2-1. 学生オススメ」カテゴリーアーカイブ

アンデシュ・ハンセン著 『スマホ脳』

 

 

知能情報学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : スマホ脳 
著者 : アンデシュ・ハンセン著 ; 久山葉子訳

出版社:新潮社
出版年:2020

現代の生活において、スマートフォンは欠かせない存在となっている。調べ物や連絡、娯楽など、 生活のさまざまな場面で役立つ一方で、集中力が続かなかったり、無意識のうちに何度も画面を確認してしまったりする場面も増えている。「スマホ脳」は、そうしたスマートフォンが私たちの脳や心に与えている影響について、科学的な視点から分かりやすく示してくれる一冊である。

本書の特徴は、スマートフォンを単に悪いものとして扱わず、人間の脳の仕組みを軸に話が展開されている点にある。著者は、人の脳が新しい刺激や不安に反応しやすい性質を持っていることを前提に、なぜスマホに引き寄せられてしまうのかを説明する。そのため、集中できないことやスマホを手放せない状況を、個人の意志の弱さとして片付けていない点が印象に残った。

読み進める中で特に興味深かったのは、スマホが集中力や睡眠に与える影響が、感覚的な印象ではなく研究結果をもとに語られている点である。スマホを使っていない時間であっても、その存在が注意力に影響を及ぼすという指摘や、SNS の利用が心の状態に影響を与える可能性についての説明は、普段の生活を振り返るきっかけとなった。何気なく続けてきた行動が、思っている以上に脳に負荷を与えていることに気づかされる。

本書を読んで感じたのは、行動を無理に変えることよりも、まず自分の状態を理解することの重要性である。スマホとの距離を考える際にも、我慢や制限を重ねるのではなく、脳の働きを知ることで見え方が変わるのだと気づかされた。

「スマホ脳」は、スマートフォンとの付き合い方を考えるきっかけを与えてくれる一冊である。 日々の学習や生活の中で、集中が続かないと感じたとき、自分の行動や身の回りの環境を見直す視点を与えてくれるだろう。SNS を利用することが当たり前になってきている大学生や若者にとって、一度立ち止まって読んでみてほしい本である。

松下幸之助著 『道をひらく 』

 

 

知能情報学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 道をひらく
著者 : 松下幸之助

出版社: PHP研究所
出版年:1968

人生について考えていると、努力しているはずなのに先が見えず、不安になることがある。生き方や選択について考えれば考えるほど、どの道が正しいのか分からなくなり、立ち止まってしまう人も多いだろう。松下幸之助の『道をひらく』は、そうした迷いを抱えたときに、考え方を静かに見直すきっかけを与えてくれる一冊である。

本書は、日本を代表する経営者である松下幸之助が、人生や仕事について書き残した文章をまとめた随想集である。経営の成功法則を語る内容ではなく、日々の出来事にどう向き合い、どう考えるかといった姿勢が中心に描かれている。短い文章で構成されており、難しい言葉は使われていないが、一つ一つの言葉には長年の経験を通して培われた考えが込められている。

読んでいて印象に残るのは、物事が思い通りに進まないときの受け止め方である。先の見通しが完全に立たなくても、ある程度の確信があれば行動してみること、失敗そのものよりも、真剣に向き合わない姿勢を戒める考え方が繰り返し示される。また、同じ失敗を繰り返す背景には、自分自身に問いを投げかけることをやめてしまう点があるという指摘や、視点を変えることで新た な道が見えてくるという考え方は、行き詰まりを感じている読者に新しい見方を与えてくれる。どれも特別な考え方ではないからこそ、日常の中で意識しやすい内容だと感じられた。

本書を読んでいると、明確な答えを与えられているというよりも、自分自身に問いを返されているような感覚になる。何を選ぶか以上に、選んだ道にどのような姿勢で向き合うかが大切なのだということが、静かに伝わってくる。

