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[藤棚ONLINE]知能情報学部・田中雅博先生コラム「本学図書館の入館システムを作りました」

図書館報『藤棚ONLINE』
知能情報学部・田中雅博先生コラム「本学図書館の入館システムを作りました」

 図書館入り口の入館の際に、通常のカードタッチの横に別のカードリーダーが設置されていて、「それもタッチしてください」という表示が、3月頃から7月末まで続きました。入館される皆さんは、よくわからないけど何か面倒だなと思っていたのではないかと思います。
 8月以後、扉を常時開放状態にする、新しい入館システムに変更になりました。現在は、旧システムを停止させ、ゲートは常にオープンな図書館になっています!

 入館時にはゲートの上に設置してあるカードリーダーにIDカードをタッチしていただき、そのまま通過してください。カードを読み取れれば読み取り成功音が出されます。カードから個人IDを読み取り、それに従って3つのメッセージ、すなわち(1)図書館からの一律のメッセージ、(2)学部ごとのメッセージ、(3)個人ごとのメッセージ(ない場合は、ここにも別の一律メッセージ)がカードタッチ後、一定時間表示されます。カウンターから呼び出しがある方は、音声メッセージも出ます。別のセンサーで通過確認をしており、通過時にも音がでます。一方、IDカードを使わずに入館した場合は、ブブーという音で警告のメッセージが出ます。また、入館ゲートから退館しようとした場合も同じく音が出ます。音と表示がいろいろ出るようになっていますから、よく確認してください。カードが別の大学のものであったり、期限切れ、再発行時に無効になったカードなどを検知したりしたときはエラー表示がなされます。同じカードを続けて読ませようとしたら、しばらく動作しませんので、注意してください(一度のタッチで複数回読み取る誤動作を避けるための措置ですので)。手作りですから、さらに今後、機能を追加したり、図書館システムと連携させたりすることも原理的には可能です。

 大学が業務として使うシステムを、教員あるいは学生を含む研究室が作るというのはあまり例がないかもしれませんが、実は大学は、大学が必要とするものを中の教員や学生らが作ってそれを実験してみるという格好の場だと思っています(本システムづくりには学生は参加していませんが)。

 私の研究室では、7~8年前から数年前頃、同じく図書館入り口にKoRo(コロ)という、ディスプレイとインタラクティブに手の動作で指示を出し、Leap Motionというセンサーでそれを読み取り、動画を自動選択して進行する図書館館内案内、さらに、入館者自動検知、ディープラーニングによる顔認証、スクレイピングによる電車の遅延情報提供や気象情報の提示と、季節や天候に基づく俳句の提示、体操判定、ロボット音声での返答をする図書館職員との音声通話など、多種多様な機能を盛り込んだロボットを作って置かせてもらっていました(KoRoのボディは和田先生が主体的に設計して作られたものです(現在は、13号館玄関にあります。「KoRo、どこに行ったのかな?」と思っている方、是非13号館に来てみてください。会えますよ!)。KoRoの場合は、図書館自身の必要性というよりも、無理を言って置かせてもらったという感じでしたが、その時も図書館にはご理解いただき、当方の研究室アクティビティは大いに高まりました。設置場所も動線の脇にあって、無視すれば何も気にしなくてよいものでした。それに比べれば、この入館システムは単機能で技術的にも特段の新規性はありませんが、これを使わなければ図書館には入館許可がおりないという、図書館が必要としている業務用のシステムであるという点がKoRoとは根本的に異なっています。大学は、このように、実験の場として、あるいは、さらに、業務への応用の場として利用が可能であることを示すことができました。

 振り返ってみるに、知能情報に限らず、それぞれの学部では、研究している内容が大学そのものに関係づけられるものもいろいろあると思います。大学そのものを研究・実験対象として利用することもできる「中規模」大学の良さを本システムの開発を通じて実感じました。

