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【第12回 甲南大学書評対決】 寮美千子編 『名前で呼ばれたこともなかったから―奈良少年刑務所詩集―』

4月21日(火)に開催された第12回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

文学部教授 西 欣也 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名 : 名前で呼ばれたこともなかったから―奈良少年刑務所詩集―
著者 : 寮美千子
出版社: 新潮文庫
出版年:2024年

 

以下、西 先生からの書評です。

 

「詩」というと、恋心をウジウジと書き連ねたものという印象があるかもしれませんが、人間の思いの結晶した言葉が詩です。なので、心に深く強い思いがあってそれを適切に表現すれば自然と良い詩が生まれます。

この本の中の詩はその見本。奈良少年刑務所での「社会性涵養プログラム」から生まれた詩集が話題となり、その続編が本書です。想像を絶する暴力や孤独の中で育った少年たちが、おそらく人生で初めて他人にまっすぐ気持ちを伝えようとした言葉は奇跡のような魅力をもっています。きっとこの少年たちは普通の人々よりもはるかにピュアで繊細な部分を持っていて、だからこそ虐待や親の不和に耐えることができずに取り返しのつかない問題を起こしてしまったのではないでしょうか。罪を犯したのは「自己責任」として矯正施設に閉じ込めている私たちの社会のあり方について反省させられます。

この少年たちの持っているようなみずみずしい感性を活かすことのできる世の中が早く来ないかなあ。

 

 

第12回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

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【第12回 甲南大学書評対決】 夏目漱石著 『坑夫』

4月21日(火)に開催された第12回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

文学部教授 西 欣也 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名 : 坑夫
著者 : 夏目漱石
出版社: 岩波文庫 ほか
出版年:2014年

 

以下、西 先生からの書評です。

 

『こころ』や『坊ちゃん』は知っていても『坑夫』は知らないでしょ?夏目漱石の作品の中では問題作とされていて、岩波文庫でも長いあいだ絶版が続いていました。村上春樹の小説『海辺のカフカ』の中で、「不完全であるが故に人間の心を強く引きつける」小説とコメントされたこともあり、再び注目を集めています。

問題作と言われたのは、いわゆる「人権上問題のあるとされる」表現が用いられているため。もちろん、漱石自身が差別意識を持っているわけではありません。家をとび出した温室育ちの主人公が、社会の底辺に生きる人々のリアルは状況に出会って感じた衝撃がストレートに書かれているのです。一方で、物語の推進力や人物造形など深みがある点は、さすが漱石。

アンダークラス層が増え続ける格差の時代、文学を通じて社会に向き合ってみたい人には特にオススメの一冊です。

 

 

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内村直之 [ほか] 著 『はじめての認知科学』

 

 

フロンティアサイエンス学部 4年生 島村 大地さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : はじめての認知科学
著者 : 内村直之, 植田一博, 今井むつみ, 川合伸幸, 嶋田総太郎, 橋田浩一

出版社:新曜社
出版年:2016

認知科学と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。私は当初、心理学の一分野であると考えていました。しかし、認知科学は心理学だけにとどまらず、多様な分野が結びついた総合的な学問です。人工知能などの情報科学分野や、脳科学といった理系分野の要素も含まれています。それらを体系的に理解し、学ぶことができるのが、この『はじめての認知科学』という本です。

この本の前半では、「こころとは何か」という問いから始まり、人間がどのように考えるのかという思考プロセスについて多く述べられています。代表的な例として、モンティ・ホール問題が取り上げられています。この問題では、三つの扉のうち一つが当たり、残り二つが外れである状況において、被験者はまず一つの扉を選びます。その後、実験者が外れの扉を一つ開け、残された二つの扉のうちから再び選択できるかを問いかけます。直感的には、どの扉を選んでも確率は同じであるように思われるかもしれません。しかし、場合分けによって計算すると、最初に選んだ扉から変更した方が当たる確率は高くなるという、直感に反する結果が得られます。このように本書では、人間の直感と論理との間に生じるズレを示す例が紹介されており、読んでいて非常に興味深いと感じました。

また、本の後半では人間や動物の知覚機能や認知科学の分野についての歴史が書かれております。例えば、目の前に音が出ている機械があった際、人間であればその音が容易に聞こえることはできます。しかし、仮にその音が超音波のような波形であったとすると、人間には聞こえません。一方で、その超音波を用いて生活している動物がイルカです。イルカは自ら超音波を発し、その音が物体に反射して戻ってくるのを感知することで、周囲に何があり、どこに存在しているのかを把握しています。

このように、認知科学の領域には、人間だけでなく動物の知覚や認知の仕組みに関する非常に興味深い題材が数多く存在しています。本書は、そうした認知科学の面白さに触れながら学ぶことのできる一冊であり、ぜひ多くの人に手に取ってほしいと感じました。

藤田敏彦著 『ヒトデとクモヒトデ : 謎の☆ (ほし) 形動物』

 

 

フロンティアサイエンス学部 4年生 島村 大地さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : ヒトデとクモヒトデ : 謎の☆ (ほし) 形動物
著者 : 藤田敏彦

出版社:岩波書店
出版年:2022

夏になると涼しさを求め、海にいって泳いだり、浜辺でスイカ割りをしたりと楽しむことが多いと思います。そこで周りを見回したとき、ヒトデを見かけたら、あなたはどのようなヒトデを想像しますか。

