甲南大学の研究力

原生生物ラビリンチュラ類の
海洋生態系における役割
原生生物ラビリンチュラ類の海洋生態系における役割            〜魚類のDHAはどこからくるのか〜

理工学部 生物学科
統合ニューロバイオロジー研究所
教授

本多 大輔
ラビリンチュラ類はDHAなどの脂質を蓄積する

ドコサヘキサエン酸(DHA)は、イワシやマグロなどの青背の魚などに豊富に含まれている不飽和脂肪酸で、ヒトでは母乳に含まれ、眼や脳などの発達やはたらきに重要であることが知られています。しかし,我々はDHAを体内で十分に合成できないので、魚類などを食べることで得ています。それでは,魚類は?というと、ヒトと同様に合成できないので、食物連鎖を通して得ているはずですが,その供給源については不明な部分が多いのが現状です。 ラビリンチュラ類は、沿岸域から外洋、熱帯から極域、表層から深海まで、あらゆる海洋環境中に生息している直径10 µm程度の単細胞真核生物です。この生物はDHAを高濃度に蓄積することが明らかとなっており、海洋生態系におけるDHAの供給源の候補として注目されてきました。

ラビリンチュラ類は微細藻類を「捕食」する

ラビリンチュラ類は、植物の細胞壁の主成分であるセルロースやリグニンなどに対する分解酵素を分泌し、落ち葉などに由来する有機物が豊富な河口域に多く生息することなどから、枯死した植物に対する分解者として認識されてきました。一方、海洋全体では植物プランクトンが大きなバイオマスをもっているため、珪藻などを栄養源としているか調査しました。その結果、アプラノキトリウム属に分類されるラビリンチュラ類は、生きている多様な微細藻類を攻撃して栄養摂取していることが観察されました。珪藻類だけでも地球上の光合成による全生産量の20%を担うと言われるため、アプラノキトリウム類は、海洋生態系に大きな影響力を持っていると考えられました。

海洋生態系の食物連鎖の新たな経路の発見

登録されている世界中の海洋の環境DNAのデータを精査することによって、やはりアプラノキトリウム類はラビリンチュラ類の主要群の1つであることがわかりました。また、他のラビリンチュラ類も多く存在しているため、これらの栄養源の調査も進めているところです。現在、環境DNAの網羅的解析や細胞数の推定、生物間のDHAなどの物質転送の測定などから、新たに認識された食物連鎖の経路の影響力を把握しようとしています。魚類のDHAの蓄積のしくみを理解することは、今後の漁獲量の予測などにもつながる可能性があります。また、ラビリンチュラ類を用いたDHAの工業的な生産などの実用化はすでに始まっています。

【研究助成】

○科学研究費助成事業 基盤研究(B)(2017年度~2019年度)

海洋生態系におけるラビリンチュラ類の役割の解明~魚類のDHAの起源を探る~

○科学研究費助成事業 基盤研究(C)(2014年度~2016年度)

ラビリンチュラ類の網羅的分離法の開発と,分離株に基づく分類体系の再整理

○科学研究費助成事業 基盤研究(C)(2011年度~2014年度)

海洋の真核微生物ラビリンチュラ類が生態環境中の物質循環に与える役割の解明

 

2019年度より掲載