望月徹(経営学部)『地域を価値づけるまちづくり』

地域を価値づけるまちづくり : 尾道を蘇らせた移住者・空き家再生・ツーリズムの分析
ナカニシヤ出版 , 2024.3
■ ISBN  9784779517822
■ 請求記号 601.176//2002
■ 配架場所 図書館1階・教員著作コーナー
■ 編著者 望月徹(経営学部・特任教授)

<自著紹介>

100円のボールペンに5000円のコンサートチケット、ものの値段はそのモノやコトの価値を示す便利な目印である。メモをとりアーチストと一体感を味わうことで、人はその目的を達し効用を得る。

だが、価値観が多様化する現代、その商品やサービスの価値を値段や量的な効用だけで測ることは難くなっている。例えば、100円のボールペンでも、婚姻届けを出すときに使ったものなら特別な愛着が湧くだろうし、記憶に残るコンサートなら、そのチケットの半券は、その臨場感を呼び起こすフックになるかもしれない。このように、モノやコトはその背後にある様々な事情や背景で価値づけられ、それぞれ固有な意味を付与される。ましてや自分たちが住まい暮らす地域ならなおさらである。というのも、各々の地域には固有の歴史、伝統・文化、生業があり、それらが、地域に固有の価値を付与するからである。

しかし、100円、5000円という値段は、その背後にある様々な価値を、「価格」という単一の価値尺度に回収してしまう。そこでは、価値を生み出すプロセスや、要素間の関係性はブラック・ボックスの中に置き去りにされる。そこで、このブラック・ボックスの中を覗いてその構造を明らかにしよう、価格以外の価値づけの主要な構成要素を切り出し、その相互の連関で明らかにしようとする価値づけ研究valuation studiesが世界的にも注目され研究が活発化している。

本書はこのような世界的な潮流に即して行った研究の成果である。これまでの価値づけ研究は、ボルドーやブルゴーニュのワイン、今治タオルや児島ジーンズというように、主に、ものづくりの産地の成り立ちや性質を問うものであった。これに対し、本書では、都市・地域に着目し、複合的な要素で構成される都市・地域の価値づけを、その編成原理も含め空間的にトータルに把握することを試みた。

まずは、本書を手に取ってこのワンダーランドへ一歩足を踏み入れてほしい。そこには、広島県尾道市において若い移住者たちが醸す新しい世界が広がる。空き家再生やサイクルツーリズムが都市を再生させ、近隣住民や企業も手を携えその変化を後押しする。そこでは地域が価値づけられ活性化するプロセスが紐解かれる。その結果、この手法はどの地域へも応用可能なことが理解される。現代社会の非物質的な転回、コモン、ツーリズムなどが、このワンダーランドを旅する上での道標となる。