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[藤棚ONLINE]法学部・山本真知子先生コラム「「楽園」の325と0」

図書館報『藤棚ONLINE』
甲南大学法学部教授(商法) 山本真知子先生より

 *オランダの人文主義者、デシデリウス・エラスムス(1469年-1536年)が「あなたの図書館はあなたの楽園である。」(“Your library is your paradise.”)と言ったとされています。

【325 商法. 商事法】
 325は、商法研究者が生涯で何度となく見る数字です。日本の図書館の本は、「日本十進分類法」(にほんじっしんぶんるいほう)に従って、分野ごとにまとめられていて、商法(会社法)は325に分類されているからです。
 「日本十進分類法」とは、日本の図書館で使われている分類法です。英語名(Nippon Decimal Classification)の頭文字をとって「NDC」と呼ばれることもあります。森清(1906年-1990年)が考案し、1929年に刊行されました。100年近くにわたって使われていますが、時代の変化に合わせて、日本図書館協会分類委員会によるアップデートもされています。現在(2025年)は、新訂10版(2014年12月刊行)が最新版です。「十進法」を使って0から9までの10の数字を基本とし、10倍しながら桁数を増やしていき、0~9のそれぞれを1~9と0に区分すると、00~99の100に区分でき、さらにそれぞれをまた1~9と0に区分すると、000~999の1000に区分することができます。必要に応じてさらに細かく分類することもあります。
 実際に、10の第1次区分(類目)、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9があり、その1つである3が社会科学となっています。3は10の第2次区分(綱目)に分けられ、その1つが32法律です。32がさらに10の第3次区分(細目)に分類されていて、その1つの325に商法(会社法)があるということになります。
 冊子体のものが入学前後のガイダンスなどで配られたり、図書館にも置いてあったりする、甲南大学図書館「情報探索ガイド2025年度版」にも「NDC日本十進分類法」についての記載があります。図書館の1階に000から599までの本があり、2階に600から999までの本があります。学生の皆さんも、学部・学科等によってそれぞれ親しみのある番号があるのではないでしょうか。

【0 総記】
「日本十進分類法」では、第1区分の0に全体にかかわる総合的な本を分類することになっていて、「総記」と呼ばれています。0にも、03(百科事典. 用語索引)や08(叢書. 全集. 選集)などの第2区分、さらに第3区分等があります。司書教諭(学校図書館法5条)のある人が、この「総記」の0の存在が素晴らしいという趣旨のことを言っていました。これにより、各分野の分類が整うというのです。

【図書館は「楽園」か?】
 図書館には、様々な分野の書籍が所蔵されています。専門の番号の書籍を読み進めるとともに、100から999の数字のなかの普段は手に取らない分野の書籍も読んでみると、世界が多面的に見えてくるかもしれません。その際にも、「総記」の「0」にある百科事典などは有益です。読む本に迷ったら、同じく0の「02図書.書誌学」の中に「本を紹介する本」があります。他の図書館を訪ねてみたければ、日本の図書館、世界の図書館を紹介する本など、図書館についての本も0の中の「01 図書館. 図書館情報学」でみつけることができます。
 0をガイドに、様々な番号への知的な旅を可能にする場所が「図書館」であり、誰かにとっては「楽園」であるのかもしれません。

*しかし、実際には、エラスムスからジョン・フィッシャー(ロチェスター司教)宛ての書簡の中に「あなたがどれだけ際限なくその図書館にいようとも、私にとって全く不思議ではない。図書館はあなたにとって楽園である。私自身にとっては、そのような場所に3時間もいたら気分が悪くなってしまうだろう。」(”It is no secret to me how unremitting you are in the library, which for you is Paradise.” ”As for myself, if I stayed three hours in such place, I would be sick.”)との記述があり、少しニュアンスが異なっています。海に近いかの地の気候とそこにある四方をガラス窓に囲まれた図書館(室)がエラスムスの好みではなかったようです。