『道をひらく』は、読んだその日から何かを変えさせる本ではない。しかし、迷いや不安を感じたときに読み返すことで、考え方を整理し、自分の立ち位置を見直すきっかけを与えてくれる。将来について考え始めた大学生や若者が、立ち止まったときにそっと手に取ってみてほしい一冊である。

池上彰著 『わかりやすさの罠 : 池上流「知る力」の鍛え方 』

 

 

知能情報学部 4年生 Yさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : わかりやすさの罠 : 池上流「知る力」の鍛え方
著者 : 池上彰

出版社:集英社
出版年:2019

『わかりやすさの罠』は、「わかりやすく伝えること」は本当に常に善なのか、という問いを真正面から投げかける一冊である。私たちは説明や発表、文章作成の場面で「わかりやすくしなければならない」と強く求められる。しかし本書は、その姿勢が思考を浅くし、重要なものを切り捨ててしまう危険性をはらんでいることを指摘する。

著者は、わかりやすさとは情報を単純化し、整理し、即座に理解できる形に変換する行為だと述べる。一見すると親切だが、その過程で本来の複雑さや曖昧さ、考える余地が失われてしまう。特に、答えが一つではない問題や、時間をかけて考える価値のあるテーマほど、「わかりやすさ」を優先することで誤解や思考停止を招きやすい。

印象的なのは、「わからなさ」には意味があるという主張である。すぐに理解できないからこそ人は考え、問いを立て、他者と議論する。本書は、わからなさを排除するのではなく、耐え、向き合うことが知的成長につながると教えてくれる。この視点は、効率や即答が重視される現代社会への強いアンチテーゼとなっている。

一方で本書は、わかりやすさそのものを否定しているわけではない。問題は、目的や文脈を無視して「わかりやすさ」だけを絶対視する態度にある。伝える側も受け取る側も、簡単に理解できたという満足感に安住せず、その裏で何が省かれているのかを意識する必要がある。

『わかりやすさの罠』は、情報が溢れる時代において、考える力を取り戻すための重要な示唆を与えてくれる一冊であり、学ぶ立場にある人だけでなく、教える・伝える立場の人にも強く薦めたい。

宇田川敦史著 『アルゴリズム・AIを疑う : 誰がブラックボックスをつくるのか 』

 

 

知能情報学部 4年生 Yさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : アルゴリズム・AIを疑う : 誰がブラックボックスをつくるのか
著者 : 宇田川敦史

出版社:集英社
出版年:2025

『アルゴリズム・AIを疑う―誰がブラックボックスをつくるのか』は、私たちの生活に深く入り込んでいるアルゴリズムやAIを「便利な技術」として受け入れるだけでよいのかを問い直す一冊である。検索結果、SNSの表示、採用選考、信用評価など、AIはすでに社会の意思決定に大きな影響を与えているが、その仕組みや判断基準は多くの場合「ブラックボックス」として不可視化されている。

本書の特徴は、AIを単なる中立的な技術としてではなく、「誰が、どのような意図や価値観で設計し、運用しているのか」という社会的・政治的な問題として捉えている点にある。アルゴリズムは客観的で公平だと思われがちだが、実際には設計者の前提、使用されるデータの偏り、企業や国家の利害が強く反映される。その結果、差別や不平等が強化されてしまう可能性があることを、本書は具体例を通して明らかにしている。

特に印象的なのは、「ブラックボックスは自然に生まれるのではなく、意図的につくられている」という指摘である。企業秘密や効率性、責任回避といった理由から、アルゴリズムの透明性は後回しにされがちだ。しかし、それによって不利益を被るのは、判断の根拠を知らされないまま評価される私たち市民である。

本書は、AIを全面的に否定するのではなく、「疑う姿勢」を持つことの重要性を強調している。仕組みを問い、説明を求め、社会全体で監視することがなければ、AIは民主主義と相容れない存在になりかねない。『アルゴリズム・AIを疑う』は、テクノロジーと社会の関係を考えるための入門書であり、AI時代を生きる私たちにとって必読の一冊である。

