2-2. 教員オススメ」カテゴリーアーカイブ

[藤棚ONLINE]経済学部・荻巣嘉高先生推薦『原因と結果の経済学』

図書館報『藤棚ONLINE』
経済学部・荻巣嘉高先生より

 データサイエンス、流行ってますよね。書店などでも、やれ「AI」とか、「データドリブン」とかを冠した書籍がいろいろ出ています。データサイエンスが大きく流行り出した要因はいくつも議論されていますが、そのなかでも最もインパクトが大きかったのが、コンピュータ性能の劇的な向上と利用可能なデータの大幅な増加でしょう。さまざまな議論がデータに基づいて行われるようになったことはとても喜ばしいことです。その一方で、データから得られる含意を誤解する、あるいは悪意を持って誤った解釈をするというケースも散見されてきています。データを読み解く側のリテラシーがより重要になってきていると言えるでしょう。

 データを読み解く我々にとって重要なリテラシーのうち最も基本的なものは、「相関関係と因果関係は違う」という事実でしょう。相関関係はざっくりいえば、「Aが大きいとき、Bも大きい」とか、「Aが大きいとき、Bは小さい」といった関係性のことです。一方で、因果関係とは「Aが大きくなるとBは大きくなる」とか「Aが大きくなるとBは小さくなる」といった関係性のことです。因果関係は原因と結果の関係性と言い換えても良いでしょう。

 例えば、カレーの売り上げと日本の株価には正の相関関係があることが知られていますが(柴本、2017)、この2つには因果関係があると言えそうでしょうか?もし、「カレーが売れれば日本の株価が上がる」という因果関係が成立していれば、我々日本人が毎日カレーを食べればぐんぐん景気がよくなっていくと考えられますが、実際にそんなことが起こる可能性は限りなく低いでしょう。カレーの売り上げと株価には単に相関関係があるだけで、因果関係があるわけではないと結論づけるのが合理的です。相関関係を見つけるのは比較的容易な一方、因果関係をはっきりさせるのは非常に難しいのですね。

 それでは、因果関係を見つけるためにはどうすれば良いか。そんなあなたにおすすめのファーストステップが、この『原因と結果の経済学』(中室・津川、2017)です。この本ではデータから因果関係を分析するための基本的なコンセプトや、分析結果を読み解いたりする際のコツを教えてくれます。

 華やかに見える「データサイエンス」が、いかにチマチマとした地味で神経質な作業の上に成り立っているのか、その実態をこの本でちょっと覗いてみませんか。

参考文献

『データを分析する際に重要なこと:カレーが売れると株価は上がるのか』柴本昌彦、RIEBニュースレターコラム、2017

『原因と結果の経済学』中室牧子・津川友介、ダイヤモンド社、2017

[藤棚ONLINE]理工学部・池田茂先生推薦『自分の弱さを知る』

図書館報『藤棚ONLINE』
理工学部・池田茂先生より

 この本は、元宇宙飛行士の野口聡一さんと、元キャスターの大江麻理子さんが、自身の経験や人生観について語り合った対談集です。宇宙に行った「特別な人」が、帰還後に燃え尽き症候群に悩んだり、自分のあり方を見つめ直す姿。そして、キャスターとして活躍しながらも、「自分とは何か(=アイデンティティ)」を仕事に重ねすぎない生き方を模索する姿に、意外性と共感を覚えました。

 印象に残ったのは、「半径5メートル」の人間関係や、リーダー・フォロワー双方の役割に意味があるという考え方です。また、NASAで実践されているMBTI(性格タイプ)を用いたチームづくりの話も、個性を尊重しながら協力することの大切さを教えてくれます。

 この本なかでは、「成功」そのものではなく、「自分を実現するための手段」として仕事や学びがあるということが繰り返し語られています。他人に認められたいという「承認欲求」の先にある「自己実現欲求」にどう向き合うか、今の時代を生きる私たちにとって、大切なメッセージだと思います。

 就職や進路に迷っている人、自分の立ち位置に不安を感じている人にとって、「悩む時間にも意味がある」「今の気持ちと向き合っていいんだ」と、前を向く力を与えてくれるような、励ましに満ちた一冊です。

[藤棚ONLINE]文学部・北川恵先生推薦『発達の扉』

図書館報『藤棚ONLINE』
文学部・北川恵先生より

 夢をもって何かに挑戦しても、そんな簡単には出来ない。だからこそ、周囲に支えられて、出来たときの喜びは大きい。皆さんにもそういった経験があると思います。子どもの発達はそういうプロセスの連続と理解できます。

