甲南大学の研究力

植物に存在する謎めいた脂質の代謝デザイン
植物に存在する謎めいた脂質の代謝デザイン

理工学部 生物学科 教授

今井 博之
謎の脂質「スフィンゴ脂質」の分解代謝産物

スフィンゴ脂質という名前は、ギリシャ神話に出てくる謎かけ怪獣”スフィンクス”に由来するといわれています。スフィンゴ脂質は、LCBと呼ばれる成分を基本骨格に持つ脂質の総称で、最近、スフィンゴ脂質の分解代謝産物のひとつであるLCBのリン酸化物(LCBP)が、植物細胞内の情報伝達物質として働いているのではないかといわれています。しかし、LCBPは植物の生体内にごく微量しか存在しないため、LCBPが実際にどのぐらい存在するのかはまだよく分かっていませんでした。そこで私たちの研究室では、このLCBPを植物から効率よく抽出する方法を見出し、またLC-MS/MSという装置を使って、正確に定量する方法を開発しました。

植物バイオによる“セラミド”の生産

フィンゴ脂質代謝産物のひとつ“セラミド”は、我々ヒトをはじめとする哺乳動物にも存在し、特に皮膚の保湿のためのバリアー機能に重要な役割があるといわれています。私たちの研究室では、ゲノム編集技術を植物のスフィンゴ脂質代謝系に適用し、今までの手法では達成することが難しかった複雑な遺伝子の改変を進めています。このゲノム編集技術を使い、また、組織培養を含む植物の栽培条件についての研究を行うこによって、高付加価値性を持たせたセラミドを大量生産することができる植物の作出を目指しています。

植物に最も多いのに謎の多いスフィンゴ脂質

先ほど、植物の中にごく少量しか存在しないスフィンゴ脂質代謝物のLCBPを紹介しましたが、逆に、植物の中に最も多く存在するものは、GIPCと呼ばれる“セラミド”成分で、非常に複雑な構造を持ったスフィンゴ脂質です。そもそも、“脂質”とは何か?を大雑把に定義しますと「生き物が作る物質で、有機溶媒に溶けるもの」ではないかと思いますが、この植物GIPCは、一般的な有機溶媒に溶けないため、植物GIPCの研究は2000年代に入るまでほとんど進展しませんでした。最近ようやく、植物GIPCの構造や組成が基礎研究のレベルで明らかになり、私たちの研究室でも、LC-MS/MSという装置を使って詳細に解析しています。今後、植物GIPCの機能性素材(例えば、皮膚の保湿のためのバリアー機能の素材)としての実用化の可能性が広がるものと期待されています。

 

2019年度より掲載