松岡圭祐著 『ミッキーマウスの憂鬱 』

 

 

知能情報学部 4年生 Iさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : ミッキーマウスの憂鬱
著者 : 松岡圭祐

出版社:新潮社
出版年:2008

本作は、東京ディズニーランドをモデルにした巨大テーマパークの裏側を舞台に、若者の成長と
労働の現実を描いた小説である。夢と非日常を提供するこの場所は、外から見るときらびやかで
完璧な空間に見えるが、その裏では無数の人間が厳密なルールと役割に従って働いている。その
夢を支える現実に焦点を当てる点で、きわめて現代的な意味を持つ作品である。

主人公は、新人キャストとしてテーマパークに入り、戸惑いと緊張の中で日々を過ごす。笑顔を
絶やさず、決められた動きを守り、常に「夢の世界」の一部として振る舞わなければならない。
そこでは、個人の感情よりも役割が優先される。失敗は許されず、マニュアル通りに動くことが
求められる。その環境は、ときに息苦しく、タイトルにある憂鬱を生み出すと考えられる。

しかし物語が進むにつれ、主人公は次第に、自分の仕事が誰かの楽しさや感動につながっている
ことを実感していく。子どもたちの笑顔、来園者の驚きや喜びが、厳しい労働の意味を支えるよ
うになる。松岡圭祐は、夢を虚構として切り捨てるのではなく、人が作り上げる価値あるものとし
て描いている。

この小説の優れている点は、労働の厳しさと誇りを同時に描いていることだ。テーマパークは単
なる娯楽施設ではなく、多くの人の真剣な努力の上に成り立つ場所である。主人公がその一部と
して成長していく過程は、現代の若者が社会に参加していく姿と重なる。

ミッキーマウスの憂鬱は、夢の国を舞台にしながら、きわめて現実的な働くことの意味を問いか
ける作品である。読後、読者はテーマパークを見る目だけでなく、自分自身の仕事や役割につい
ても、少し違った角度から考えるようになる作品だ。

よしもとばなな著 『ハゴロモ 』

 

 

知能情報学部 4年生 Iさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : ハゴロモ
著者 : よしもとばなな

出版社:新潮社
出版年:2006

ハゴロモは、現実と幻想、生と死の間を静かに漂う物語である。よしもとばななの小説には一貫
して「この世界にうまくなじめない人々」が登場するが、本作もまた、どこか現実から少し浮い
た存在たちが、互いに寄り添いながら生きる姿を描いている。物語は大きな事件や劇的な展開に
頼らず、登場人物の内面の動きや関係性の微妙な変化によって進んでいく。その穏やかな語り口
が、かえって読者の感情を深く揺らす。

タイトルの「ハゴロモ」は、天女がこの世と異界を行き来するための羽衣を連想させる。それはこの作品に登場する人々の在り方を象徴しているようにも見える。彼らは皆、喪失や孤独を抱えながらも、この世界と完全には結びつかず、どこか別の場所に心の拠り所を持っている。その距離感こそが、現代人の心情をよく映している。現実に適応することが苦しく、しかし誰かとつながらずにはいられないというその矛盾がやさしく描かれている。

よしもとばななの文章は、感情を説明するのではなく、読者に感じさせることを重視している。簡潔で透明感のある文体によって、悲しみや愛しさが直接心に流れ込んでくる。登場人物の心の痛みは決して大げさに描かれないが、その静けさがかえって深い共感を生む。読者は物語を追ううちに、自分自身の過去の記憶や失ったものと向き合うことになるだろう。

ハゴロモは癒しの物語であると同時に、喪失を抱えたまま生きていくことの肯定でもある。すべてが回復するわけではないが、それでも人は人とつながることで少しずつ前に進める。その静かな希望が、読後に長く余韻として残る一冊である。