中町信孝(文学部)『「アラブの春」と音楽〜若者たちの愛国とプロテスト』

   <教員自著紹介>
   2011年、世界を席巻した「アラブの春」と呼ばれる政治運動は、皆さんの記憶にも新しいことでしょう。当時、アラブ世界の若者たちは自由を求める「革命」を起こし、その中でもエジプトではムバーラクの独裁政権が倒されました。しかしそのわずか2年後、エジプト初の文民大統領であるモルシー政権が軍による「クーデター」で倒れると、若者たちの多くは軍部主導の新体制を支持しました。このような、一見すると独裁への逆行、民主主義の後退ともみえるエジプトの社会情勢は、なぜ生じたのでしょう?

 不可解な中東政治の動きを解き明かすために、この本ではエジプトのポピュラー音楽、略して「エジポップ」に注目しました。若者たちが好んで聴くエジポップを分析すれば、時に「若者の革命」と呼ばれたアラブの春の実情を理解することが可能になると考えたからです。戦後から現在のエジプトにおいて、どんな曲が流行ったか? こてこて演歌系から劇甘ラブ・バラード、攻撃的なヒップホップから荒削りなインディー・ロックまで、エジポップの流行の変遷をたどることで、いつのまにか中東現代史の流れまでもが頭の中に入って来ます。

 もちろん、ただ活字を追うだけではエジポップを楽しむことはできません。そこで本書の参考楽曲リストとして、YouTubeプレイリストを作成しました。興味のある人は、まずYouTubeのサイトに飛んで、 アラブの春と音楽 を検索してみてください。この本の中で紹介した123曲のビデオクリップがセレクトされていますので、まずは観て聴いてください。見知らぬ国の素敵な音楽との出会いがあるかも知れません。そして、同年代の若者として、アラブ世界の若者たちのことをもっと身近に感じてもらえればうれしいです
 
■『「アラブの春」と音楽〜若者たちの愛国とプロテスト』  中町信孝(著) DU BOOKS,  2016年3月
■請求記号 762.42//2002 
■配架場所 図書館1階シラバス
■著者所属 文学部  教授

■中町先生からのお薦め本
『深夜特急 沢木耕太郎 著
請求番号 915/SA/1~3    配架場所 図書館2F中山一般
旅を愛する若者(中年も含む)にとっての永遠のバイブル。大沢たかお主演でドキュメンタリー風ドラマにもなりました。原作、ドラマとも、本学図書館に所蔵があります。

『J-POP進化論〜「ヨサホイ節」から「Automatic」へ』 佐藤良明著
宇多田ヒカルの登場で終わっていますが、流行歌を用いた社会分析という点では古典的名著と言えます。手軽に読めますので音楽ファンは是非。

『イスラーム思想史』井筒俊彦 著
請求番号 120.8/4/2002   配架場所 図書館3F書庫一般
つて世界をリードしたイスラーム世界の思想・哲学についての基本中の基本とも言える入門書。取っつきにくいテーマですが、文章は簡単で、すっきりと頭に入ります。