松川恭子先生(文学部)「インド系作家の小説は面白い」

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 最近では小説を読む時間がほとんど取れないが、小学生の頃の私は、かなりの読書好きだった。学校の図書館に入り浸っては、『少年少女世界文学全集』(講談社)を全巻読破するのを目標にしていた。小学校3 年生あたりからその習慣が始まったと記憶している。その頃の私について「学校の行き帰りも本を読みながら歩いていたよ」と幼馴染は証言する。この小文を書くにあたって、この全集にはどんな作品が収録されていたのだろう、と思い確認してみると、アメリカ編に「若草物語」「トム・ソーヤーの冒険」等が、イギリス編に「宝島」「フランダースの犬」等が収録されていた。その他、フランス編、ドイツ編など、ヨーロッパが中心で、他地域の文学といえば、「古事記」他が収録された日本編以外には、「アラビアンナイト」等が収められた東洋編しかなかった。とても「世界文学」とはいえないラインナップである。この全集が出版された1960 年代は、欧米中心で文学作品が考えられていたということなのだろう。
  この中で、私が研究対象としているインドの作品は、東洋編の「ラーマーヤナ」しかない。だが、インドは、近年、多くの素晴らしい作家を輩出している。現代的な世界文学全集を編集するとしたら、アフリカ、中南米諸国の作家と並んで、インド系作家の作品がいくつも入るだろう(インド国籍ではなく、イギリスやアメリカの国籍を持つ作家もいるので、「インド系」という言葉を使う)。彼らの多くが英語で小説を書き、世界中に読者を獲得している。彼らの小説を読んで、私がインドについて知ることは多い。とにかくインド系作家の小説は面白い。インド人は移民として世界各地に出ていっていることもあり、中にはインドを越えた領域を舞台とするスケール感の大きい作品もある。まだ日本語訳されていない作品も多く、私はインド系作家の小説を英語で読むことが多いのだが、今回、日本語で読めるお勧め作品を2つ挙げておきたい。一つは映画『スラムドッグ・ミリオネア』の原作、『ぼくと1 ルピーの神様』(ヴィカス・スワラップ著、2006 年、ランダムハウス講談社)である。主人公がクイズ番組に出場するという物語の軸は同じだが、インドに生きる人々の姿が丹念に描かれており、各エピソードが胸を打つ。著者は在大阪インド総領事を務めたこともある。そしてもう一つ、『ガラスの宮殿』(アミタヴ・ゴーシュ著、2007 年、新潮社)を挙げておく。こちらはインド移民の貧しい少年とビルマ王朝に仕える侍女の少女の出会いから始まる、ビルマ(ミャンマー)とインドを舞
台とした壮大な歴史小説である。
 活字離れと言われつつ、特定のジャンルの本は読まれているとも聞く。大学生には自由な時間が多い。アルバイトに精を出すのもよいが、読書の幅を広げるには絶好のチャンスだと思う。これまで読む機会がなかったような様々な作品にぜひチャレンジしていってほしい。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.33 2016) より