多くの方は星形のヒトデを思い浮かべると思います。しかし、それ以外の生物で星形の動物が他に存在するかと問われると、容易には思い浮かびません。まさにヒトデ=星形というイメージが定着しているといえるでしょう。しかしながら、その星形のヒトデは、最初から星形であったわけではありません。時をさかのぼること約5億年前、ヒトデの祖先であるカンブリア紀のテノシストイド類は、左右対称の形をしていたものの、星形とは言えない姿をしていました。そこから進化の過程で徐々に派生し、現在見られるような星形へと近づいていきました。そして、その形態は現在のヒトデにも受け継がれています。また、ヒトデが誕生してからどのように星形へと成長していくのかについても、本書では詳しく述べられており、当時の生物の存在を示す化石写真を用いて学ぶことができます。

本書はそんな多くのヒトデに注目した内容となっており、ヒトデの生態や種類について写真を交えながら紹介されています。なかでも題名にあるクモトカゲは、腕が長く、平泳ぎのように進むことが特徴です。一方で、ヒトデは腕を使って大きく動くよりかは吸盤に張り付きながら移動します。また、ヒトデには特徴的な運動として「反転運動」があり、これには2種類存在します。1つは後転しながら動く「でんぐり返し法」、もう1つはチューリップの花のように体をすぼめながら反転する「チューリップ法」です。同じヒトデの仲間でも、クモヒトデのようにスタイリッシュに動くものもあれば、このように独特な動きをするものもあることが、本書を通して理解することができます。

そのようなヒトデの「意外性」にも注目した本であり、生物の授業を受けていたことがある人は特に理解がしやすくなっていると思います。

長月達平著 『Re:ゼロから始める異世界生活 3』

 

 

知能情報学部 4年生 Nさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : Re:ゼロから始める異世界生活 3
著者 : 長月達平

出版社:KADOKAWA
出版年:2014

長月達平氏によるRe:ゼロから始める異世界生活の第3巻は、ロズワール邸を舞台とした第二章の完結編です。無力な少年ナツキ・スバルが絶望的なループの中で仲間との信頼を勝ち取り、過酷な運命を切り開く姿が読者の心を熱く揺さぶる作品です。

本巻でスバルは、自身の死因である衰弱死の原因が村の子犬に化けた魔獣ウルガルムの呪いだと突き止めます。子供たちを救うためレムと森へ入るが、魔獣の群れに包囲され窮地に陥ります。レムは鬼化し圧倒的な力で敵を殲滅するものの、闘争本能に飲まれ理性を失い暴走、スバルは呪いに侵された体をおして自ら囮となり、彼女の正気を取り戻そうと死の淵に立ちます。絶体絶命の瞬間、ロズワールの広域魔法が魔獣を一掃し、生還したスバルはレムやラムとのわだかまりを解消、最後にエミリアとのデートの約束を果たし、死の螺旋からの完全な脱出を遂げます。

本作は、無力さを痛感したスバルが、見栄を捨てて生きたいと泥臭く足掻く精神的成長にあります。彼が傷だらけになりながら他者を頼り、周囲からの信頼を勝ち取る過程は圧巻です。特に、過去のトラウマに苛まれながら戦うレムの悲しくも美しい鬼の姿と、彼女の狂気と献身をスバルが受け止めることで生まれる絆は物語に深みを与えています。極限の緊張感と、それを乗り越えた解放感のバランスも絶妙で、ページを捲る手が止まらない。

死に戻りという孤独な戦いの果てに誰かと共に生きる尊さを掴んだスバルの姿は勇気を与えてくれます。絶望から最高のハッピーエンドへ至る構成は秀逸で、読後には温かい感動が残ります。次なる物語への期待を高める、シリーズの真価が発揮された必読の一冊です。

宇佐見りん著 『推し、燃ゆ』

 

 

知能情報学部 4年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 推し、燃ゆ
著者 : 宇佐見りん

出版社:河出書房新社
出版年:2020

「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」。この衝撃的な書き出しから始まる本作は、現代社会に
おける「推し」という現象を、単なるファン心理としてではなく、一人の少女の切実で過酷な生
存戦略として描き切った傑作である。

主人公のあかりにとって、アイドルである上野真幸を「解釈」し、その活動を全身全霊で応援することは、日常の一部ではなく、彼女の生存そのものである。学業や家族関係といった、誰もが当たり前にこなすべき「生活」がうまく制御できない彼女にとって、推しという存在は、重力に抗って自分をこの世界に繋ぎ止めるための唯一の「背骨」なのだ。彼女が推しの言葉を克明に記録し、その一挙手一投足に全存在を捧げる姿は、現代的な宗教儀礼、あるいは一種の聖痕を求める祈りにも似ている。

著者の宇佐見りんは、あかりが抱える根源的な「生きづらさ」を、痛々しいほど生々しい身体感覚を伴う描写で読者の意識に刻みつける。重たくままならない肉体、淀んだ部屋の空気、そしてそれらと対照的に、画面の中で発光し続ける推しの輝き。その対比が、彼女の孤独をより一層残酷に際立たせる。

物語の終盤、推しの引退によって文字通り「背骨」を失ったあかりが、絶望の深淵で四つん這いになりながらも、再び自分の手で何かを掴もうとする場面は、凄まじい迫力をもって迫ってくる。 他者に自己の存在意義を完全に委ねることの危うさと、それでもそうせざるを得ない人間の「業」を、本作は剥き出しの言葉で射抜いている。SNSが個人の実存を規定する現代において、他者との境界線や、救いという名の依存の正体を問い直す、極めて鋭利な知性を備えた一冊である。

文学の力によって可視化された彼女の痛みは、読者の足元をも揺るがすだろう。本作を読み解くことは、現代を生きる私たちの脆さと向き合うことであり、深い読解力を養うための貴重な契機となるはずだ。