2-1. 学生オススメ」カテゴリーアーカイブ

宇佐見りん著 『推し、燃ゆ』

 

 

知能情報学部 4年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 推し、燃ゆ
著者 : 宇佐見りん

出版社:河出書房新社
出版年:2020

「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」。この衝撃的な書き出しから始まる本作は、現代社会に
おける「推し」という現象を、単なるファン心理としてではなく、一人の少女の切実で過酷な生
存戦略として描き切った傑作である。

主人公のあかりにとって、アイドルである上野真幸を「解釈」し、その活動を全身全霊で応援することは、日常の一部ではなく、彼女の生存そのものである。学業や家族関係といった、誰もが当たり前にこなすべき「生活」がうまく制御できない彼女にとって、推しという存在は、重力に抗って自分をこの世界に繋ぎ止めるための唯一の「背骨」なのだ。彼女が推しの言葉を克明に記録し、その一挙手一投足に全存在を捧げる姿は、現代的な宗教儀礼、あるいは一種の聖痕を求める祈りにも似ている。

著者の宇佐見りんは、あかりが抱える根源的な「生きづらさ」を、痛々しいほど生々しい身体感覚を伴う描写で読者の意識に刻みつける。重たくままならない肉体、淀んだ部屋の空気、そしてそれらと対照的に、画面の中で発光し続ける推しの輝き。その対比が、彼女の孤独をより一層残酷に際立たせる。

物語の終盤、推しの引退によって文字通り「背骨」を失ったあかりが、絶望の深淵で四つん這いになりながらも、再び自分の手で何かを掴もうとする場面は、凄まじい迫力をもって迫ってくる。 他者に自己の存在意義を完全に委ねることの危うさと、それでもそうせざるを得ない人間の「業」を、本作は剥き出しの言葉で射抜いている。SNSが個人の実存を規定する現代において、他者との境界線や、救いという名の依存の正体を問い直す、極めて鋭利な知性を備えた一冊である。

文学の力によって可視化された彼女の痛みは、読者の足元をも揺るがすだろう。本作を読み解くことは、現代を生きる私たちの脆さと向き合うことであり、深い読解力を養うための貴重な契機となるはずだ。

又吉直樹著 『火花』

 

 

知能情報学部 4年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 火花
著者 : 又吉直樹

出版社:文藝春秋
出版年:2015

売れない芸人である徳永と、彼が決定的な影響を受ける先輩芸人・神谷。本作は、二人の十年以
上にわたる交流と葛藤を軸に、表現することの本質と、夢が摩耗していく残酷な過程を描き出し
た一級の文学作品である。

物語の根底に流れているのは、他者からの評価という絶対的な他律性と、己の信念という自律性の激しい衝突だ。徳永が世間の基準に合わせようともがく一方で、神谷は純粋すぎるがゆえに世俗的な成功から遠ざかり、破滅的な狂気へと足を踏み込んでいく。読み手は、神谷の滑稽なまでの純粋さが、現実という壁にぶつかり、形を変えていく過程に、目を背けたくなるような悲劇性と、それゆえの崇高な美しさを感じるだろう。

特筆すべきは、芸人という特殊な職業を扱いながら、そこで語られる苦悩が普遍的な「生」の問いに直結している点だ。何かに情熱を注ぎ、それが具体的な結果や報酬に結びつかなかったとき、その時間は果たして「無駄」であったと切り捨てられるべきものなのか。物語の終盤、夢に敗れた徳永がたどり着いた境地は、効率性や成果主義を過剰に重視する現代社会において、私たちが無意識に切り捨てている「無用の用」の大切さを静かに、しかし力強く訴えかけてくる。 自意識という名の檻の中でもがきながらも、それでもなお誰かに何かを届けようとする人間の、醜くも尊い営み。

著者の内省的で詩的な文体は、舞台上の喧騒と、その裏側に横たわる圧倒的な孤独を鮮やかに描き出している。結末において、すべての「敗者」たちへと捧げられる肯定の眼差しは、読者の胸に深
い救いとなって響くはずだ。本作は、青春の終わりを経験した、あるいは今まさにその渦中にい
るすべての学生に、自らの歩みを見つめ直すための誠実な勇気を与えてくれるだろう。文章量が
ある本に向き合うことで、言葉の裏側にある沈黙や、割り切れない感情を咀嚼する力を養うのに、
これ以上ふさわしい一冊はない。

サイモン・シン著 『暗号解読 上』

 

 

知能情報学部 4年生 山下 隼さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 暗号解読 上
著者 : サイモン・シン [著] ; 青木薫訳

