岡本綺堂著『半七捕物帳』

書名: 半七捕物帳 年代版 1~4
著者: 岡本綺堂
出版者: まどか出版  出版年: 2011.11 (初出:  1917年) 
場所: 2階中山文庫  請求記号: 913/O/1~4

今年2017年は、日本探偵小説の嚆矢『半七捕物帳』100周年です。

岡っ引きの親分「半七」が、江戸の町でおきる事件を解決する探偵小説です。派手な剣戟シーンがないので、あまり映像化はされていませんが、江戸の人情が伝わる名時代小説で、100年経っても人気が衰えることなく、現在でも新しい版が出版されています。

本学図書館にある版は、半七が活躍した化政期から幕末までの事件を年代順に並べた版です。『半七捕物帳』シリーズは全て短編なので、1冊に20編程が収録されていてお得だということもありますが、年代順、というところもポイントです。というのも、岡本綺堂の作品は、時代劇関係者が使うほど時代考証に定評があり、通して読むと江戸時代を体感できるのです。

地理や小道具はもちろんですが、特に、登場人物たちが使う言葉を楽しんでください。江戸時代、つまり明治時代に標準語が定められる前は、地域だけでなく、身分、職業、上下関係、男女、年齢などによって、多様な日本語が存在していました。加えて、自由に言葉を着せ替えできる粋な人、方言丸出しの野暮な正直者など、登場人物の個性によっても言葉が変わります。
例えば、(半七は粋で知的なキャラなので、めったに使いませんが、)有名な「てやんでぃ!」は、下町の町人が目下の人物に対してしか使いません。また、半七が目上の武士から事件を任される際には、特別なお役を引き受けるという自負を込めて「ようがす(よろしいです、承知しましたというような意味)」というような独特の敬語を使います。
岡本綺堂は、物語全体を現代の我々でも分かりやすい言葉でまとめながらも、会話ひとつで登場人物の人柄をイメージできるように仕掛け、短い物語を奥深く仕上げています。

小説を楽しみながら、歴史文化も楽しめるシリーズです。