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[藤棚ONLINE]法学部・岡森識晃先生推薦『新版 ワインの授業 フランス編』

図書館報『藤棚ONLINE』
法学部・岡森識晃先生より

 最近では、レストランやバー、そしてスーパーでも、多くのワインを見かけます。みなさんは、ワインについてどのような知識をもっているでしょうか。ワインを手にとることや飲んだことはあるけれど、どんなブドウ品種でつくられたワインなのか、どこの地域でつくられたワインなのか、どのような格付けのワインなのか、そのような情報がワインのどこに記載されているのかなど、じつのところよくわからないことが多いのではないでしょうか。

 そんな方のために、ワインの銘醸地の一つであるフランスを舞台に、ワインの知識をわかりやすく、くわしく解説したのが本書です。もちろん、上に記載したさまざまな疑問についても解説されています。知っていたら、人に話してみたくなるワインの知識が満載ですので、是非ご一読頂ければと思います。また、社会にでたときの教養の一つとして、ワインの知識を学んでみるのもおもしろいのではないかと思います。

 なお、このような知識を深め、さらに法との関係性について知りたい方は、岡森ゼミにどうぞ。同ゼミでは、さまざまなワインに関する図書を参照しながら、ワインと行政法の関係について研究しています。

杉山明日香 著
『新版 ワインの授業 フランス編』イースト・プレス , 2024
2階中山文庫 588/SU

[藤棚ONLINE]理工学部・池田茂先生推薦『夢の新エネルギー「人工光合成」とは何か』

図書館報『藤棚ONLINE』
理工学部・池田茂先生より

 太陽エネルギーと水を使ってエネルギーになる化学物質(水素など)をつくる方法を植物の光合成になぞらえて「人工光合成」といいます。かつては夢の技術と言われていましたが最近では人類が「使える」技術になる一歩手前まで研究が進んでいます。
 ご紹介する書籍では、そんな「人工光合成」について平易に分かりやすく解説されています。私の研究室に在籍している大学院生(KK)も4年生のときに最初に手に取った本、めっちゃ真面目な感想(書評)をいただいております。
 (以下KKの書評)人工光合成について化学やエネルギー、はたまたその歴史など幅広い観点からまとめられており非常に理解しやすい内容になっている。人工光合成の定義、それに利用される生物、色素、金属錯体や半導体、これからの実用化における道筋と課題に方法について網羅されている。これからの未来に人工光合成技術がどのように活躍していくか期待が高まる一冊になっている。

光化学協会編 井上晴夫監修
「人工光合成」とは何か講談社ブルーバックス , 2016
ISBN: 978-4-06-257980-3

島田雅彦著 『パンとサーカス』

 

 

知能情報学部 4年生 Sさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :パンとサーカス
著者 : 島田雅彦著
出版社:講談社
出版年:2022年

物語は、架空の未来都市を舞台に、社会のあらゆる階層の人々の生活を描き出します。タイトルが示す通り、「パンとサーカス」は、古代ローマの政策を引き合いに出しながら、現代社会における消費文化と娯楽の役割を問いかけます。主人公たちは、表面的な楽しみや消費に没頭することで、本当に必要なものを見失いがちな現代人の象徴です。

個々のキャラクターを緻密に描写し、それぞれの人生に共感を呼び起こす力があります。主人公たちの内面の葛藤や成長、そしてそれに伴う挫折や失望を通して、読者は自らの生活を振り返り、本当に大切なものとは何かを考えさせられます。特に、物語の進行と共に明らかになる人間関係の複雑さや、社会の構造的な問題には、深い考察が込められています。

もう一つの魅力は、その文体にあります。島田雅彦は、緻密で繊細な言葉選びと、時折見せるユーモラスな表現で、読者を物語の世界に引き込みます。彼の描く未来都市は、一見すると非現実的な設定ですが、その中に潜む真実味は、読者に強烈なリアリティを感じさせます。この絶妙なバランスが、物語の魅力を一層高めています。現代社会の問題点を風刺的に描く一方で、希望や救いの要素も取り入れています。これは、単なる批判に終わらず、読者に前向きなメッセージを届けることに成功していると言えるでしょう。島田雅彦は、絶望の中にも微かな光を見出すことで、読者に考える余地を与えています。

