今村翔吾著 『イクサガミ 天』

 

 

知能情報学部 4年生 Hさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : イクサガミ 天
著者 : 今村翔吾

出版社:講談社
出版年:2022

もしあなたが「時代小説はおじさんが読むもの」「歴史の知識がないと楽しめない」という偏見を持っているなら、この一冊でその価値観は完全に覆されることになるだろう。今村翔吾の「イクサミ 天」は、歴史小説の皮を被った、極上のノンストップ・エンターテインメントだ。

舞台は明治 11 年。武士の時代が終わりを告げ、刀を奪われた侍たちが生きる場所を失いつつある頃。京都に集められた 292 人の猛者たちに告げられたのは、東京までの道中で殺し合い、「木札」を奪い合うという狂気のゲームだった。
優勝賞金は現在の価値で 100 億円。まるで「イカゲーム」や「ゴールデンカムイ」を彷彿とさせる設定だが、本作の凄みは、それが「明治」という過渡期に行われる必然性にある。時代の波に飲まれ、誇りだけでは食っていけなくなった男たちの悲哀が、このデスゲームに重厚なリアリティを与えているのだ。

主人公・嵯峨愁二郎は、ある少女を守るためにこの修羅の道を行く。彼に襲いかかるのは、異形の武器を操る怪人や、戦闘狂の剣士たち。特筆すべきは、その圧倒的なリーダビリティだ。著者の筆致は驚くほど視覚的で、ページをめくるたびに脳内で鮮明な映像が再生される。もはや小説を読んでいる感覚ではない。ハリウッド級のアクション映画を、文字を通して脳に直接インストールされているような感覚に陥る。

大学の講義や課題、アルバイトに追われる日々のなか、これほどまでに時間を忘れて没入できる作品に出会えることは稀だ。「天」の巻を読み終えた瞬間、あなたは間違いなく書店へ走り、続編の「地」の巻を手に取ることになるだろう。退屈な日常を打破する刺激が欲しいなら、迷わずこの「蠱毒(こどく)」に足を踏み入れてほしい。