障がい者のQoL向上を実現するために
障がい者のQoL向上を実現するために
経済学部 経済学科 教授
理想の社会を考えるために
一人でも多くの人々が幸せを実感できるような地域づくりには何が必要でしょうか。居心地の良い住宅やバリアフリーな道路といったハードな部分については、「建築」や「都市計画」、「土木」といった観点からさまざまな研究が行われていますが、満足度の高い教育や医療サービスなど、ソフトな部分の研究については、主に経済学が担っています。経済学の大きな目的は「理想の(地域)社会づくり」について考えること。その中でも障がい者に焦点を当て、彼ら彼女らが抱える課題を明らかにし、誰もが住みやすい地域を実現するための方策を検討することがこの研究の大きなテーマです。
住む場所で人々のQoLは違う?
経済学では、その人(国)の持つ「お金の量」を指標に「生活の豊かさ」を測ることが一般的です。人間はお金持ちになればなるほど、より大きな幸せを感じると考えることができるからです。ただ、それだけで本当に十分なのでしょうか。 私たちの研究では、人々の豊かさを測る指標としてQoL(Quality of Life)を用い分析を進めます。QoLはお金の多寡といった客観的な数量ではなく、その人が幸せを実感しているかどうかといった主観的な考え方を包含した指標です。この指標に基づいて分析すると「都会に住みお金をどんどん稼いでいる」人が必ずしも幸せではなく、そこに住んでいるさまざまな環境(医療サービスへのアクセス性など)に依存して生活の豊かさが決まることが明らかになっています。
障がい者のQoLを高めるために
何らかの障がいを抱える人々にとっては、その人を取り巻く社会環境がより大きくQoLに依存しますが、その中でも雇用環境は大きな課題の一つです。これまで障がい者の雇用の場を確保・拡大するためにさまざまな政策が行われてきましたが、雇用環境や支援体制に対する格差は決して小さくありません。SDGsの観点からも障がい者の生活水準の維持・向上は喫緊の課題ですが、その一方で障がい者に関する統計データは不十分で(海外と比べ)日本においては「障がい者がどのような生活環境に置かれているのか」を精緻に研究することが難しい状況です。今後は実地調査などで障がい者の置かれた現状を十分に把握したうえで、(海外比較も含め)既存統計を用いた分析を進めていく予定です。