知能情報学部 教授 新田 直也 × 経済学部 吉本 真将

知能情報学部 教授 新田 直也 × 経済学部 吉本 真将

新田教授はどのような研究をされているのですか?また、今の研究を行おうと思った動機についても聞かせてください。

新田教授

まずこの研究を行おうと思ったきっかけですが、私はもともとエンジニアとして働いていました。その中で、ソフトウェア開発がとても大変で、規模が大きくなると簡単に開発が破綻してしまうと感じていました。何とかしないといけないと本を読んで勉強しているときに今のソフトウェア工学と出会いました。
本を読む中で当時の私に起きている問題というのは世界中で起きていることがわかりました。そんなエンジニアの職場環境を改善しようと思ったのが研究を行おうと思ったきっかけです。この学問はソフトウェア開発を取り巻く環境のどこに問題があるのかを分析し、そして解消する学問です。働いていた当時読んでいた本の中には“根性で乗り越えろ!”といった内容の本もあり、根性論とは対極の視点で考えるこの学問と出会ったことで気持ちが楽になったのを覚えています。

研究の楽しさ・苦労は何でしょうか。

新田教授

苦労は二つあります。一つは“取り扱うテーマが大きいこと”です。ソフトウェア危機の問題は1960年代から研究をされていますがいまだに根本的な解決には至っていません。また、ソフトウェア開発の失敗による損失は年間約10兆ドルと言われています。これらの問題を一気に解決しようと研究すれば、一生をかけても成果が出るかどうかわかりません。そこで最初は小さなテーマから始めるのですが、どこから手を付けていいのかも分からない状態でした。ようやく自分の研究が形になったときには私が研究者になってから10年近く経っていました。
もう一つは研究者として研究を続けていくには、社会で働くエンジニアの方々と同じように、大規模なソースコードを読んで理解していくときの大変さを体感として持ち続けている必要があると考えています。研究者として研究や日々の業務とソースコードの読解作業を両立することは楽しいことでもありますが、しんどいと感じることでもあります。
楽しさはやはり成果が出た時です。私はデルタ抽出と名付けた、特定のソフトウェアの構造を自動で取り出す技術の開発を行いました。これにより、エンジニアが30分から3時間かけて行う作業を3秒に短縮することができました。このことが研究成果として世界的な国際会議で通った時です。自分の成果が形になったときはとても嬉しかったです。

教授はどのような学生でしたか?

新田教授

一言で言うと“オタク”でした。プログラミングとは中学生で出会いました。学生時代はゲームが作りたいと思っていて、当時は友達とどちらがクオリティの高いゲームを作れるかを競ったりしました。

学生時代にやっていてよかったことはありますか?また、やっていた方がいいと思うことはありますか。

新田教授

一つのことに情熱を注いだこと、そしてそこから達成感を得ることができたことです。大学時代は寝る時間以外をすべて費やしてゲーム作りに情熱を注いだこともありました。そこで作ったゲームが動いたときの達成感は何物にも代えがたかったです。特にIT分野に携わっていく上で、イメージを形にすること、全く新しいものを作るという原体験ができたことは私の中での大きな財産になっています。
もう一つ、これから学生になる皆さんがやっていた方がいいと思うことは様々な人と関わるということです。いろんな人と交流することによって社会で活躍するために必要とされる能力を養っていくことができます。

大学生の学びと高校生の学びの違いはどこにあると考えていますか。

新田教授

科目による違いはありますが、大学の授業には例えば経済学のような実学的な学問の授業と、文学部のような実学とは対照的な純粋な学問の授業があると考えています。
実学的な学問の授業は社会とのつながりがはっきりすると思います。大学での授業は実学的な授業は“何に役に立つのか”、“この授業が社会とどうかかわっているのか”というのを意識した授業になります。
もう一つについては、より範囲の広い抽象的な授業になると思います。知能情報学部でいえば、情報という実学をより深く研究しようと思えば数学にたどり着きます。このような授業では“究極”を議論する授業になると考えています。

学生を指導するという立場で、教授はどのような学生を育てたいですか?

新田教授

全体的に言えば個性を最大限に伸ばしていきたいと考えています。具体的には、例えば起業家精神がある学生に関して言えば、“新しいものを作る”“お客さんを喜ばせたい”といった価値を産み出すことに喜びを感じ続けられるような学生に育ってほしいと思います。
もう一つ、コツコツと何かを作り上げていくことが得意な学生には自分の役割に誇りをもてる学生に育ってほしいと考えています。

甲南大学で研究していてよかったと感じることはありますか。

新田教授

甲南大学では自由に研究させてもらえていると感じています。特定の課題に縛られることなく、好きなことを研究してチャレンジさせてもらえていることはとても恵まれていると感じています。だからこそ、研究を通して自身のできる最大限のことを社会に還元していかなければいけないと考えています。
また、自由に研究していることは学生にも良い影響を与えていると感じています。甲南大学の学生は素直で柔軟性が高いので一緒に研究していると、とても密度の濃い議論ができていると実感しています。

インタビューをした感想

今回の学生インタビューを通して、自分の財産となるお話をたくさん聞くことができました。僕自身が来年度からエンジニアとして働くということもあり、同じ業界の先輩として非常に貴重なお話をしていただきました。また、文系理系の垣根を越えて理系の先生とお話することができたことをとても貴重な経験ができたと感じました。新田先生、ありがとうございました。

インタビュアー 吉本