フロンティアサイエンス学部 赤松 謙祐 × 経済学部 寄 恭輔

フロンティアサイエンス学部 教授 赤松 謙祐 × 経済学部 寄 恭輔

研究を行ううえで苦労することは何でしょうか?

赤松教授

研究を行ううえで上手くいくことはほとんどないですし、思った通りにはいきません。
それは、しんどいことですが、普通のことだと思っています。
私は、とりあえずやってみるタイプで、博士課程の1年目に、ある実験を150回やったけど上手くいきませんでした。
でも、151回目で上手くいきました。最近は、上手くいってほしい気持ちが強い学生が多いように感じますが、自分の例を出して励ましています。

現在、熱電材料に関する研究をされているとのことですが、研究テーマをどのように見つけられましたか。また、このテーマで研究を続けようと思ったきっかけは何ですか?

赤松教授

10年間くらい共同研究を行っている企業からのアプローチがきっかけです。
私が持っている技術で試作した熱電材料が従来の熱電材料に比べ、かなりいい性能が出たので共同研究が開始され、自分の研究がどうやって社会貢献に繋がるかを知るきっかけになりました。
現在、共同研究は別のテーマで実施していますが、熱電材料に関する研究は私が引き継いで研究しています。

赤松先生は30年近く研究を続けられていますが、他の研究含め、この研究すごかった、この発見すごいなと思ったものありますか?

赤松教授

私の分野に近いものですと、リチウムイオン電池ですね。
リチウムイオン電池は日本が誇る世界最高技術だと思います。
ただ、今はリチウムイオン電池の将来的な課題もみえてきており、それにとって代わるエネルギー変換システムを見つける必要があると思います。

一皮むける必要があるということですね。

インタビュアー 寄
赤松教授

自動車が安全に動くようになって、様々な場所で携帯電話が使われるようになりました。
それくらいリチウムイオン電池はインパクトのある技術です。
ただ、使われなくなった電池の処理の問題や劣化の問題は顕在化しています。

赤松先生が研究されている熱電材料は今後リチウムイオン電池に取って代わる可能性があるのでしょうか?

インタビュアー 寄
赤松教授

取って代わるのではなく、コスト、耐久性、安全性が担保されたら、補助的に実装される可能性はあります。
その3点が市場受け入れられるには大事です。
研究だけではこの3点をクリアすることはできません。
ただし、社会実装という視点も取り入れて研究を考える必要性を感じています。

そういったコスト面なども考えないといけないのですね。

インタビュアー 寄

赤松先生の経歴、キャリアについてお聞きします。神戸大学工学部工業化学科に進学しようと思った理由を教えていただきたいです。

赤松教授

高校生の時に化学が得意だったのが大きいですね。
高校生の時、模試で上位を取ったことがあるくらい、化学だけは得意でした。
そのため、化学科にいこうと考えていましたが、大学入試センター試験の結果や、実家から通学可能であることなどを考慮して、進学先を決めました。

化学が得意と仰っていたが、好きだから化学が得意なのですか?

インタビュアー 寄
赤松教授

実はそんなに好きという訳ではなかったです。
得意になるとテストで点数が取れて嬉しいですよね。
化学だけは他の科目に比べて点数がずば抜けていたので、自分は化学が得意なのだということにしようと考えていました。
あと文系科目は苦手でした(笑)。

研究者になろうと思った理由を教えていただきたいです。

赤松教授

研究者というか、大学教員になろうと思ったのは博士課程に進学してからです。
当時学部4年生で研究室に配属されたときは就職しようと思っていましたが、その時の2つ上の先輩に影響を受けたことと、研究が面白かったのが理由で修士課程への進学を決めました。
博士課程に進学しようと思ったのは、修士課程1年の時ですね。
「博士号」という響きがかっこいい、という単純な理由です。
あと、Dr.赤松と呼ばれたかったという理由もあります(笑)。
もちろん、今では学位の重みは感じています。

大学教員という立場で学生を指導されていますが、どのような学生を育てたいとお考えでしょうか?

赤松教授

自分で考えて正しい行動ができる学生を育てたいと考えています。
今は自分一人でも勉強できる時代で、そのための様々なツールがあります。
実際に、私が去年発表した論文は、専門外の物理化学分野の数値解析方法を勉強する必要がありました。
その勉強はGoogle検索とYouTubeで行い、情報精度の確認も含めて、結果的に自分一人で解析方法を理解することができました。
学問に対する心構えの部分は対面で教わった方が伝わりますが、細かいところや応用については自分で勉強しなさいよ、というスタイルがいいのではないかと思っています。
実際に、従来に比べると自身の講義のスタイルは、基礎的なことは教えるがあとは自分でやりなさい、というスタイルに少しずつ変わってきています。

自主性に任せるような感じでしょうか?

