問をもつことはありませんでした。ですが研究は「それって本当に正しい?」と思うことも大切だと思っています。

大学院生のころ、他大学の研究所のセミナーに定期的に参加していました。ある時、その日のプログラムが終了した後に、予定になかった先生が短い講演をされました。その中で、細胞の中のように分子の込み合った環境(分子クラウディングといいます)では、酵素活性が向上するということを述べられました。研究室に帰って調べてみると、分子クラウディングは細胞の中と試験管の中の分子環境として最も大きく異なる点であることを知りました。このような環境中で核酸は二重らせん構造を保持できるのだろうか?と疑問に思い研究を始めました。そうすると、試験管の中では二重らせん構造を形成する核酸が、細胞に似た分子クラウディング中では、四重らせん構造という特殊な構造を形成していることがわかりました。

二重らせん構造は核酸の標準構造として知られていて、この構造を疑う人はほとんどいませんでした。しかし、二重らせん以外の構造が形成されることがあると示されたのです。当時の自分には、目から鱗が落ちるような体験で、当たり前と思っていることに疑問を抱くことの大切さを教えてくれた出来事でした。

Is that really how it works?

研究を進めるうえで、「それって本当にそうなってる?」と思うこともとても重要だと思います。生化学や分子生物学の講義では、化学反応が矢印だけで示されます。しかし、上述のように細胞の中は、多種多様な分子が高濃度に存在する分子クラウディング環境にあります。こんな複雑な環境の中で生体分子どうしの結合や反応が進むものでしょうか?さらに、こんな環境にある細胞内で無数に進行しているプロセスが生体分子間の相互作用だけで説明できるのでしょうか? この疑問を解決するために、最近では生体分子が自発的に集まって形成する、「液滴する液液相分離」という現象に注目しています。液液相分離とは、均一な溶液が自発的に水と油のように二相以上に分離する現象です。液液相分離によって選択的に液滴に生体分子が集積することで、複雑なプロセスが液滴内で進んでいると考えられます。また、前述の核酸の四重らせん構造が液液相分離のカギを握ることも明らかにしました。以上のように、「分かったつもり」にならないことが新しい研究のきっかけにつながることがあると感じています。

KONAN’s Value

甲南大学の特徴の一つに少人数教育があると思います。学生さんと教員の距離が近いことを利用して、上述のような疑問をどんどん深く考えていく環境が整っていると思います。特にフロンティアサイエンス学部では幅広い専門分野の教員が同じ建物の中に揃っていますから、分かっていないことを明らかにすることができると感じています。わかっていないことを明らかにできれば、勉強や研究の方向性が定まります。甲南大学は、いろいろな「分かっていない」ことを自らの手で解明するのに最適な大学であると思っています。

Private

子供もすっかり大きくなりました。週末はすることもないので、歳を取ってからランニングを始めました。若いころはバスケ、ラグビー、スキーなどをしていました。走るだけなんて何が面白いの?と思っていたのですが、今では週末は犬の散歩とランニングです。 マラソンと研究は少し似ているかもしれません。練習(実験)計画を立てて、練習(実験)して、大会(学会)に出て、反省して、、、を繰り返します。練習(研究)をさぼらないようにマラソン大会(学会)にも赴きます。多くの場合は満足な結果にはなりませんが、いい結果(タイム・実験結果)のこともあります。マラソンもいいですが、山の中で行うトレイルランニングも楽しいです。トレイルランニングは同じ距離でもコースや天候によって状況が大きく変わるので、長時間のレースも飽きませんし、あまりタイムも気になりません。研究に関しても、その時々の状況に問題に対応しつつ、、マイペースで進めていきたいと思っています。

あと、「Research」のところにある4枚の絵は、当研究室から2024年度に刊行された論文うち、論文が掲載されたジャーナル(専門誌)のカバーアート(表紙絵)として採用されたものです。「細胞の中の分子のふるまいを見てきたかのように理解したい」というモチベーションを妄想で満たすために、論文内で使用したデータに基づきながらこのような絵を自分で描いています。

Profile

フロンティアサイエンス学部 教授

三好 大輔

MIYOSHI Daisuke

専門領域
分子設計化学、核酸化学

キャリア
甲南大学自然科学研究科博士課程修了
米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校博士研究員
甲南大学先端生命工学研究所専任講師
甲南大学フロンティアサイエンス学部准教授、教授

所属学協会
日本化学会、米国化学会、日本核酸化学会(評議員)、日本ナノメディシン交流協会(理事)など