甲南大学図書館、2階ヘルプデスクの受付にはアンドロイドロボットがいます。愛称は「アンさん」。業務は図書館職員のサポートです。知能情報学部の梅谷研究室に属し、菊地智也さん(知能情報学部4年)と梅谷智弘先生(知能情報学部准教授)が研究開発しています。
― 普段、どのような仕事をしているのでしょうか。
図書館職員は書架の整理、新しい資料の受入、利用者から依頼された調べものなど、日々多くの業務をこなしています。そのため、カウンターに在席できないときがあります。利用者は相談・質問に対応してもらえず、不便に感じるでしょう。そんなとき、「アンさん」の出番です。「アンさん」が受付にいれば、職員がいないときでも、遠隔で利用者の相談・質問に対応できます。
― では、「アンさん」はどのように動いているのでしょうか。
目にカメラ、耳に集音マイクが組み込まれており、タブレット端末を通して事務室の職員とコミュニケーションができるシステムになっています。
このシステムの開発者である菊地さんにインタビューしました。
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アンさん(左)と菊地さん(右)
図書館:「アンさん」が図書館に着任されてから数年が経つのですが、今年はこれまでにない進化をしています。開発者の視点から、どのように変わったのかを教えてください。
菊地さん:図書館の職員さんに業務内容を伺い、回線切断や機能の不便さなどの問題が多くあった従来のSkypeを用いたシステムを考え直し、1から開発しなおしました。実際の業務で利用されるということで、できるだけ操作を簡単にして、操作方法を覚える必要が無いように工夫しています。また、100発100中で動くなど、安定して長時間運用ができるようにしました。これらの機能を業務上で職員さんが簡単に使用するためには、バッチファイルプログラムというまだ知らないプログラムも必要だったのですが、梅谷先生にご教授していただいて挑戦することができました。システム全体としては、自分が使用した時に使いやすいと思えるような操作方法、画面設定を心掛けて開発するようにしています。
図書館:実際、Skypeより使い勝手がよいと感じるのですが、そこにはどんな工夫があるのですか。
菊地さん:Skypeを使ったことがないので答えにくいですが、Skypeを使うと外部に端末情報や音声を送信することになります。このシステムは外部を通さないので、映像や音声の遅延が少ないということだけでなく、業務上の情報が流出しにくいです。誰が作ったかも分からないシステムではなく、作っている人が身近にいるので、使用上の問題点や改良点が気軽に言えて、安心して使えることも利点でしょうか。例えば、片方のデバイスの接続ボタンを押すだけで2つの端末間の接続ができるなど、業務上で操作がしやすいようにしています。操作説明書を用意するだけでなく、画面を下にスクロールしたところにも操作説明やこれからやろうとしているアップデート内容を表示して見られるようにしました。
図書館:「仕事」がしやすいように考えていただいているのですね。操作画面には他にどんな工夫があるのですか。
菊地さん:色合いはできるだけ甲南大学のイメージカラーに寄せたのですが、それだけでなく、業務中に画面を見ていて目がチカチカしないように、あまり疲れないような優しい色合いで、かつ、お洒落さを心がけました。カメラに関して、自分側は小さく、相手側を見やすいように大きくしています。
図書館:なるほど。確かに、画面いっぱいのカメラの映像が一日中隣にあると目がチカチカしてしまいます。ちょうどいい大きさになっているのですね。
菊地さん:ボタンの色合いについても疲れないような色合いを心掛けています。ボタンを押したかどうかの判定で、ボタンを押したときに少し沈むような動きを加えて分かりやすく、気軽に押しやすいボタンにしました。位置も画面の左端から数cmのところに配置しています。右利きの方向けにはなりますが、右手で作業しながら左手で操作しやすいようなボタン配置となっています。文字のフォントもできるだけ優しい雰囲気のフォントにしました。
カウンターでアンさんに相談 (左) 、新システムで対応(事務室内)(右)
図書館:それで「使いやすい」と感じるのですね。
菊地さん:普段の業務中には、事務室での話し声を拾わないようにして欲しいというご希望でしたので、マイクのミュート、カメラのミュートができるようにし、ミュート状態かどうかを分かりやすく表示しました。カメラもミュートにできるようにしたのは、図書館の職員さんが利用中に別のところで顔が映り続けているのは恥ずかしいと話されたのを伺ったからです。
図書館:そんな話まで拾っていただいて、ありがとうございます。開発には苦労も多かったと思います。
菊地さん:プログラムが動かないといった失敗を数百回繰り返し、失敗する度にその問題を見つけてその問題への対処を考えました。今では大体の不具合は分かるようになってきました。正式にこうすれば良いという答えがなく、世の中には答えの種類も多いので色々な技術を見ながら模索して、システムの環境に一番合う答えを探して応用させています。試行錯誤の結果、サーバを2種類構築することになったのですが、Webサーバ自体に関する知識がほとんどなく知識を学ぶことが大変でした。開発期間は10か月程度でしたが、春休み・夏休みを返上で活動したのと、研究室の方々が誰も来ていない時期にたった1人で開発をしていたこともあり、業務で使えるようにするまでに結構大変な思いをしました。就職活動と研究活動(論文発表)も重なり、要領よくこなすことがとてもきつく苦しかったです。
図書館:裏側は想像以上に大変だったのですね。今回お話を伺って、「使いやすい」システムは、開発者の知識と経験と創意工夫と、たくさんの努力に支えられていることがよく分かりました。大事に楽しんで使わせて頂きます。ありがとうございます。
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「アンさん」は、コミュニケーションした内容を使い、日々の業務を学習できるよう、さらに進化しています。利用者がどのような相談をするのか、それに対して職員はどう対応するかなどを、「アンさん」自身が学んでいくようになるのです。いつか、自動で利用者の相談・質問に対応する日も来るかもしれません。
菊地さんは「これをきっかけにロボット研究を知ってもらいたい。これからも人に役立つロボットをつくっていきたい」と抱負を述べています。また、梅谷先生からも、「現在、人工知能(拡張知能)の機能を搭載し、図書館の「知」につながるロボットシステムを開発しています。今座っているリファレンスカウンターで、図書館の専門職員さんや利用者の方に長期間使っていただけるシステムを目指しています。」と、今後の発展についてお話し頂いています。
「アンさん」は利用者だけではなく職員にも非常に便利で役立つロボットです。甲南大学図書館を訪れたときは、ぜひ話しかけて、研究に参加してみませんか。
★アンドロイド・ロボットは、KONANプレミア・プロジェクトの「KONAN AIロボット学びプロジェクト(知能情報学部)」の一環で開発しています。
また、この記事は、「KONANライブラリ サーティフィケイト」参加者の学生Kさんと作成しました。
>>知能情報学部ロボティクス研究室(梅谷研究室)はこちら