 なお、手作りですから、いろいろ粗もあると思います。何かお気づきのことがあれば、是非知らせてください。可能な範囲で改良を続けていきたいと思います。


[藤棚ONLINE]経済学部・寺尾建先生コラム「〈幸せ〉と〈不幸せ〉のあいだ」

図書館報『藤棚ONLINE』
経済学部・寺尾建先生コラム「〈幸せ〉と〈不幸せ〉のあいだ」

 話題として今回取り上げる書籍は、直木賞作家である西加奈子氏の最新刊『くもをさがす』(河出書房新社、2023年)です。

 本書が今年の4月に出版されて以降、著者初のノンフィクションであることからも各方面で話題になっていることは知っていましたし、著者の西加奈子氏には会ったこともあり(正しくは、少し離れたところから見たこともあり)、そしてまた、2020年4月24日にYouTubeにアップロードされて、2023年6月26日時点までの再生回数が11万回を超えている動画(https://www.youtube.com/watch?v=F9mwmsYFh4k)を過去3年間の累計で10回以上視聴する程度には氏に関心を抱いてはいました(氏が好きだというミュージシャンが自分とまったく同じだったので、氏のことを他人とは思えなかったからです)。

 それでも、私は、本書を読むつもりはありませんでした。本書では氏が罹患した乳がんの治療についての詳細が記されていることがわかっていたので、読むと心がしんどくなるような気がして、そのことが怖かったからです。

 ところが、私が尊敬する文学部のA先生(A先生は、西加奈子氏に直接会って話をしたことがある人です)が本書を読んだ週に担当するすべての授業で本書についての話をしたという事実を人づてに聞き、すぐに取り寄せて読みました。

 読んで、心がしんどくなることがなくはなかったですが、人生とこの世界についての大切なことを学ぶことができました。それは、たとえば、「不幸そうに見える」と「不幸である」とは違うということ、そしてまた、「幸せそうに見える」と「幸せである」とは違うということ、それゆえ、「不幸そうに見えるけれども、幸せである」ということはありうるということです(同じ理由から、避けたいことではありますが、「幸せそうに見えるけれども、不幸である」ということもありえます)。

 「目に見えることは、実際のところ、どの程度がほんとうのことなのだろうか?」──このことを、人生とこの世界(そこには、自分にとって大切な人とその人生も、当然含まれます)について、忘れずにいつも心に留めておきたいという思いを、本書を読んであらたにしたところです。


[藤棚ONLINE]理工学部・池田茂先生推薦「鏡の中の物理学」

図書館報『藤棚ONLINE』
理工学部・池田茂先生推薦「鏡の中の物理学」


 私の研究室の書棚にある教科書や専門書に紛れて、解説を含めても全部で129ページの薄い一冊の文庫本があります。今日紹介するのはこの本、「鏡の中の物理学」です。1965年にノーベル物理学賞を受賞された朝永振一郎先生が執筆された短編集で、第1刷が1976年に発行されていますので、半世紀近く前に世に出た本ってことになります。3つの短編が含まれており、そのなかの1つ目がこの本のタイトルとなっているお話で、鏡に映った世界と現実の世界という私たちの日常にある場面を通して、相対論がどのような理論であるかが説かれています。後半の2つの話では、量子論に関する考え方について、たいへんユニークで独特な書き方で説明されています。

 この本を買ったのは多分大学院在学中だったかと思います。どんな思いで買ったかはよく覚えていませんが、処分せずにずっと書棚の片隅にありました。改めて拝読すると、「而して」など、ちょっと最近は拝見しない表現も混じってはいますが、平易な文章のなかにユーモアがあってとても読みやすく、知的好奇心をくすぐられる名著であることを再認識しました。ただ、一読して相対論や量子論のアウトラインがわかるのかと言われると、その辺はなかなか初学者にはきっと難解で、先生が説きたいことを本当に理解するには、これらの学問をしっかり深く学ぶことが必要かなとも思いました。

 この本のもう1つの(隠れ)テーマとして、「どうして科学をやろうとするのか」が述べられています。ともすれば目先の成果や社会的なインパクトに流されがちな(自然科学)研究の本当の在り方について、先生の考え方が強いメッセージとして書かれているように感じました。駆け出しの研究者であった若かりし私がこの小さな本をいつまで手放さなかったのは、現在の私が研究することの意味を見誤らないようにするため、「初心忘れるべからず」と思ってのことであったのかもしれません。


【第6回 甲南大学書評対決】 マンジット・クマール著 『量子革命 : アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突』