 『発達の扉(上)』は、子どもが身近な人との関わりのなかで、自らが主人公となって成長する様子が述べられています。発達の原動力は、子どもが「自分も~したい」「できるようになりたい」という願いをもつことです。「~したい、けれどもできない」という前向きな葛藤を大人に支え励まされ、「できるようになる」経験によって、次なる挑戦への「心のバネ」が育まれます。本書には、0歳から6歳の子どもたちの生き生きした写真がたくさん掲載されていて、いつしか読者も発達の主人公を生きる子どもの応援者の気持ちになることと思います。

 子どもに関心があっても、接する機会が限られている人が多いと思います。本書で発達の原点に触れていただくと、人は生涯にわたって関係性のなかで自分の力を発揮できるので、今を頑張る自分へのヒントになることもあるかもしれません。

 障害をもつ子どもの発達の歩みに関心がある人は『発達の扉(下)』もご覧ください。

【第10回 甲南大学書評対決】 伊藤美奈子監 双葉陽マンガ 『わたしもHappy みんなもHappy【ハピかわ】こころのルール』

4月23日(水)に開催された第10回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

経営学部教授 西村 順二 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名:わたしもHappy みんなもHappy【ハピかわ】こころのルール
著者:伊藤 美奈子監 双葉 陽マンガ はぴふるガール編集部編
出版社:池田書店
出版年:2020年

西村先生3冊目のおすすめ本です。こちらはマンガです。

 

以下、先生の書評です。

 

漫画である本書の主人公は小学校5年3組の女子児童たちです。

子供なりに成長期に起こる人間関係に悩み、そしてそれによる自己否定や自信喪失をいかに解決するか、その方法を示してくれています。それは何歳になっても、そして誰にも起こってくる課題です。「わたしの心、みんなの心」、「わたしってどんな子」、「いろいろな気持ちを知ろう」、「違う気持ちを認め合おう」、「気持ちを上手に伝えよう」、これらを読み進めるうちに自分を認め、他社を理解して慮り、楽しく毎日を歩んでいくことに近づくことが出来るような気持ちになります。

本書は、たかが漫画ですが、されど漫画です。少し肩の力を抜いて、一度流し読んでみて下さい。

 

第10回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

もあわせてご覧ください!

【第10回 甲南大学書評対決】 外山滋比古著 『新版 知的創造のヒント』

4月23日(水)に開催された第10回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

経営学部教授 西村 順二 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名:新版 知的創造のヒント
著者:外山滋比古
出版社:ちくま文庫
出版年:2025年

西村先生2冊目のおすすめ本です。1977年に発売された本に特別講義を加えて昨年発売された新版です。

 

以下、先生の書評です。

 

知的創造と冒頭にありますが、本書は「きちんと考えるということが重要である」と一貫して主張しています。

世の中には、今や知るべき情報は「10の20乗」、つまり10垓(がい)の情報量があると言われます(総務省『情報通信白書』2011)。桁では億、兆、そして京、その上が垓(がい)です。10の20乗(10垓)の情報、それらをすべて知ることは不可能です。となれば、それらを知ることではなく、それらを活用して何を考えていくかということが重要になってきます。

筆者はそのヒントを12の短編の様に説明してくれています。「知ること」と「考えること」は異なるのです。「人間は考える葦である」(パスカル)ことを改めて思い出させてくれる1冊です。

 

 

第10回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

もあわせてご覧ください!

【第10回 甲南大学書評対決】 ハン・ガン著 『すべての、白いものたちの』

4月23日(水)に開催された第10回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

経営学部教授 西村 順二 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名:すべての、白いものたちの
著者: ハン・ガン
出版社:河出文庫
出版年:2023年

西村先生1冊目のおすすめ本です。2024年にノーベル文学賞を受賞した本です。

 

以下、先生の書評です。

 

本書は2024年ノーベル文学賞を受賞したハン・ガン氏の著作です。

筆者は、冒頭に筆者にとっての白いものは「おくるみ、うぶぎ、しお、ゆき、こおり等」を挙げています。単に「白色」という色に拘るでなく、筆者の過去の体験、それを現在からみた上でのそれらに対する思いが詰まっています。それを「しろいもの」に見出しています。筆者の世界観が「しろい」をキーワードに広がっています。そして、「しろい」という形容詞が何を修飾するかは読み手に任され、そこには余白がふんだんに用意されています。

是非一読して、ハン・ガンさんの世界観を感じてみてください。きっと、明日から見る風景が変わるかもしれません。また、これまで気づかなかった景色があることに気が付くかもしれませんよ。

 

 

第10回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

もあわせてご覧ください!