スポーツ医・科学の力で人類をもっと幸せに。全学共通教育センター 曽我部 晋哉(スポーツ医・科学)

スポーツ医・科学の専門家で、子どもから高齢者、スポーツ愛好者からトップアスリートまで幅広くサポートし、国際的にも活躍している曽我部晋哉教授にお話しを伺いました。

About Me ( SOGABE Akitoshi )

スポーツ医・科学/スポーツ安全対策/国際スポーツ政策などを研究する専門家です。

トレーニング指導の専門資格であるJATI認定特別上級トレーニング指導者や、スポーツ現場におけるケガの予防・リハビリテーションを行うJSPO公認アスレティック・トレーナーなどの資格を持っています。スポーツは、競技力向上、発育発達、健康増進など様々な目的で実施されますが、その上で最も大切なことは安全です。スポーツを通じて、ケガなくその恩恵を受けられるよう医・科学の観点から研究し、幅広い世代の人々に伝えています。

トップアスリートに対しては、全日本柔道連盟(以下、全柔連)で様々な活動をしています。北京オリンピックやロンドンオリンピックでは全日本柔道女子チームのトレーニングを担当し、代表選手たちが一つでも多く金メダルを獲得できるよう科学的にサポートしました。

また、アスリートだけではなく、一般の人々の健康増進のための研究も行っています。中でも日本人に多い膝のO脚(なんと全体の40%以上!)のメカニズムについて調べています。このO脚は、将来、膝の骨が削れてしまう(変形性膝関節症と言います)原因となるので、「どうすれば膝に負担がかからないように歩けるのか?」などを研究し、安全な歩行方法などを提案しています。最近では、重大な事故やケガにつながりかねない「転倒」の予防法を研究し、日本のみならず世界にも広める活動をしています。

Research

3 Fun Facts

研究には「みんなの健康」「みんなの安全」「アスリートの競技力向上」の「3つの柱」があります。

1つ目の「みんなの健康」。これは、「健康寿命の延伸/QOL(生活の質)の向上」を表します。人々が健康に、そして心豊かに過ごせるように、痛みなく運動を楽しめるようスポーツ医学の見地からアプローチしています。例えば、日本人のO脚の改善。O脚とは、まっすぐ足をつけて立った状態で、膝と膝の間にすき間が出来る状態のことです(脚がアルファベットのOの状態)。生活習慣病予防の観点からジョギング・ウォーキングが推奨されていますが、O脚の人はかえって膝を痛めることがあります。そうすると、折角の運動が逆効果になってしまうのです。このように、その人にあった歩き方を提案することで、安全に運動に取り組めることが出来るようになります。

カンザス大学での膝への荷重の実験
カンザス大学での膝への荷重の実験

2つ目の「みんなの安全」は、「安全なスポーツ活動の実践/ケガや事故の予防」についての研究です。

10年以上にわたりベースボールマガジン社の『近代柔道』などで、トレーニング科学やスポーツ医学に関するコラムを連載してきました。基礎理論から最新の知見まで、理論に基づいて活動できるよう中・高生を対象にスポーツ医・科学の啓発に力を注いでいます。

また、日本文化の一つである柔道は、世界各国で幼児教育や人種・宗教問題などの解決に利用されています。私も全柔連の教育普及委員として現地を取材し、レポートしてきました。WHO(世界保健機関)によると、不慮の事故で亡くなられる人の原因の第2位が「転倒」と報告されています。毎年、幼児と高齢者を中心に多くの人が亡くなられているのです。ヨーロッパでは、この予防のために、「転倒予防プロジェクト」が推進されています。そこで利用されているのが「受け身」。そう、柔道の「受け身」なのです。現在、全柔連の転倒予防プロジェクトのリーダーとして、日本及び世界に転倒予防の理論を普及させようとしています。

高齢者の方々への転倒予防指導
高齢者の方々への転倒予防指導
オランダサッカートップリーグ“フィテッセ”での受け身トレーニング
オランダサッカートップリーグ“フィテッセ”での受け身トレーニング

3つ目は「アスリートの競技力向上」です。

これまでの知識と経験を活かし、「どうすれば最短で最大の効果が得られるのか」といったトレーニング方法を開発・実践してきました。競技でトップを目指せる時間は限られています。その限られた競技人生を有意義なものにするために、それぞれのゴールに対してアスリートが精一杯努力できるよう科学的に道筋を立てるようにしています。顧問・監督を務める体育会柔道部では、2022年度関西学生柔道優勝大会において創部初となる準優勝に導いています。

オリンピックチームへのトレーニング指導 (和歌山県:白浜)
オリンピックチームへのトレーニング指導
(和歌山県:白浜)

KONAN’s Value

甲南大学では、それぞれの学部で専門の学問を学びながら、最新の「スポーツ医・科学」を学ぶことが出来る「スポーツ健康副専攻」(2023年4月開設予定)が設置されていることが特徴です。この副専攻を修めると卒業時に副専攻修了証が授与されます。そのため、卒業後の進路としてスポーツ健康科学の専門家としての夢も膨らみます。また、1年次には「基礎体育学演習」が必修となっています。これは、理論と実技を学びながら、自分の健康をマネジメントできる能力を身に付け、生涯、健康で豊かな人生を送ってほしいという本学の願いが込められています。

Private

自然の中に身を置いて、空気や風景の移り変わり、植物の色など、ありのままの自然を感じることが大好きです。キャンプやスノーボードを通して、大自然の中に飛び込むことが出来、人間は大きな生態系の中の一部であることを感じます。そのことで、普段あまり意識を向けることがない健康や命の大切さを肌で感じることが出来ます。海外へ赴いた際は、現地のアウトドアショップを訪れ、現地の人との会話を楽しみながらその土地ならではのグッズを購入するのが大好きです。特にフィンランドで購入したJ.Marttiini(マルティニ)のナイフはお気に入りで、木を削ったり魚をさばいたり、シーンを問わず大活躍してくれています。物質的に豊かになった現代こそ余計なものを取り除いて、出来るだけシンプルに自然と共生する生き方を、次世代を担う子ども達にも伝えていきたいと思っています。

子ども達への自然教育
子ども達への自然教育
その土地ならではのグッズ
その土地ならではのグッズ

Profile

曽我部 晋哉

全学共通教育センター 教授

曽我部 晋哉

SOGABE Akitoshi

専門領域

スポーツ医・科学/スポーツ安全対策/国際スポーツ政策

学位

博士(スポーツ医学)

キャリア

筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科修了
クラクフ体育大学 客員研究員
イーデス・コーワン大学 客員研究員
西オーストラリア大学 客員研究員
フォートルイス大学 客員研究員
カンザス大学 客員研究員
兵庫県アスレティック・トレーナー兵庫県協議会 代表
ロンドンオリンピック2012 柔道 代表選手団 女子コーチ
全日本柔道連盟教育普及・MIND委員会

著書

中学・高校生のための 柔道やさしいトレーニング科学(ベースボールマガジン社)
下肢トレーニングの科学(不昧堂)

連載

広報誌「まいんど」
専門誌「近代柔道」

ニュース

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