川口俊和著『コーヒーが冷めないうちに』

法学部1年 藤井 暖さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

 僕が選んだ「コーヒーが冷めないうちに」という本は、特定の場所でコーヒーを飲むと過去に戻ることができる不思議な喫茶店があり、それを知って過去に戻ろうとする人たちのそれぞれの物語が書かれた本です。
 しかしこの本で書かれている「過去に戻れる」という行為にはいくつかの複雑なルールがあります。
 ①過去に戻ってもこの喫茶店を訪れたことのない人とは会えない、②過去に戻って何をしても現在は変わらない、③過去に戻れる時間は淹れてもらったコーヒーが冷めるまでの間、④過去に戻ってもコーヒーを飲んだ自分の席からは動けない、というものです。
 正直、自分ならここまでして過去に戻るのは面倒だなと思ってしまいました。
 しかしこの作品に出てくる登場人物はこれらの複雑なルールがあるにも関わらず、それ以上に過去に戻りたいと強く願う人たちばかりです。
 そんな人たちがそれぞれ抱えている過去の後悔を取り戻そうとするドラマが見れ、とてもおもしろく感動できる本です。
 作者の川口俊和さんは1971年に大阪府茨木市で誕生しました。
 もともとは、小説家でなく劇団の脚本家兼演出家として活動していました。
 そこで、この小説が出版されるきっかけとなる舞台「コーヒーが冷めないうちに」を公演し第10回杉並演劇祭大賞を受賞しました。
 この舞台をたまたま見に来ていた編集者が感動し、是非小説にしたいという思いから小説の「コーヒーが冷めないうちに」の出版が実現しました。
 この作品が川口さんの小説デビュー作となり、その後2018年に映画化されるなどとても人気のある作品となりました。
 他の著書として「この嘘がばれないうちに」と「思い出が消えないうちに」という作品があります。
 この2作はタイトルからも想像がつく通り、「コーヒーが冷めないうちに」の続編として出版されました。
 しかし、これほど有名な小説を書き上げた川口さんですがなんとこの他に著書がありません。
 理由としては、本業が劇団の脚本家兼演出家であるので小説を書き上げる必要がないことだと思います。
 ですが副業としてここまで有名な小説を書いた川口さんは本当にすごいと思いますし、まだこれから新しい作品が生まれるかもしれないのでとても楽しみです。
 最後に、映画と原作では話が少し変わっているので原作を読んでから映画を見て比較をしてみてもおもしろいかもしれません。

参考:【映画】コーヒーが冷めないうちに / 川口俊和原作 ; 塚原あゆ子監督 ; 奥寺佐渡子脚本