社会学で読み解く死者や動物とのかかわり。文学部社会学科 辻井 敦大(人間-動物関係論、都市社会学、宗教社会学)

社会学の専門家で、人間-動物関係論、都市社会学、宗教社会学について研究している辻井敦大講師にお話を伺いました。

About Me ( TSUJII Atsuhiro)

現在、甲南大学文学部社会学科で講師を務めております。専門は社会学です。

実は、もともとは理系出身で、学部時代は東京農工大学という東京にある小規模な国立大学の農学部で学んでおりました。そこから、なぜ今は社会学をやっているのかというと、農学部で自然科学を中心とした学問に触れるなかで、人間の思想や社会の影響が十分に考慮されていないことに、違和感を覚えたのが最初のきっかけでした。そんなわけで、当初は「学部選びを間違えたのでは?」と思ったこともありましたが、幸いにも農学部には人文・社会科学分野を学べる伝統があり、農村社会学研究室に所属して本格的に社会学の研究に取り組むようになりました。

その後は、東京農工大学大学院にて修士号を取得し、より社会学の専門性を深めるため、東京都立大学大学院人文科学研究科の博士後期課程に進学し、博士号を取得しました。そこから、立命館大学での専門研究員としての研究活動を経て、2024年4月より甲南大学文学部に着任いたしました。

Research

私は「人はなぜ墓を建て、継承しているのか」という問いを出発点に、現代日本における墓の建立と継承の意味を社会学の観点から探究してきました。かつての日本では「家」が中心となって墓を建て、先祖を祀ってきました。しかし、戦後の家族構造の変化、すなわち「家」の解体が進むなかでも、墓は継続して建立・継承されてきました。では、「家」が解体された現代において、人々はいかなる論理や社会的背景のもとで墓を建てているのでしょうか。

これまでの研究では、この問題を「家」の解体や個人化といった家族の変容という文脈において論じてきました。しかし、私はこうした枠組みだけでは、戦後から現代にかけての墓制の変容を十全に理解するには限界があると考え、経済や市場の動きにも注目しながら研究を進めてきました。

特に注目したのは、高度経済成長期に起こった民間霊園の開発ブームです。背景には、都市化にともなう人口集中と、それに伴う墓地不足があります。この状況に応答するかたちで、石材店の一部が自ら霊園開発に乗り出し、広告・宣伝を通じて墓のイメージを「個人を記録・記憶する場」として明るいものへと変化させていきました。こうしたマーケティング戦略によって墓は商品化され、「家」とは異なる論理のもとで建立・継承される対象へとなっていきました。このように、私の研究では、石材店によるマーケティング戦略が、「家」の解体のなかにある、人々に墓の建立を促す社会的条件を形成した点を明らかにしてきました。

以上の内容は、研究成果の一端であり、その成果は2023年に『墓の建立と継承──「家」の解体と祭祀の永続性をめぐる社会学』(晃洋書房)という本にまとめおります。

また最近では、この研究を発展させるかたちで、伴侶動物(ペット)の墓地や納骨堂の研究に着手しております。「家」とは何のかかわりをもたない動物に対して墓をつくり、記録・記憶しようとする実践はいかなる論理からなされているのか。そうした研究は、人間と動物の関係性やそのかかわりをあらためて問い直し、社会学の視座を拡張していくことにつながると考えております。

KONAN’s Value

甲南大学の良さは、人文学を専門とする文学部のなかで社会学を本格的に学べることです。社会学は、その学問的性質から、人文学と社会科学の双方にまたがる中間領域の学問となっております。

それゆえに、社会学では、人文学として既存の価値や視座を内側から問い直し、刷新していく営みと、社会科学としての「社会」への実証的な研究が深く結びついています。つまり、文学部という人文学的な思考の基盤の上でこそ、社会学の探究はより豊かに、深く展開されるのです。

甲南大学文学部では、「リンクプログラム」という学科を超えて分野横断的に学べる環境が整っており、社会学を軸にしながらも多様な視点を学び、自在に取り入れることが可能です。文学や歴史学、哲学といった人文学の諸分野とともに社会学を学ぶことができる環境は、「社会」に対する理解をより立体的かつ深く育む土壌となっています。

私が現在取り組んでいる、動物を対象とした研究は、かつての社会学の枠組みでは正統な研究とはみなされなかった領域です。しかし、人文学の中で育まれてきた新しい視点に学びながら、社会学の視座や手法で問い直すことによって、現代では新たな研究領域として切り拓かれつつあります。

このように、既存の価値や規範を問い直す、人文学的な思考と「社会」をとらえる具体的なアプローチを結ぶ架け橋として、甲南大学の社会学科は大きな価値をもっています。

Private

最近は、よくカフェ巡りなどをしております。博士論文を執筆した時期がコロナ禍で、大学に気軽に行けなくなったのをきっかけに、カフェで論文を書いたり、そこで研究をすることが増えました。それが今では、研究や仕事とは関係なく、妻と一緒に気軽に出かける楽しみになっています。特に神戸には個性豊かでおしゃれなカフェが多く、モーニングを食べにさまざまな場所へ出かけるのがとても楽しいです。

Profile

文学部社会学科 講師

辻井 敦大

TSUJII Atsuhiro

専門領域
社会学

キャリア
日本学術振興会特別研究員(DC2)
東京都立大学大学院人文科学研究科 博士後期課程修了、博士(社会学)
立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員

所属学会
日本社会学会、日本宗教学会など