出版社:新潮社
出版年:2007

本書は、古代の単純な換字式暗号から、インターネット社会を支える現代の公開鍵暗号、そして未来の量子暗号に至るまで、数千年にわたる暗号技術の進化を描いた壮大なクロニクルです。

本書を貫くのは、情報を守ろうとする「暗号作成者」と、それを暴こうとする「暗号解読者」による、執念深いいたちごっこの歴史です。 古代ギリシャのスキュタレー暗号やシーザー暗号に始まり、それを「頻度分析」という統計的手法で打ち破ったアラブの賢人たち。長らく解読不可能とされた「ヴィジュネル暗号」の牙城を崩した19世紀の変人バベッジ。ある技術が「絶対」と過信された瞬間に、天才的な解読者が現れてその壁を突破していく様は、まるでミステリー小説のようなスリルに満ちています。

特に圧巻なのは、第二次世界大戦中のドイツ軍の暗号機「エニグマ」を巡る攻防です。アラン・チューリングら英国ブレッチリー・パークの天才たちが、数学と論理を武器にナチスの鉄壁の守りを崩していく過程は、本書の最大のハイライトと言えるでしょう。暗号解読がいかに戦争の勝敗を左右し、歴史の転換点となってきたかが克明に描かれています。

物語の後半では、現代のネット社会になくてはならない「公開鍵暗号(RSA)」の誕生秘話が語られます。「鍵を配送せずに、鍵を共有する」という、常識を覆す魔法のような数学的アイデアがいかにして生まれたか。そして、国家による情報統制と個人のプライバシーを巡る「PGP」の闘争は、監視社会化が進む現代において、より切実な問いとして響きます。

サイモン・シンの真骨頂は、難解な数学的理論を驚くほど平易に、かつエキサイティングに解説する筆力にあります。文系・理系を問わず、ページをめくる手が止まらなくなるはずです。 「情報は誰のものか」という問いがかつてない重みを持つ今、人類が積み上げてきた「秘める技術」の歴史を知ることは、現代を生きる私たちにとって必須の教養と言える一冊です。

岸見一郎, 古賀史健著 『嫌われる勇気』

 

 

知能情報学部 4年生 山下 隼さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 嫌われる勇気
著者 : 岸見一郎, 古賀史健

出版社:ダイヤモンド社
出版年:2013

この一冊は、単なる慰めや共感を目的とした自己啓発本ではありません。むしろ、私たちが無意識に抱え込んでいる「常識」や「言い訳」を粉砕し、新しい世界を見るためのレンズを与えてくれる、ある種の「劇薬」のような一冊です。物語は、「世界はどこまでもシンプルであり、人は今日からでも幸せになれる」と説く哲人と、それに納得できず反発する青年の対話形式で進みます。この青年の反論は、まさに私たち読者の疑問そのものであり、哲人の回答は鋭く私たちの核心を突きます。

本書の最大の衝撃は、「トラウマは存在しない」という断言から始まります。フロイト的な「過去の出来事が今の不幸の原因である(原因論)」を否定し、アドラー心理学は「今の現状を維持したいという『目的』のために、過去の出来事を利用している(目的論)」と考えます。 「変われない」のではなく、「変わりたくない」から不安や恐怖を作り出しているという指摘は、耳が痛いと同時に、過去の呪縛から私たちを解放してくれます。「これからの人生は、自分で選べる」という強烈なメッセージです。

本書のタイトルの由来でもある「課題の分離」は、対人関係の悩みを一刀両断する概念です。「あの人が私をどう思うか」は相手の課題であり、私がコントロールできることではありません。 承認欲求を捨て、他者の期待を満たすために生きることをやめる。それは「嫌われることを恐れない」という勇気を持つことであり、それこそが真の「自由」であると説きます。冷たい突き放しのように聞こえますが、これは相互依存ではなく、自立した個人として他者と協力するための不可欠なステップです。

最終的に本書は、過去を悔やむことでも未来を憂うことでもなく、「いま、ここ」を真剣に生きることの重要性に帰着します。人生とは点(瞬間)の連続であり、今の瞬間に強烈なスポットライトを当てれば、過去も未来も見えなくなるはずだという教えは、漠然とした不安の中で生きる現代人にとって強い指針となります。

読み終えた後、世界が少し違って見えるはずです。それは魔法ではなく、あなた自身の視点が変わったからに他なりません。人間関係に疲れ、他人の顔色を伺って生きることに息苦しさを感じているすべての人に、この書を推薦します。

スティーヴン・ウルフラム著 『ChatGPTの頭の中』

 

 

知能情報学部 4年生 Yさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : ChatGPTの頭の中
著者 : スティーヴン・ウルフラム著 ; 高橋聡訳

