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【第4回 甲南大学書評対決】浜田廣介著 『浜田廣介童話集』

6月16日(木)に開催された第4回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

経済学部  寺尾 建先生からのおすすめ本です。

書名 : 浜田廣介童話集
著者 : 浜田 廣介著
出版社:角川春樹事務所
出版年:2006年

 浜田廣介(はまだ・ひろすけ)は、1893年(明治26年)に山形県に生まれ、1973年(昭和48年)に東京で亡くなりました。坪田譲二(1890-1982)や小川未明(1882-1961)と並び称される、日本を代表する児童文学者の一人です。

 この本には、浜田廣介が書いた童話が計20話収録されていますが、泣く子も黙るほどの、というか、笑っていた子も思わず涙してしまうほどに圧巻なのが、この本の冒頭に収録されている「泣いた赤おに」(初版は1933年)という作品です。

 悲しい、寂しい、悔しい、あるいは、嬉しい──人が涙を流す理由は一つではありませんが、作中で最後、赤おにが涙する理由は、説明するのがとても難しいものです。しかし、赤おにが感極まって一人涙を流すことには、ほとんどの人が深い共感を覚えることでしょうし、「赤おにの涙にもらい泣きをしないような人は、人の心をもっていない!」という主張には、多くの人が同意するのではないでしょうか。

 「正しく」「強く」「朗らか」──これらの言葉を空語として口にしないようにするためにも、一読をおすすめします。

【第4回 甲南大学書評対決】サン=テグジュペリ著 河野万里子訳 『星の王子さま』

6月16日(木)に開催された第4回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

経済学部  寺尾 建先生からのおすすめ本です。

書名 : 星の王子さま
著者 : サン=テグジュペリ著  河野 万里子訳
出版社:新潮社
出版年:2006年

 本書の初版がアメリカで出版されたのは1943年、第二次世界大戦の真っ只中でした。当時の世界の総人口は25億人で、現在の3分の1ほどでしたが、第二次世界大戦では、5,000万人から8,000万人が犠牲になったと言われています。
 
 本書が最初に日本語に翻訳されたのは、原書の出版から10年後の1953年ですが、初版の出版から現在に至るまでの80年間で、計200以上の国・地域の言葉に翻訳されています。

 タイトルから、子ども向けの本だと思われがちですが、実は、本書は、大人(正確にいえば、子どもの心を忘れてしまった大人)に向けて書かれたものです。たとえば、人が、あるものを「愛しい」と思うのは──そして、他のものについてはそのように思わないのは──いったいなぜなのでしょうか?「大人」とは「自分の心の動きに驚かなくなった人」と言い換えてもよさそうですが、この本は、「読む人々が、自分の心の動きについての驚きを取り戻しますように」との願いを込めて書かれました。

 子どもから大人になりかけている年頃のみなさん。ぜひ本書を手にしてみてください。

[藤棚ONLINE]文学部・福井義一先生 推薦『愛を科学で測った男』

図書館報『藤棚ONLINE』
文学部・福井義一先生 推薦
『愛を科学で測った男 : 異端の心理学者ハリー・ハーロウとサル実験の真実』

 大学で心理学を学ぶと,必ず目にするのがハーロウによる残酷な実験の写真です。そう,赤ちゃんザルが,ミルクは出るが剥き出しの針金で作成された代理母人形ではなく,ミルクは出ないけど布を巻いた代理母人形にしがみついている,あの写真です。

 本書は,あの実験を行ったハーロウの人生を丹念に追った好著です。破天荒な天才心理学者であるハーロウが,いかにして「愛」を解明していったのかを,当時の時代背景や彼を取り巻く人物からの綿密な取材を経て,活き活きと描き出しています。

 今でこそ,人間(もちろん,動物も!)の成長には「愛」が必要であることを疑う人はいないでしょう。しかしながら,当時は親子を隔てる子育てが推奨されていました。こうした残酷な子育てを駆逐するための実証的基盤を初めて提供したのが,隔離ザルを研究したハーロウだと言えるでしょう。本書からは科学と現実の複雑な相互作用を学ぶこともできます。