【甲南大学図書館で借りられる参考文献等】
<NDC・325・0>
・甲南大学図書館「情報探索ガイド2025年度版」
https://www.konan-u.ac.jp/lib/?page_id=245
・公益社団法人日本図書館協会「日本十進分類法(NDC)」(https://www.jla.or.jp/ndc/
・小林康隆編著『NDCの手引き:「日本十進分類法」新訂10版入門』(日本図書協会、2017年)(014.4//2009)
・宮沢厚雄『分類法キイノート:日本十進分類法[新訂10版]対応〔第3版補訂〕』(樹村房 , 2020年)(014.4//2011)
・伊藤靖史ほか『会社法〔第6版〕』(有斐閣、2025年)(325.2//2649)(1階シラバスコーナー)
・神田秀樹『会社法〔第27版〕』(弘文堂、2025年)(325.2//2652)
<日本・世界の「楽園」>
・新藤透編著『写真にみる日本図書館史』(日外アソシエーツ、2025年)(010.21//2040)
・立野井一恵『新しい、美しい日本の図書館』(エクスナレッジ、2024年)(010.21//2037)
・株式会社楽園計画編『図書館が街を創る。:「武雄市図書館」という挑戦』(ネコ・パブリッシング、2013年)(016.219//2001)
・立田慶裕『世界の大学図書館:知の宝庫を訪ねて』(明石書店、2024年)(017.7//2017)
・gestalten編『世界の図書館を巡る:進化する叡智の神殿』ヤナガワ智予訳(マール社、2023年)(010.2//2022)
・アルベルト・マングェル『図書館 愛書家の楽園』野中邦子訳(白水社、2008年(新装版、2025年))(010.2//2024)
・Desiderius Erasmus and Saint John Fisher, Jean Rouschausse, Erasmus and Fisher : Their Correspondence, 1511-1524 (Librairie Philosophique J. Vrin, 1968), 83 (https://www.google.co.jp/books/edition/Erasmus_and_Fisher/o1fI1hcp8okC?hl=ja&gbpv=0

[藤棚ONLINE]経済学部・荻巣嘉高先生推薦『原因と結果の経済学』

図書館報『藤棚ONLINE』
経済学部・荻巣嘉高先生より

 データサイエンス、流行ってますよね。書店などでも、やれ「AI」とか、「データドリブン」とかを冠した書籍がいろいろ出ています。データサイエンスが大きく流行り出した要因はいくつも議論されていますが、そのなかでも最もインパクトが大きかったのが、コンピュータ性能の劇的な向上と利用可能なデータの大幅な増加でしょう。さまざまな議論がデータに基づいて行われるようになったことはとても喜ばしいことです。その一方で、データから得られる含意を誤解する、あるいは悪意を持って誤った解釈をするというケースも散見されてきています。データを読み解く側のリテラシーがより重要になってきていると言えるでしょう。

 データを読み解く我々にとって重要なリテラシーのうち最も基本的なものは、「相関関係と因果関係は違う」という事実でしょう。相関関係はざっくりいえば、「Aが大きいとき、Bも大きい」とか、「Aが大きいとき、Bは小さい」といった関係性のことです。一方で、因果関係とは「Aが大きくなるとBは大きくなる」とか「Aが大きくなるとBは小さくなる」といった関係性のことです。因果関係は原因と結果の関係性と言い換えても良いでしょう。

 例えば、カレーの売り上げと日本の株価には正の相関関係があることが知られていますが(柴本、2017)、この2つには因果関係があると言えそうでしょうか?もし、「カレーが売れれば日本の株価が上がる」という因果関係が成立していれば、我々日本人が毎日カレーを食べればぐんぐん景気がよくなっていくと考えられますが、実際にそんなことが起こる可能性は限りなく低いでしょう。カレーの売り上げと株価には単に相関関係があるだけで、因果関係があるわけではないと結論づけるのが合理的です。相関関係を見つけるのは比較的容易な一方、因果関係をはっきりさせるのは非常に難しいのですね。

 それでは、因果関係を見つけるためにはどうすれば良いか。そんなあなたにおすすめのファーストステップが、この『原因と結果の経済学』(中室・津川、2017)です。この本ではデータから因果関係を分析するための基本的なコンセプトや、分析結果を読み解いたりする際のコツを教えてくれます。

 華やかに見える「データサイエンス」が、いかにチマチマとした地味で神経質な作業の上に成り立っているのか、その実態をこの本でちょっと覗いてみませんか。

参考文献

『データを分析する際に重要なこと:カレーが売れると株価は上がるのか』柴本昌彦、RIEBニュースレターコラム、2017

『原因と結果の経済学』中室牧子・津川友介、ダイヤモンド社、2017

[藤棚ONLINE]理工学部・池田茂先生推薦『自分の弱さを知る』

図書館報『藤棚ONLINE』
理工学部・池田茂先生より

 この本は、元宇宙飛行士の野口聡一さんと、元キャスターの大江麻理子さんが、自身の経験や人生観について語り合った対談集です。宇宙に行った「特別な人」が、帰還後に燃え尽き症候群に悩んだり、自分のあり方を見つめ直す姿。そして、キャスターとして活躍しながらも、「自分とは何か(=アイデンティティ)」を仕事に重ねすぎない生き方を模索する姿に、意外性と共感を覚えました。

 印象に残ったのは、「半径5メートル」の人間関係や、リーダー・フォロワー双方の役割に意味があるという考え方です。また、NASAで実践されているMBTI(性格タイプ)を用いたチームづくりの話も、個性を尊重しながら協力することの大切さを教えてくれます。

