森本 裕先生(経済学部)「より良い仕組みを目指して」

☆新入生向けの図書案内
書名:市場を創る
筆者:ジョン・マクミラン(瀧澤弘和・木村友二 訳)
NTT 出版株式会社 2007 年
 「社会の役に立ちたい」「世の中を良くしたい」と考えている学生におすすめなのが、ジョン・マクミランの『市場を創る』です。
 市場(しじょう)というのは、金銭と財・サービスを交換するすべての場を示す表現です。ですから、身近なコンビニやスーパー、そして病院や大学も市場ということができます。かつての経済理論では、市場は自律的なので政府による介入は不要とされてきました。アダム・スミスの「神の見えざる手」の世界ですね。しかし、現実には市場を放っておくことはできません。放置された市場では、独占企業による価格の吊り上げ、無知に付け込んだ詐欺、利益偏重な企業活動による環境破壊といった問題が生じてしまいます。このような社会問題を解消するためには、取引のルールを作らなければなりません。整えられたルールを有する、規律ある市場が必要なのです。本書では全17 章にわたって、うまく市場を創れた成功事例を紹介しています。
 では、具体的な事例を一つ見てみましょう。第9章「特許という困惑」では、貧困国のエイズ問題について書かれています。かつては死の病であったエイズですが、1990 年代に治療薬が開発され、症状を抑え込めるようになりました。しかし、薬価が年間100 万円もするため、貧困国では薬を買うことができませんでした。販売価格は100 万円ですが、実は、製造には数万円しかかかりません。残りは製薬会社の利益になるわけですが、みなさん、「ぼったくり企業め!」と思うでしょうか?確かに原価率はものすごく低いのですが、新薬の開発には巨費が投じられているので、それを回収しなければなりません。そのために価格が高いのです。もし、この100 万円の価格を原価である数万円まで引き下げられれば、貧困国の患者も薬を買うことができるようになります。企業の利益を確保しつつ、貧困国の患者を救済するいいアイデアがないかということで、考え出されたのが次のルールです。「先進国では定価で販売し、大いに利益を上げる。一方、貧困国では原価で販売し、利益は一切出さない。」ということになったのです。このルールのおかげで、企業も患者もWin-Win の関係になることができました。
 ほかにも色々な、アッと驚く成功例が納められていますので、ぜひ読破してみてください。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より