 同じ心理学者として感銘を受けたのが,実験に使用したサルを治療したことです。通常,実験動物は実験が終わると殺処分されます。本書の著者は,本書の執筆前に「なぜサルを殺すのか?:動物実験とアニマルライト」(白揚社)を刊行し,ハーロウを攻撃していました。しかしながら,彼は隔離されて精神に異常を来したサルの治療も研究していたのです。これにより早期の養育に起因する困難からの回復可能性が示唆されたのです。

 心理学に関心を持つ学生だけでなく,「愛」に関心を持つ学生,つまり全ての学生にお勧めしたい一冊です。

[藤棚ONLINE]図書館長・木成勇介先生(マネジメント創造学部)推薦『FACTFULNESS』『あなたを変える行動経済学』

図書館報『藤棚ONLINE』
図書館長・木成勇介先生(マネジメント創造学部) 推薦

 経済学と聞いて皆さんは何をイメージしますか?お金の儲け方?それとも景気の良し悪し?どちらも間違いではないのですが、経済学はもっと広い分野なのです。ヒトの性格やクセ、脳の活動やホルモンの影響まで、経済学の対象はホントにとても広いのです。

 では、図書館についてはどうでしょう?皆さんは何をイメージしますか?本を借りる場所?本を読む場所?静かな場所?どれも間違いではないのですが、甲南大学の図書館はもっと幅広い場所なのです。映画館のようにDVDを観る場所もあります(一度は体験してください)。友人と談笑する場所もあります(ホントは議論する場所だけど、議論がいつの間にか談笑に変わっていても気にしません)。待ち合わせ場所として雑誌を読みながら友達を待つのも、皆さんが企画したイベントを実施する場所としても大歓迎(むしろ一緒にやりませんか?)。

 私の専門である行動経済学では、ヒトは勝手な思い込みから正しい判断ができず、損をしてしまうことが知られています。経済学の話も図書館の話もその例なのかもしれません。思い込みにとらわれず、学生生活をもっと豊かにしようと考える、そんなあなたに以下の2冊をオススメします。

ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド(2019)「FACTFULNESS」日経BP

大竹文雄(2022)「あなたを変える行動経済学」東京書籍


【図書館事務室より】
 藤棚ONLINE2022年度第1号は、今年度新たに図書館長に就任されましたマネジメント創造学部教授・木成勇介先生よりおすすめ本をご紹介いただきました。甲南大学図書館にも所蔵がある本ですので、ぜひ読んでみてください!
 図書館は、この春ようやく電源増設工事を実施し、また書庫利用等のサービスの受付も1階に集約するなど、よりよい図書館サービスを目指して改革中です。Twitterやブログでも情報発信していきますのでご注目ください!
 学生の皆さんのご来館をお待ちしています。

[藤棚ONLINE]共通教育センター・吉川 歩 先生 問題解決法雑感&推薦『思考法図鑑』

図書館報『藤棚ONLINE』
共通教育センター・吉川 歩 先生 問題解決法雑感&推薦
『 思考法図鑑 : ひらめきを生む問題解決・アイデア発想のアプローチ60 』

 「問題を解決するために一番重要なことは何か」と聞かれた時のあなたの答えは?

 私ならば「まず,何が問題であるかを適切に見いだす」ことと答えます.実社会では,それこそ試験でもない限り,答が一意に定まった明確な問題が与えられていることは極めて稀です.また問題としてわかっていてもどう答えを見つければよいかわからなければ解決は困難になります.つまり解ける問題にブレークダウンすることが重要になります.実はこれらの部分が一番難しいようで,担当している「共通教育演習」という講義でも,受講者がプロジェクトのテーマ設定の段階で難渋しているのをよく目にします.なお私見ですが,問題解決でよく出てくる「PDCA」は「解ける形になった問題」をどう解決していくかの話で,解ける形になっていない問題に適用しても期待した結果が得られないことも多いです.

