新しい国際協力像の探究
ブータン山村での「純粋経験」を通して
新しい国際協力像の探究:ブータン山村での「純粋経験」を通して
マネジメント創造学部
マネジメント創造学科 教授
「純粋経験」としての国際協力とは?
私たちがきれいな花に見入っている時、花は別物として存在するというよりは、その花と自分が一体となったような心持ちになります。哲学者の西田幾多郎はこうした境地を「純粋経験」と呼んで、次のように言いました。世間では何かと「人類的事業」が称えられるが、日常の「純粋経験」を通して内から沸き出てくる動機も大事にしなくてはならない。このブータン山村での国際協力事業も、一研究者として調査をする中、住民や同郷人と親交を深め、いつの間にか意気投合して始まったという「純粋経験」としての国際協力です。国際協力機構(JICA)の協力のもと、乳製品加工(チーズ・バターづくり)を軸とした支援を学生たちと展開してきました。
新機軸の「内発的」な支援活動
国際協力は一般的に、普遍的価値(貧困撲滅、教育普及、人権尊重など)の増進を目指した「人類的事業」として行われます。しかしその目的が、支援を受ける側の要請や気持ちとずれる場合があります。他方の「純粋経験」としての国際協力では、関係者どうしが心を通い合わせながら実施されますので、そうした事態は起きにくくなります。普遍的価値が他所から課せられることもなく(もちろんそれが、当該社会のあり方に迎合するという弱みになってしまう場合もありますが)、関係者どうしで共有された動機を基にした自発的な活動となりやすいという長所があります。このブータン山村の事業は、まさにそうした「内発的」な活動となっています。
人どうしをつなげる国際協力
この事業の主体は村の若者で、それを支えるのが村出身の同郷人です。近くの町の工場で働いて得たノウハウを村に伝授する人、別の町で商工会議所に勤めながら育んだ人的ネットワークを活かして販売促進を手伝う人など、同郷人たちが活躍しています。村の若者も自ら資材を出し合って、工場脇のトイレや薪(調理用)置き場を建てました。特定の誰かが仕事を割り当てたわけでもなく、自然に起きた「内発的」な動きです。大変化をもたらすわけではありません。それでも地元産チーズ・バターづくりが始まって住民の所得は着実に向上し、学生たちもまた、人どうしの関係性や自然との共生を重んじる地元の生活様式から多くを学んできました。
【研究助成】
○科学研究費助成事業基盤研究(C)(2017年度~2020年度)
○国際協力機構(JICA)草の根技術協力事業(支援型)
「ブータン王国 シンカル村における所得向上と住民共助による生活基盤の継承・発展」
2018年度より掲載