出版社:早川書房
出版年:2023

2025年現在、かなり多くの人が一度はChat GPTを使用したことがあるのではないだろうか。Chat GPTはまるで人間のように内容をまとめ、質問に対して返答する。私も、プログラムのエラーが出た時によく使用している。人間だとエラーの発見・修正に数分はかかるものが、Chat GPTなら僅か数秒でエラーを発見し修正案まで提案してくれるため、非常に重宝している。Chat GPTを使用するなかで、どのようにChat GPTが動いているか気になる人も多いはずだ。

本書のはじめでは、Chat GPTはニューラルネットワークという概念が基になっていることが示される。ニューラルネットワークとは、人間の脳が非常に多くの神経細胞が複雑な網状に結合されていることに着想を得て考案された。

次に、Chat GPTが確率に基づいて次の単語を選んでいることが示される。その確率がどのように計算されているかを、数字の認識や画像認識、単語の意味空間の例を用いて解説している。

本書の中盤では、以上の事柄を踏まえて、Chat GPTの内部でどのような処理が行われているのか、どのように訓練されているかが示される。しかし、機能の実態はまだ解明されていない部分も多い。

最後に、Chat GPTが人間のように文章を出力できることを受けて、人間の思考の過程にどのような根本的な特性と原理が存在するかを示す手掛かりになる可能性があることが示される。

本書では、Chat GPTがどのように動作しているかを、機械学習の例や図を用いて丁寧に解説している。また、Chat GPTが人間の脳を参考にしており、人間の思考の過程とどのような関係にあるか興味深い点である。機械学習や画像認識との関わりの深い内容であるので、知能情報学部の学生にはぜひ読んでいただきたい。

岸見一郎, 古賀史健著 『嫌われる勇気』

 

 

知能情報学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 嫌われる勇気
著者 : 岸見一郎, 古賀史健

出版社:ダイヤモンド社
出版年:2013

「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」。もしあなたが今、友人との関係や周囲からの評価、あるいは漠然とした将来への不安を抱えているとしたら、この言葉はあまりにも断定的で、少し乱暴に聞こえるかもしれない。しかし、岸見一郎と古賀史健による『嫌われる勇気』は、そんな私たちの常識を根底から覆し、世界の見え方を一変させる力を持った「劇薬」のような一冊である。

本書は、フロイト、ユングと並ぶ「心理学の三大巨頭」の一人、アルフレッド・アドラーの思想を解説した哲学書だ。しかし、決して堅苦しい専門書ではない。本書の最大の特徴は、悩める「青年」と、アドラー心理学を修めた「哲人」による対話形式で進む点にある。自分に自信が持てず、世界を複雑で生きにくい場所だと嘆く青年は、まさに読者である私たちの代弁者だ。彼が哲人の語る理想論に猛反発し、食ってかかることで議論は深まり、私たちは哲人の言葉を単なる知識としてではなく、自分事として受け止めることができる。

本書の中で特に衝撃的なのは、「トラウマの否定」だろう。私たちはしばしば、「今の自分がうまくいかないのは、過去のあの出来事のせいだ」と考えがちだ。しかしアドラー心理学はこれを明確に否定する。人は過去の原因によって突き動かされるのではなく、今の自分が定めた「目的」に沿って生きているのだ、と。つまり、変われないのは過去のせいではなく、自分自身が「変わらないこと」を選んでいるからだという指摘は、残酷なまでに厳しい。だが同時にそれは、「私たちはいつでも、今のこの瞬間から変わることができる」という力強い希望のメッセージでもある。

そして、タイトルの『嫌われる勇気』という言葉の真意は、「課題の分離」という考え方に集約される。他者が自分をどう思うかは他者の課題であり、自分にはコントロールできない。それにもかかわらず、承認欲求に縛られ、他者の期待を満たすために生きることは、自分の人生を他人任せにすることに他ならない。誰かに嫌われるということは、あなたがあなたらしく自由に生きている証であり、対人関係のカードを自分自身の手に取り戻すための代償なのだ。

読み終えた後、あなたの目には、今までと同じ景色がまったく違った色合いで見えるようになっているだろう。この本は、読むだけで痛みが消える優しい鎮痛剤ではない。むしろ、今の自分を直視させられる苦い薬だ。しかし、もしあなたが「今のままではいけない」と少しでも感じているのなら、この本は間違いなく、新しい人生の扉を開くための鍵となるはずだ。世界はシンプルであり、人生はどこまでもシンプルである。その事実に気づくための勇気を、ぜひ本書から受け取ってほしい。