インタビュアー 寄
赤松教授

そうですね、実際やる気があればできる時代ですので。
ただ、YouTubeを見て分かった気になるのは避ける必要があるので、自主性に任せるにしてもどういった姿勢で勉強に取り組むのか、という大事な部分は教えるようにしています。
例えば、うちは理系ですが、理系の知識だけを持っていればいいわけではなく、レポートを書く際の文章力、国語力も大切ですこの基礎的な部分はこれからの人生でずっと使うので、その重要性を授業以外の場所でも言うようにしています。
少し説教くさいことを言ってしまうのですが、人間は年を重ねると、自分は昔こうだった、と言いがちです。
ちなみに私は、そのことを伝えてから言います(笑)。

なるほど。前置きを置いてから(笑)

インタビュアー 寄
赤松教授

若いときは遊びもいいけど、全力で何か勉学に打ち込みなさいと。
将来頭脳を使って仕事をしたいならこうするように、みたいなことは説教くさいけど言うようにしています。
研究室に配属されたら、新聞を毎日読む、論文を1日に1本は読むなど、行動してくれている学生もいます。
私が言ったことが少しは伝わっていると思います。

似たような質問になりますが、社会に出たときに活躍する学生の共通点や類似点があれば教えていただきたいです。

赤松教授

どの分野の先生でも同じようなことを言うと思いますが、社会に出ても大丈夫と思う学生はやはりコミュニケーション能力が高いですね。
企業の友人に、採用の際にどこに着目しているのかを聞いても、同じ答えが返ってきます。
学歴はさほど重要視されないと思いますよ。

最近の就職活動において重視する項目で上位に見ますので納得です。

インタビュアー 寄
赤松教授

やはり、採用側が一緒に仕事したいと思うかが重要ですね。
就活する学生には他者視点が大切と伝えるようにしています。

僕もそれには同意ですね。僕の周りでも就職活動をしていたいい企業に行く人は総じてコミュニケーション能力が高いと感じます。

インタビュアー 寄
赤松教授

寄さんは十分コミュニケーション能力が高いと思いますよ。

僕ですか?ありがとうございます。有難いことにこういった場を経験させていただいているので、鍛えられているのかしれません(笑)。

インタビュアー 寄

ご自身の人生を振り返って分岐点はありましたでしょうか?

赤松教授

大学院に進学するかどうかが分岐点でしたね。
大学院に進学していなかったら就職していたでしょうし、大学教員にはなってなかったですから。
やはり、そこが一番の分岐点でしょうね。
あと甲南大学に赴任できたことも分岐点でしたね。
甲南大学に赴任する前は、神戸大学で研究助手をやっていました。
研究助手は任期が限られているので、仕事をしながら就職活動をしていました。
当時の上司と甲南大学の教員の方がある会議で会った際に、甲南大学で研究者を募集しているという情報を教えていただきました。
その甲南大学の教員の方は、忙しくされており普段会議に出席できない方でしたが、出席した会議で研究者募集の話題になったようです。
いわゆるご縁があったのだと思っています。

赤松先生はどのような学生でしたか、小中高大と順にお聞かせください。

赤松教授

小学校はスポーツが好きで、サッカーをやっていました。
卒業アルバムにはサッカー選手なりたいと書いていましたね。
中学、高校ではブラスバンド部に所属しており、トランペットを演奏していました。
部活動はとても楽しかった思い出があります。

特に大学生の時どのような学生でしたか?

インタビュアー 寄
赤松教授

車が欲しかったので、勉強はほどほどに、車を買うためにバイトばっかりしていましたね(笑)。
私たちが学生の時代は、車を持っていることがステータスでしたので。3年生まではそんな感じで、4年生で研究室に配属になると遊べないことは分かっていたので、卒業旅行も3年生のうちにハワイに行きました。
そこで切り替えて、学部4年生から博士課程までの6年間は、研究に没頭していましたね。最も実験していたのは博士課程の時ですが、月曜日に大学に来て翌週の土曜日に家に帰る生活を送っていました。

