
知能情報学部 4年生 Iさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)
書名 : ハゴロモ
著者 : よしもとばなな
出版社:新潮社
出版年:2006年
ハゴロモは、現実と幻想、生と死の間を静かに漂う物語である。よしもとばななの小説には一貫
して「この世界にうまくなじめない人々」が登場するが、本作もまた、どこか現実から少し浮い
た存在たちが、互いに寄り添いながら生きる姿を描いている。物語は大きな事件や劇的な展開に
頼らず、登場人物の内面の動きや関係性の微妙な変化によって進んでいく。その穏やかな語り口
が、かえって読者の感情を深く揺らす。
タイトルの「ハゴロモ」は、天女がこの世と異界を行き来するための羽衣を連想させる。それはこの作品に登場する人々の在り方を象徴しているようにも見える。彼らは皆、喪失や孤独を抱えながらも、この世界と完全には結びつかず、どこか別の場所に心の拠り所を持っている。その距離感こそが、現代人の心情をよく映している。現実に適応することが苦しく、しかし誰かとつながらずにはいられないというその矛盾がやさしく描かれている。
よしもとばななの文章は、感情を説明するのではなく、読者に感じさせることを重視している。簡潔で透明感のある文体によって、悲しみや愛しさが直接心に流れ込んでくる。登場人物の心の痛みは決して大げさに描かれないが、その静けさがかえって深い共感を生む。読者は物語を追ううちに、自分自身の過去の記憶や失ったものと向き合うことになるだろう。
ハゴロモは癒しの物語であると同時に、喪失を抱えたまま生きていくことの肯定でもある。すべてが回復するわけではないが、それでも人は人とつながることで少しずつ前に進める。その静かな希望が、読後に長く余韻として残る一冊である。
