森 茂起、港道 隆編集『<戦争の子ども>を考える- 体験の記録と理解の試み』

<教員自著紹介>
第二次世界大戦が終結して七〇年近くになる。そこに吹き荒れた暴力は
その後の世界に、物的・人的な被害ばかりでなく、トラウマという形で
人々の心に深い傷跡を残した。その意味では戦争は終わらない。
その後も戦争、地域紛争、テロリズム、差別は絶えることなく、被害を
生みだし続けている。そして東関東大震災、幾多の犠牲者、幾多の恐怖、
幾多の苦悩、見えない未来。こうしたコンテクストを踏まえて本書は、
子供時代の戦争体験に注目した調査研究をメインに、次の四部構成からなる。
 第一部「〈戦争の子ども〉の時代の記録と検証の試み」には、関西地区を
対象に、心理学および歴史学という二つのアプローチから行なった戦争体験の
聴き取り調査をもとにした報告と考察、「関西地域における「戦争の子ども」」
(藤原雪絵)と「疎開体験の調査——精道国民学校の場合」(東谷智)を収め、
その間に、口述証言をテーマに二つのアプローチの関係を方法論的に考察する
「「国民の子ども」における心理学的研究と歴史学的研究の相補性」(人見
佐知子)が介在する。「序論——「戦争の子ども」研究の意義」(森茂起)は
、第一部の序説であるとともに、全巻の序説でもある。
 第二部「戦争を生きた子どもたち」は、ミュンヘン大学のM.エルマン氏を
招いて本学で開催したシンポジウムの記録である。第二次大戦における「加害者」
として自らを位置づけてきたために埋もれてきたドイツ市民の被害者性を掘り
起こした調査研究についての氏の発表、東京都墨田区立すみだ郷土文化資料館で、
描画によって空襲体験者の「語りえない記憶」を蒐集し展示してきた経験の報告
「語りうる戦争体験、語りえない戦争体験」(田中禎昭)、NHKで戦争体験の継承
を模索しつつ番組「祖父の戦場を知る」に携わった経過の発表「戦争を生きている
子どもたち——祖父の戦場」(大森淳郎)は、大学における学術研究とは異なる場
での実践報告であり、討論会の記録がそれに続いている。
 第三部「〈加害‐被害〉関係と和解、そして赦し」は、暫定的綜合である「戦争
体験にみる「加害」と「被害」」(森・人見・エルマン)と、和解と赦しの関係の
哲学的考察「喪、赦し、祈り」(港道隆)からなる。
 本書は、文部科学省の「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の助成を受けて
甲南大学人間科学研究所が2008年から続けてきた研究成果の一つである。

■『 <戦争の子ども>を考える- 体験の記録と理解の試み 』平凡社 2012年
■編者所属:森 茂起 人間科学科 教授、港道 隆 人間科学科 教授