吉村(八亀)裕美先生(文学部)「すてきな出会いを」」–藤棚vol.32より

☆新入生向けの図書案内 
 通販は便利だ。重たいものを持って帰らなくても、自宅まで届けてくれる。さらにありがたいことに、購入商品の履歴から、私が興味を持ちそうなものを類推して、「こんなものもありますよ」と、勧めてもくれる。おかげで、新製品情報も漏らさずゲットできるし、すでに購入した電化製品の消耗品も探すことなくすぐに購入できる。
 本も、通販で買うことが多くなった。某通販大手では、私の著作をわざわざ取り上げて「この本があなたにお勧め」と、著者本人に推薦してくることがある。笑ってしまうが、考えようによっては、きちんと私の読書傾向を分析できている、ということの証明にもなるだろう。
 最近では、ネット上での「おともだち」探しでも、同様のお勧めがあるらしい。入力したプロフィールを基に、同じような趣味の人の「紹介」が来たり、「おともだち申請」が届いたりするという。
便利なのだが、これでは何だか、人との出会いも、本との出会いも、データ分析から導き出されるよくあるパターンに押し込められてしまうような気がする。
 出会いというのは、未知との遭遇であり、ドキドキ感を伴うものだったはずだ。それまでの人脈では出会うはずのない人との出会いは、戸惑いもあるが、新しい価値観へのブレークスルーになる。本との出会いも同じである。書店で、そして図書館で、ある本を探して書架まで行く。そんな時に、お目当ての本の一段上や、隣の書架に、キラッと光るタイトルの本を見つけることも少なくない。「あ、こんな本があったんだ」と、手に取るときのドキドキ感は何ものにも代え難い。
 一つの出会いが人生を大きく変えることもある。そんな出会いを大学四年間の中で見つけてほしい。パターン化された出会いの枠を超え、広い範囲で人とも本ともつきあっていってほしい。すてきな出会いがあなたにありますように。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.32 2015) より