 さて話を戻しますが,「問題をいかに解決できる形にするか」のヒントを与えてくれる書籍の一つが「思考法図鑑」です.扱われている内容は,問題解決のための,いわゆる「発想支援」と「分析方法」の紹介になっています.見開き2ページで1テーマが図と例で紹介されており,その数は60種に及びます.自分の扱っている対象をどう切り崩していくか困った時の事典代わりに利用できます.ダウンロード可能な各方法のPowerPoint形式のテンプレートも用意されています.

 反面,実際に紹介されている方法を使う際には別途詳細に調べる必要があります.またキーワードから方法の当たりをつけるという用途からいえば,索引がないのは非常に残念なところです.なおこの書籍には紹介されていませんが,OODAやこの書籍が出版されてから提案された「か・き・く・け・こ」ループなどの方法もありますので,書籍中にしっくりくるものがないときはさらに探してみることをお勧めします.

【参考リンク】

・思考法図鑑 : ひらめきを生む問題解決・アイデア発想のアプローチ60 / アンド著. — 翔泳社, 2019.10.

・𠮷川 歩, 問題解決のための「か・き・く・け・こ」ループ, 知能と情報, 2020, 32 巻, 4 号, p. 797-800  https://doi.org/10.3156/jsoft.32.4_797

[藤棚ONLINE]法科大学院・宮川 聡 先生 推薦『戦中派不戦日記』

図書館報『藤棚ONLINE』
法科大学院・宮川 聡 先生 推薦
『 戦中派不戦日記-昭和20年 』

山田風太郎著
講談社文庫, 2002

 今回紹介したいのは,多くの作品(映画化もされた『魔界転生』や,NHKでドラマ化された『警視庁草子』に代表される明治時代を題材にした小説など)を残した山田風太郎の「戦中派不戦日記-昭和20年」です。最初に出版されたのは1971年ですが,文庫本になった1985年に初めて手に取った記憶があります(今では,電子ブック[KADOKAWA]で読むことができます)。

 これは,著者が書き残していた昭和20年1月1日より同年12月31日までの日記をほぼそのまま出版したものです。この日記は,東京医専(現在の東京医科大学)の学生であった著者が,将来出版されるとは夢にも思わない状態で,太平洋戦争の末期・敗戦直後の混乱期に考えていたこと,経験したことをそのまま記載したものであり,その当時の事情を知る上でも貴重な資料になっています(なお,これ以前の時期[昭和17年~19年]については,「戦中派虫けら日記 滅失への青春」というタイトルで出版されています。亡父が兵庫県養父郡で医師をしていた著者が,入試に失敗し一度はあきらめた医師になる夢を実現し,東京医専に入学するまでのさまざまな葛藤について記載されています)。

 時間の経過とともに戦況が不利になり,東京をはじめ多くの都市部が毎日のように米軍のB29による空襲を受けるようになった時期の普通の市民の生活の様子をうかがい知ることのできる記述もたくさんあります(空襲のために命からがら逃げ惑う様子も臨場感たっぷりに書かれています。いわゆる東京大空襲では,11万人以上がなくなり,300万人以上が被災したとされています。)。また,東京医専が信州地方へ疎開することになり,大学の授業を行うために必要な機材などを輸送するために梱包作業に学生が駆り出された様子や,疎開先での授業の内容などについても詳しく記載されており,現在の読者でも想像することができるのではないかと思います。さらに当時の大学生が敗戦をどのような気持ちで迎えることになったのかについても,詳細に記述されており,戦争を知らない日本人が国民の大多数を占めるようになった現在,改めて読み直してみる意味があるのではないでしょうか。

 なお,著者は,昭和21年から昭和27年までの日記も公刊(小学館文庫)しており,戦後の混乱から復興へと一歩を踏み出す時期の東京の様子についても貴重な情報を提供してくれています。