光を使って物質を操作し、情報処理に役立てる。理工学部物理学科 髙吉 慎太郎 (物性理論 / 強相関電子系 / 量子ダイナミクス)

物性理論の専門家で、物性理論/強相関電子系/量子ダイナミクスについて研究している髙吉慎太郎准教授にお話を伺いました。

About Me ( TAKAYOSHI Shintaro )

修士課程のときは低温物理学実験をしていましたが、研究を進めるにつれてさまざまな物理現象を引き起こす基礎原理への興味が高まり、博士課程で理論研究に転向しました。博士課程では磁性体(磁石)の模型である量子スピン模型と場の量子論の対応関係を調べるという数理物理に近いような研究をしていましたが、博士取得後は磁性体にレーザーを照射したときのダイナミクスの計算を通して、磁性体をいかに高速に制御するかという「超高速スピントロニクス」分野の研究も行っています。甲南大学に着任する前は、スイスで3年、ドイツで1年半の合計4年半の間、ヨーロッパの研究機関に勤めていました。

Research

Theory of Ultrafast Spintronics

現代社会に不可欠な携帯電話やコンピューターは、電子の動きを制御する技術である「エレクトロニクス」によって実現されています。一方で電子は電気的な自由度だけではなく、「スピン」という微小な磁石の素としての働きも持っており、この磁気的な自由度を操作することによって情報処理や記録などに役立てようとする試みは「スピントロニクス」と呼ばれます。レーザーなどの強力な光を利用することで、高速で磁性体の状態を制御するための方法を探索する「超高速スピントロニクス」について理論的に研究しています。スピンは量子力学的な存在であり、相互作用する多数のスピンを駆動したときに、時間とともにどのように変化するかを解明することは、基礎物理学としても重要な課題です。

Topological matter and quantum computation

図形の全体的な形状で決まる性質で、部分的に少し変形しても変わらないようなものを調べる「トポロジー」と呼ばれる数学の分野があります。この知見を応用して、少し変形しただけでは性質が変わらないような物質を「トポロジカル物質」と呼びます。近年、さまざまなトポロジカル物質が発見されていて、その中には量子スピンの集まりとして記述できるようなものもあり、そのような物質の性質について調べています。トポロジカル物質は量子コンピューターへの応用が期待されています。部分的な変形の影響を受けないために、ノイズすなわちエラーに強いという特徴があり、トポロジカル物質を用いたエラー耐性のある量子コンピューターの実現方法について研究が進められています。

KONAN’s Value

甲南大学では学生と教員の距離が近く、ゼミやディスカッションを通して、しっかりと意思疎通を図りながら研究・教育を進めています。教員間の連携も緊密で研究室の垣根を越えた交流も多く、物理の境界領域の研究に取り組むことができます。私の専門も、相互作用の強い電子系に光を照射したときの理論であり、光物性と強相関物性の境界領域に位置します。また物理の基礎原理を解明することを目指すとともに、それを社会にどのように利用可能かという応用も視野に入れて研究を進めています。

Private

大学時代は茶道部に所属しており、現在でも時折お茶席に入ってお茶とお菓子をいただく機会があります。そのようなこともあって、甘味、特に和菓子が好きで、休日はカフェや和菓子屋さんなどを訪れています。寺社・仏閣巡りも好きで、京都によく遊びに行きます。

Profile

理工学部物理学科 准教授

髙吉 慎太郎

TAKAYOSHI Shintaro

専門領域
物性理論 / 強相関電子系 / 量子ダイナミクス

学位
博士(理学)

キャリア
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 博士課程修了
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 特任研究員
東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 特任研究員
物質・材料研究機構理論計算科学ユニット材料特性理論グループ 研究員
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 助教
ジュネーブ大学 ポスドク研究員
マックスプランク複雑系物理学研究所 ポスドク研究員

所属学会
日本物理学会