ひたすら研究ってことですか?僕も高校の時は理系学生でしたが、想像すると大変ですね・・。

インタビュアー 寄
赤松教授

当時は朝9時に起きて、夜中の4時まで実験し、教授の部屋にベッドを置いて寝ていました。
ただ、好きなことをやっていたので全く苦じゃなかったです。
同じ研究室の学生で泊まっている学生も毎日10人以上いたので、それが普通、みたいな感覚でしたね。
教授も出勤して自分の部屋に寝ている学生を起こすことを楽しんでいましたね(笑)。

一週間のスケジュールを教えてください。

赤松教授

現在は大学院のフロンティアサイエンス研究科⾧を務めているので、大学の公務もあり、スケジュールは大体埋まっています。
大学の役職者ではなければ、講義に加え教授会が週に一回ある程度なのでスケジュールに余裕があり、その時間で学生と研究に関するミーティングを行っています。
また、私の場合は複数の企業と共同研究をしているので、そのミーティングが多いですね。
他には、研究費を獲得するための申請書作成も主な仕事です。研究資金がないと研究できないので。

大学生の学びと高校生までの学びの違いはどこにあるとお考えでしょうか?

赤松教授

高校までは教えてもらう、大学は自ら学ぶところに違いがあると思います。
私はまず初めにそれを教えます。
もちろん、基礎的な知識は教える必要はありますが、そこからは自分で学ぶことができる。
分からなければ質問をする。
さらに理解を深めるために大学教員という存在があると思っています。
最終的には自分がどう動くかが大事です。
難しいですが、そのことに気づくと成⾧していきますね。
実際には研究室に配属されてから気づく学生が多く、大学院に進学すると見違えるように成⾧します。
私も学生時代、指導教員に「学位はもらうものではなく、自分で取るもの」と教えられました。

大学院に進学すると、そこまで成⾧するというのは自分で動いて、失敗しながら答えを見つけていく、成⾧していくということですか?

インタビュアー 寄
赤松教授

そうですね。
我々からみて成⾧を感じるのは大学院修士課程の2年間が多いです。
レポート一つをとっても、学部4年生の時と修士課程の時とでは、大きく違います。
この時は指導をしてきてよかったと感じます。

大学院に進学した成⾧は論文や研究内容に表れると仰っていました。別の視点として、人として成⾧するのに必要なことはありますか?

インタビュアー 寄
赤松教授

自分が評価される場面に出る、その場数を踏むことかなと思います。
評価結果を、自分で分析して次の機会に繋げることができる学生は伸びていきます。
人間誰でもいい評価を受けたいという承認欲求があります。
評価されなかった際の嫌な状況が頭によぎり、評価されることを嫌います。
そのため、評価される場に立とうとしない学生が多いです。
身近なところでいうと、授業の際に教員が「何か質問はありますか?」と聞いてもほとんど誰も手を挙げませんよね。
大勢の前で話すことは、皆がプレッシャーに感じることですが、それを自ら進んでできるかが重要です。
学生には進んで評価される場に立てと言うようにしています。
一方、場数を踏んで、できるようになると人は手を抜きがちですし、社会人になって役職が付いてくると、評価する側になる機会が多いです。
そのため、成⾧の機会は減ってきてしまうので、私は年に一回、海外の学会でこれまで話したことがない研究テーマで、英語で発表するようにしています。
年一回、しんどいイベントがあるわけですが、自分のために必要なことだと思っています。

最後に赤松先生の今後の目標を教えてください。

赤松教授

定年を迎えるまでに教科書を一つ書きたいと思っています。
私が専門としている電気化学という分野は非常に歴史ある分野です。
教科書に非常に多くの式がでてくる学問分野の一つで、完全に理解することが難しい分野でもあります。
電気化学の範囲は広く、自分でも分かっていない部分があるため、いまだに勉強中ですが、できる限り分かりやすいような教科書を書きたいと考えています。
今までにも部分的に教科書を書いたことはありますが、1冊丸ごとはないです。
「一番わかりやすい」と評価されるような教科書にしたいと思っています。
研究でいうと、先ほども言いましたが、自分の作った材料が世のため人のためになることを目標にして、進めていきたいと思っています。

インタビューをした感想

今回の赤松先生へのインタビューで研究とはどのようなものかが分かりました。
私は文系でしたので理系の分野はあまり具体的なイメージが湧きませんでしたが、先生のお話しをお聞きして、研究の面白さや大変さを知ることができました。
また、赤松先生のこれまでのキャリアについても大変興味深いお話が多く、自分自身の知見が深まったと感じました。この度は貴重な機会を設けていただきありがとうございました。

インタビュアー 寄