伊坂幸太郎著 『ガソリン生活』

知能情報学部 4年生 Mさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : ガソリン生活 
著者 : 伊坂幸太郎著
出版社:朝日新聞出版
出版年:2013年

「ガソリン生活」。このタイトルだけを聞いたとき、どのような内容の小説を想像するだろうか。

自分は車無しでは生きていけないような人物が主人公の小説を想像した。もしくはガソリンスタンドで働く人の話かなと想像する人もいるかもしれない。そんなことを考えながらいざ読み始めると、開幕から「燃料を燃やし、ピストンを上下させ、車輪を回転させて走行する、あの躍動感こそが生きている実感である」とくる。この言葉から分かるように、この小説の主人公は最初から最後まで車であり、車が語り部となってこの小説は進行してゆくのである。どのような世界観なのかというと、どの車も人間のように意思をもっており、車同士で会話もできる。その一方で人間とは一方通行であり、人間の言葉を車は認識することはできるが、車の言葉を人間は認識することはできないといった感じである。

そして主人公の車は望月家の緑のデミオであり、物語はこのデミオが渋滞に巻き込まれているところから始まる。車内には望月家長男の良夫(大学生)と、その弟の亨(小学生)がおり、元女優の荒木翠の不倫疑惑について話している。するとまさに今話題にしていた荒木翠が追手から逃れるためにデミオに乗り込んでくる。所定の場所まで送り届けてひと段落かと思いきや、その後荒木翠が交通事故によって死亡したという事が翌日明らかになる。これをきっかけに望月家はより大きな事件に巻き込まれてゆく。

この小説を読んでいて面白いなと感じた点は、主人公が車であるために、物語の主要となる場面に直接居合わせることができないことがあるという点だ。その場合その場面に居合わせた人物がデミオの車内でそのことについて会話をすることで初めてその場面が描かれる。つまり舞台がデミオでない限り物語が過去形で語られることになり、これは他の小説ではあまり無い特徴だなと思い印象に残った。