高野 和明 著 『ジェノサイド』

 

経済学部  1年生  Mさんからのおすすめ本です。

書名 : ジェノサイド
著者 : 高野 和明 著
出版社:角川グループパブリッシング
出版年:2011年

 今回紹介する本は、高野和明の代表作であり、日本推理作家協会賞や山田風太郎賞など多数の賞を受賞した『ジェノサイド』である。題名である「ジェノサイド」は、大量殺戮や大量虐殺という意味の言葉である。しかし、本書のテーマは「人類の未来」となっており、その中で、人類のために何かに必死に取り組むひとが描かれている。

 本書は、世界を舞台にした、壮大で予測不能な、人類全体の平和をかけた物語である。アメリカ大統領はアフリカで新種の人類が誕生し、人類が滅亡の危機にあるという報告に対し、極秘の計画を進める。それと同時期に、アメリカ人傭兵のジョナサン・イエーガーは難病の息子の治療費のため、アフリカでの極秘任務に就くことを決断する。彼が知らされているのは「人類全体に奉仕する仕事」ということだけであった。さらに、日本では創薬科学専攻の大学院生である古賀研人のもとに、数日前に亡くなったはずの父から一通のメールが届く。それをきっかけに、研人は成功すれば10万人の命を救える難病治療の新薬を開発することになる。

 本書の見どころは、アフリカ、日本、アメリカでの場面が頻繁に切り替わり、展開していく点である。一見全くかかわりのない人々がなぜ繋がっているのか、なぜイエーガーと研人が選ばれたのか、交錯する物語の中で徐々に明らかになっていく。著者が脚本家としても活動していることもあるためか、まるで映画を見ているような感覚で読み進めることができる。また、アメリカが隠していた本当の目的、そして、死んだ父の成そうとしていたことが明らかになるとき、イエーガーと研人がどのような行動をとるのかも注目すべき点である。そこには、他人のために危険な選択をするという人間の優しさと素晴らしさが表現されている。

 以上のように本書には「ジェノサイド」という恐ろしい題名がつけられ、人類は「ジェノサイドを行う唯一の生物」であるとされている。しかし、同時に家族愛や友情なども描かれ、ハッピーエンドではないものの、読者が人類に対し希望を持てる終わり方になっている。「人間とは」ということを深く考えてみたい方に是非読んでいただきたい。