 この本なかでは、「成功」そのものではなく、「自分を実現するための手段」として仕事や学びがあるということが繰り返し語られています。他人に認められたいという「承認欲求」の先にある「自己実現欲求」にどう向き合うか、今の時代を生きる私たちにとって、大切なメッセージだと思います。

 就職や進路に迷っている人、自分の立ち位置に不安を感じている人にとって、「悩む時間にも意味がある」「今の気持ちと向き合っていいんだ」と、前を向く力を与えてくれるような、励ましに満ちた一冊です。

[藤棚ONLINE]文学部・北川恵先生推薦『発達の扉』

図書館報『藤棚ONLINE』
文学部・北川恵先生より

 夢をもって何かに挑戦しても、そんな簡単には出来ない。だからこそ、周囲に支えられて、出来たときの喜びは大きい。皆さんにもそういった経験があると思います。子どもの発達はそういうプロセスの連続と理解できます。

 『発達の扉(上)』は、子どもが身近な人との関わりのなかで、自らが主人公となって成長する様子が述べられています。発達の原動力は、子どもが「自分も~したい」「できるようになりたい」という願いをもつことです。「~したい、けれどもできない」という前向きな葛藤を大人に支え励まされ、「できるようになる」経験によって、次なる挑戦への「心のバネ」が育まれます。本書には、0歳から6歳の子どもたちの生き生きした写真がたくさん掲載されていて、いつしか読者も発達の主人公を生きる子どもの応援者の気持ちになることと思います。

 子どもに関心があっても、接する機会が限られている人が多いと思います。本書で発達の原点に触れていただくと、人は生涯にわたって関係性のなかで自分の力を発揮できるので、今を頑張る自分へのヒントになることもあるかもしれません。

 障害をもつ子どもの発達の歩みに関心がある人は『発達の扉(下)』もご覧ください。

【第10回 甲南大学書評対決】 伊坂幸太郎著 『ペッパーズ・ゴースト』

4月23日(水)に開催された第10回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

女子ラクロス部チーム 文学部人間科学科3年  岩田 眞穂さんからのおすすめ本です。

 

 

書名:ペッパーズ・ゴースト
著者:伊坂幸太郎
出版社:朝日文庫
出版年:2024年

伊坂幸太郎さんの大ファンということで、気合の入ったプレゼンです!

 

以下、岩田さんからの書評です。

 

発売時のキャッチコピーが「明日を観て、世界に立ち向かえ!」と、あるように主人公の檀は他人の未来を見ることが出来る中学校教師です。この能力をきっかけに檀はとある出来事に巻き込まれていきます。

作者は伊坂幸太郎です。伊坂幸太郎作品の特徴である個性的な登場人物と様々な立場の人々が一つの物語に関わり、展開していくストーリーは本作でも魅力の一つです。教え子が渡してきた自作小説に登場するバディ、能力によって新幹線事故から助けた教え子の父親、能力をきっかけに関係を持つようになる謎のサークルと参加者たちが登場します。そこに、檀の能力と5年前の事件など様々な要素が絡まるとき、物語は一つの展開と結末を迎えます。檀は「明日を観て、世界に立ち向かう」ことが出来たのでしょうか。それはぜひ、皆さん自信で確認して見てください。

読みやすい文体と軽快な会話、スピード感があり読後感も良い作品です。小説入門としてもおすすめの一作です。

 

 

第10回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

もあわせてご覧ください!

【第10回 甲南大学書評対決】 湊かなえ著 『告白』

4月23日(水)に開催された第10回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

女子ラクロス部チーム 文学部歴史文化学科4年  田渕 晴さんからのおすすめ本です。

 

 

書名:告白
著者:湊かなえ
出版社:双葉文庫
出版年:2020年

こちらはライブラリーサーティフィケイトでも人気の作品です。

 

以下、田渕さんからの書評です。

 

この本は、作者である湊かなえさんの代表作でもあり、ミステリー小説です。衝撃的な内容と独特な語り口で大きな話題を呼びました。

物語は、教師である主人公の森口悠子が、終業式のホームルームで、自分の娘を殺害した犯人を告白するところから始まります。彼女の告白で、事件の真相が少しずつ明らかになっていき、物語は関係者や周囲の人々など登場人物たちの視点で進んでいくので、様々な視点から物語を楽しめます。それぞれの登場人物が抱える秘密や心の葛藤が明らかになっていき、語り手の視点が変わることで真実が浮かび上がります。予測不可能な結末へと展開していき、目が離せません。

人間の感情や罪、復讐といったテーマが織り交ぜられ、また色々な視点から物語を読むことができ、読者を引き込む話となっています。

 

 

第10回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

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