総じて、『パンとサーカス』は、現代社会の虚栄と本質的な幸福を探る深い洞察に満ちた作品です。島田雅彦の優れた物語構成力と魅力的なキャラクター描写は、多くの読者にとって忘れられない読書体験を提供します。本書を通じて、私たちは消費社会の中で見失いがちな本当の価値について、改めて考える機会を得ることでしょう。

池井戸潤著 『下町ロケット』

 

 

知能情報学部 4年生 Sさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :下町ロケット
著者 : 池井戸潤著
出版社:小学館
出版年:2013年

池井戸潤の『下町ロケット』は、2013/12/26に刊行され、日本の中小企業の奮闘を描いた感動的な物語です。

主人公の佃航平は、大手企業を辞め、父が経営していた小さな町工場「佃製作所」を継ぎます。彼の夢は、自社製のロケットエンジンを完成させ、宇宙へ飛び立つこと。しかし、現実は厳しく、会社は経営危機に瀕し、社員たちの士気も低下しています。佃は、ロケットエンジンの開発に全力を注ぎますが、次々と壁にぶつかります。大手企業との競争、資金不足、技術的な課題など、数々の困難が彼を待ち受けます。特に、大手企業の圧力に屈しそうになる場面では、佃の苦悩がリアルに描かれています。しかし、佃は諦めず、社員たちと共に困難を乗り越えていく姿が感動的です。

本書の魅力は、単なる企業小説に留まらず、人間ドラマとしても優れている点です。登場人物一人一人が持つ背景や葛藤が丁寧に描かれ、読者は彼らに共感し、応援したくなります。特に、佃のリーダーシップと信念には心を打たれます。彼は、どんなに困難な状況でも、夢を諦めず、社員を信じ抜きます。この姿勢が、社員たちの士気を高め、一丸となって挑戦する原動力となります。また、技術に対する情熱も本書の重要なテーマです。

佃製作所のエンジニアたちは、自分たちの技術に誇りを持ち、常に高みを目指しています。彼らの技術者魂が、ロケットエンジン開発という壮大な夢に結実する過程は、読み応えがあります。技術の進歩と、それを支える人々の努力が描かれることで、読者は科学技術の素晴らしさと、その背後にある人間の力を実感することができます。日本の中小企業の現状と課題をリアルに描いており、経営者やビジネスマンにとっても示唆に富む内容となっています。そのため、社会人になる前の大学生にとってもためとなる作品です。

グローバル化が進む現代社会において、小さな企業がどのようにして生き残り、発展していくのか。その答えを佃製作所の奮闘に見ることができます。

[藤棚ONLINE] 文学部・ファヨル入江容子先生推薦, エルザ・ドルラン著『人種の母胎―性と植民地問題からみるフランスにおけるナシオンの系譜』

図書館報『藤棚ONLINE』 (特別寄稿)
文学部・ファヨル入江 容子先生より

 7月に入りましたが、雨降りの日々、みなさんいかがお過ごしでしょうか。曇り空に憂鬱な気分になっている方もいらっしゃるかもしれません。こんなときは、図書館に足を運び、読書に耽ってみてはどうでしょうか。運が良ければ、心に晴れ間が射すかもしれません。ある書物との奇跡的な出会いが、これまで見ていた「世界」をまるっきり変えてくれることもあるからです。雲の切れ間から日の光が差し込むように、視界が開け、暗く閉ざされた世界が、実はさまざまな色彩に満ちた多様な世界だったことに気づかされることになるのです。そのような転換、目の覚めるような出来事が読書経験には秘められています。

