瀬尾まいこ著 『そして、バトンは渡された』

 

 

知能情報学部 3年生 Nさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : そして、バトンは渡された
著者 : 瀬尾まいこ著

出版社:文藝春秋
出版年:2018

『そして、バトンは渡された』は、「家族とは何か」という普遍的な問いを、血縁という枠組みを超えて描いた小説である。主人公の森宮優子は、幼くして実母を亡くし、その後も父や義理の親との別れと出会いを繰り返しながら成長していく。一見すると不安定で不幸な家庭環境に思えるが、物語を通して浮かび上がるのは、常に誰かが優子を思い、次の人へと彼女を託してきたという事実である。この「バトン」という比喩が、本作の中心的なテーマとなっている。

本作の大きな特徴は、登場する親たちが決して理想化されていない点にある。経済的に余裕がなく、生活に苦労する場面や、不器用で感情をうまく表現できない姿も描かれる。しかし、それでも彼らは優子の幸せを第一に考え、自分なりの方法で愛情を注いでいる。完璧ではないからこそ、その行動一つ一つに現実味があり、読者は登場人物を身近な存在として感じることができる。血のつながりではなく、日々の選択と責任ある行動こそが「親であること」を成立させているのだと強く感じさせられる。

また、主人公である優子の価値観も印象的である。彼女は自身の生い立ちを不幸として語らず、むしろ多くの人から受け取ってきた善意や思いやりを自然に受け止めている。その姿勢は、環境そのものよりも、それをどう捉えるかが人生を大きく左右することを示している。人は欠けているものに目を向けがちだが、本作は「すでに受け取っているもの」に気づくことの大切さを静かに教えてくれる。

現代社会では、核家族化や多様な家庭形態の広がりにより、「家族の正解」が見えにくくなっている。本作はその中で、家族とは制度や血縁ではなく、思いを受け渡す関係性そのものだと提示している。温かさと現実性を併せ持つこの作品は、家族観を再考する上で大きな示唆を与える一冊である。