社会科学系の中で歴史を研究すること、教えること。経営学部 平野 恭平 (経済史・経営史・技術史)

日本経済史・経営史の専門家で、明治期から高度経済成長期まで、綿や羊毛から化学繊維まで、幅広く繊維企業の経営の歴史を研究している平野恭平教授にお話を伺いました。

About Me ( HIRANO Kyohei )

広島県広島市の出身ですが、大学院への進学で神戸に来てから、気づけばもう20年以上になり、実家で過ごした時間よりも、神戸で暮らす時間の方が長くなりました。高い志をもって大学院に進学したわけではなく、なんとなく普通に就職するのがイヤで進学という道を選び、いつの間にか大学教員になっていました。

私の専門分野は、経済史・経営史になります。文字通り、経済や経営の歴史を研究する分野です。私はずっと経営学部で教員をやってきましたが、経営学部なのに歴史?と言われることがよくあります。現在の経営現象や経営の仕組み、将来の経営のあり方を考える時でも、その成り立ちや発展過程など、歴史的な視点から考えることは大事と思います。難しいことではあるのですが、歴史を正しく理解した上で現在や未来を考えていくことが、社会科学系の中での歴史の役割であるように思います。

Research

私が取り組んでいる主な研究としては、2つあります。1つは、両大戦間期から高度経済成長期にかけての日本の化学繊維産業の誕生から発展についての研究です。繊維産業は各国の歴史で工業化を牽引する役割を果たしてきたという点で、王道の研究対象となってきました。日本でも、戦前の工業化や経済発展に果たした繊維産業の貢献は大きく、研究も活発に行われてきましたが、その多くは製糸業や綿紡績業といった天然繊維を対象としたものでした。19世紀にヨーロッパで作られるようになった化学繊維ですが、日本では第一次世界大戦頃から本格的に生産されるようになり、戦前に世界一の生産量を記録したこともあります。第二次世界大戦後には、現在でもお馴染みのナイロンやポリエステルなどの合成繊維が大量生産されるようになり、繊維産業の中心を担うようになります。私の研究は、日本経済の中で化学繊維がどのように工業化されて成長していったのか、天然繊維から化学繊維へのシフトがどのように進行していったのか、化学繊維が独自の素材としての価値をどのように生み出していったのかを明らかにしようとしています。それらを通じて、繊維が化学と出会ったことの意義を考えています。

もう1つは、明治期を中心とした繊維産業の労働者募集についての研究です。日本史の教科書では、かつての繊維産業の労働環境が劣悪であったことが説明されています。確かに一面では事実ですが、その問題に取り組んだ経営者たちもおり、次第に労働環境は改善されていきました。私の研究は、そのような労働環境の改善が進む中でのリクルートのための情報発信を明らかにしようとしています。例えば、現在の大学の募集案内をみてもらうと、文字情報以外に、写真や図といった視覚的な情報がふんだんに盛り込まれており、特に写真はその大学のイメージにもつながる重要な役割を果たしています。明治期の労働者の募集案内でも同様に、写真が使われるようになり、それらを使って地方農村の女性たちに工場という働く場や寄宿舎での暮らしぶりを伝えていました。色々な画像史料を用いて、この研究に取り組んでいます。

最後に、面白半分で取り組んだテーマとして、大学図書館の蔵書に残された落書きや企業内で発行された絵葉書などを扱った研究もあります。ノリと勢いだけで手がけた研究でしたが、実際に落書きや絵葉書などを史料としてじっくりと向き合うと、落書きがなぜ書かれたのか、どのような意味をもっていたのか、絵葉書がなぜ使われるようになったのか、どのような役割を果たしていたのかなど、色々なことがわかってきました。面白い対象や史料に出会った時は、どんどん研究していきたいと思っています。

研究室で所蔵する少し珍しい化学繊維のサンプル
倉敷市の語らい座・大原本邸前

KONAN’s Value

大学がみなさんに提供できる価値は、定量的には論文数や特許件数、学位授与数や就職率などで測ることができるかもしれません。しかし、大学が提供する価値はそれだけではないはずです。すぐに役立つ知識を提供することも大事と思いますが、専門的な知識を学ぶ過程で身に付いていく思考方法や物事に対する見方、調査能力や分析能力など、長い人生で活かすことのできる力を育むことも重要であると考えています。甲南大学では、教員と学生との距離が近いというメリットを活かして、学生たちの成長を促していくことができると思います。

Private

悪い癖で家にいると、ついつい仕事をしてしまいます。昔はゲームをやることもありましたが、最近のゲームにはついていけず、あまりやらなくなりました。そのため、仕事から強制的に離れることのできる3つの時間を大切にしています。1つ目は、ドライブ。特に当てもなく出かけて、適当に走っているだけで気分転換になります。2つ目は、美味しいお酒と肴を楽しむこと。なんでも飲みますが、日本酒と黒ビールが好みです。3つ目は、武道の稽古。剣道や居合道はご存知の方もいると思いますが、なかなか目にすることのない槍術をやっています。週に1度の稽古に参加し、心身を鍛錬し、リフレッシュしています。

Profile

経営学部 教授

平野 恭平

HIRANO Kyohei

専門領域
日本経済史・経営史

キャリア
神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了
神戸大学大学院経営学研究科准教授
甲南大学経営学部教授

所属学会
経営史学会、社会経済史学会、政治経済学・経済史学会、日本産業技術史学会、日本経営学会など