 今回、ご紹介するのは、私にそのような気づきをもたらし、翻訳に至った書物、フランスの哲学者エルザ・ドルラン〔Elsa Dorlin:1974-〕『人種の母胎――性と植民地問題からみるフランスにおけるナシオンの系譜』(人文書院、2024年)です。
著者のドルラン氏はフランス国立トゥールーズ・ジャン・ジョレス大学教授として、現代政治哲学を講じ、性(セックス)/ジェンダー/セクシュアリティ、「人種」および階級の交差的課題、身体論、暴力論を主な研究領域として、精力的に執筆・研究活動を続けています。
本書では、17・18世紀におけるフランスを中心としたヨーロッパの医学文献・資料を丹念に読み解くことにより、現代に続く性差別および人種差別を正当化する支配原理の淵源に鋭く切り込んでいます。
 女性の身体は、いかにして、病理化、つまり「病」に苛まれる身体として規定されることを通じ、その劣等性が徴づけられ、男女間のヒエラルキーが正当化されるに至ったのか。さらには、女性間の身体もまた「病」によって、ブルジョワあるいは貴族階級の白人女性と、客体化された例外的女性たち(庶民階級の女性、農村女性、女性同性愛者、黒人女性、先住民女性)として区別されるに至ったのか。また、このような「女性」の身体と同様の問題設定において、植民地における「原住民」およびアフリカ大陸から強制移送されたアフリカ人の身体は、どのように病理化されたのか、また、この医療的操作よって、「健康」である「白人」の優位性が徴づけられ、「人種」をめぐる権力関係がいかに正当化されていったのか。これらの問いに応答しつつ、植民地が、「フランス国民(ナシオン)」を胚胎するための「実験場」であったということが明らかにされていきます。

『人種の母胎』

エルザ ドルラン 〔Elsa Dorlin〕 著,ファヨル入江 容子
人種の母胎 ― 性と植民地問題からみるフランスにおけるナシオンの系譜
人文書院, 2024/06
ISBN: 9784409041277
原書タイトル:La Matrice de la race. Généalogie sexuelle et coloniale de la Nation française, Édition la découverte

 甲南大学で本年5月に行われた翻訳刊行記念講演会では、「性」と「人種」はそれぞれ別個のカテゴリーをなしているわけではなく、前者が後者の「モデル」を提供しているというよりは、分かち難く、より複雑に結びついていることが強調されていました。原著出版から現在まで、人種差別と性差別をめぐる状況はあまり変わったとはいえないとおっしゃっていたことも印象的でした。
 ドルラン氏は、岡本キャンパスを散策の折には、なんぼーくんと記念写真を撮るなど、彼女の研究内容からは全く想像がつきませんが、日本の「かわいい」ものがお好きなようでした。なお、KAWAIIは国際語です。講演会後に、討論者を務めてくださった鵜飼哲先生(一橋大学名誉教授)と三人で訪れた元町のバーでは、おすすめした灘のお酒――中でもすっきりとした飲み心地のもの――をとても気に入ってくださり、たった1日半という短いご滞在でしたが、神戸を満喫されたようでした。また甲南大学に来てくださるといいですね。

[藤棚ONLINE]文学部・図師宣忠先生 推薦『図書館の興亡──古代アレクサンドリアから現代まで』ほか2冊

図書館報『藤棚ONLINE』
文学部・図師宣忠 先生

 みなさんは本をどのくらい読みますか? 人は一生の間に何冊の本を読むことができるでしょうか? 日本で一年間に出版される点数は、2023年のデータでは6万6885冊だったそうです。これを365日で割ると一日当たり183冊。1人の人がとても全部を読み切れる量ではありません。溢れかえる本の量に圧倒されますね。

 そこで大切になってくるのが「良い本」に巡り合えるかどうか。甲南大学図書館には学生のみなさんの学びに関わる本を中心に全体でおよそ110万冊もの本が所蔵されています。レポート作成や卒論執筆のための文献を探すために図書館を利用している人は多いと思いますが、自分にとって大切な本と出合うために書架のあいだを巡ってみてはいかがでしょうか。もちろん人によって「良い本」は異なります。図書館に所蔵されている本もじつは玉石混淆だし、その圧倒的多数は自分には響かないものかもしれません。だからこそ、今の自分にピッタリの素敵な本との邂逅を果たすことができたとき、それは今後の人生にとってかけがえのない瞬間となるはずです。そしてその本をじっくり味わってみてほしいと思います。

 おすすめの本としては、図書館をめぐる興味深いエピソードが満載の本を3冊紹介しましょう。そもそも図書館とは何のために存在するのか? 本をたくさん集めて、保管し、人々の利用に供する理由とは? 図書館の歴史を辿るとき、社会の中で必ずしも図書館が大切にされず、逆に破壊の憂き目に遭う事態も見えてきます。いずれの本も「人間にとって図書館とは何か」という根源的な問いに向き合っていて、読み応えがあります。