4月27日(木)に開催された第6回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

理工学部機能分子化学科教授 山本雅博 先生からのおすすめ本です。

書名 :量子革命 : アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突
著者 : マンジット・クマール
出版社: 新潮社
出版年:2013年

2022年にノーベル物理学賞で「量子のもつれ」が選ばれたりと、量子という言葉が世間を賑わせています。1926年にシュレディンガーが波動方程式を提唱し大革命が起きました。

それまでの学問をすべて「古典」という分野に押し込んでしまったほどの革命が、実はいろんな実験結果の理論との細かな矛盾にあったことをこの本は詳しく書いています。お金儲けから始まり、その普遍化によって電子・原子・分子の力学を完全に書き換えた大革命に繋がっていったことが興味深いです。

山本先生は大学2年生のときに量子力学を履修し試験に臨まれたそうですが、シュレディンガーの波動式方程式を記せという最初の問題がわからなかったため、完全白紙の答案を提出された過去もおありだとか!それが、現在では研究で量子力学の第一原理計算という数値計算を生業とされているのですから、人生はわからないものですね!


【第6回 甲南大学書評対決】 朝永 振一郎著 『物理学とは何だろうか 上・下』

4月27日(木)に開催された第6回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

理工学部機能分子化学科教授 山本雅博 先生からのおすすめ本です。

書名 :物理学とは何だろうか 
著者 : 朝永 振一郎
出版社: 岩波書店
出版年:1979年

タイトルには明記されていませんが、物理学のなかの一分野である熱力学についてとてもわかりやすく解説されています。熱力学は完成されている学問です。アインシュタインの1905年の奇跡の論文も、実は熱力学をベースとしています。

熱力学の第一法則、仕事、熱、内部エネルギー、熱力学の第二法則、エンタルピー、エントロピー、化学ポテンシャル等の概念は一度は聞いたことがあるかもしれませんが、最も理解しづらい分野です。先生は学生の時にこの本をおすすめされたので読んでみるとさらにわからなくなった、という思い出があるそうです。

東大のある先生が、教員も熱力学をわかっているわけではなく、授業で教え始めてわかると言われているのも納得ができます。熱力学を教えており、さらに某先生が自分の遺書として本を残したいと言われて熱力学の教科書を書いたときに最も参考にした本がこの本です。石炭採掘の際の熱機関による排水ポンプの効率をどのようにあげたらいいのかというお金儲けの話から発展して、その熱機関の最大効率はどう決まるか、さらには熱力学がサイエンスのすべての世界を説明する普遍的な学問体系となったことはこの本で教えらました。

文系の方に「シェイクスピア読んだことある?」と聞くくらい理系の方には必読の本です!理系の方は(もちろん文系の方も)ぜひ手に取って読んでみてはいかがでしょうか。


【第6回 甲南大学書評対決】 村上 春樹著 『タイランド』(神の子どもたちはみな踊る 所収)

4月27日(木)に開催された第6回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

理工学部機能分子化学科教授 山本雅博 先生からのおすすめ本です。

書名 :タイランド(神の子どもたちはみな踊る)
著者 : 村上 春樹
出版社: 新潮社
出版年:2000年

『ノルウェーの森』あたりから村上春樹を読み始めたという山本先生。めったに小説を読まないという先生自身も『ハルキスト(村上春樹の熱狂的ファン)』ということで、ほぼすべての本・雑誌への寄稿を読まれているそうです!新刊の村上春樹の小説が入手困難だったときは、生協書籍部の方が個人的に買われた本を購入していた、とのことで熱狂ぷりが伝わりますね・・・!

25ページほどの短編小説ですが、米国で医学の修業をした女医さんが、タイでの休暇中にひょんなことから普段は心の奥底にしまっている暗い影を指摘され、それが癒しになっていくというストーリーです。気分が落ち込んだ時は村上作品を読むと癒されると2019年のAERA(朝日新聞出版のニュース週刊誌)に書かれています。自分の心情を代弁してくれていると感じ、癒されるのではないでしょうか。

村上春樹は芦屋市で育ったこともあり、身近に感じており好きだとおっしゃっていました。プレゼン前には新潮社営業部よりメッセージも届き、先生も嬉しそうにしておられました!図書館にもたくさんの村上春樹著書があります。この機会に読んでみてはいかがでしょうか?