【第12回 甲南大学書評対決】 むのたけじ著 『詞集 たいまつⅠ』

4月21日(火)に開催された第12回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

文学部教授 西 欣也 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名 : 詞集 たいまつⅠ
著者 : むのたけじ
出版社: 評論社
出版年:1976年

 

以下、西 先生からの書評です。

 

はっきり言って、最近書かれた哲学・思想の入門書を30冊読むよりも、この3行読んで噛み締める方が、思想というものの本質をよく掴むことができます。そのくらい、むのたけじさんという人はスゴイ。

そこらの思想書よりも平明な日本語で書かれているのに、おそろしく力強く、人間として優しさのこもった確かな思想。「切れば血の出る」思想とは、まさにこのようなものです。アリストテレスやニーチェばかりが哲学ではありません。

しみじみ感じるのは、この本が読まれていた50年前と比べて、私たちが言葉を通して世界に向かい合う力はひどく低下したなあということ。甲南大学の皆さんも、今とは真逆の発想に満ちたこの書物の世界から、時代の変化を感じ取ってみてください。本書を毎日パラパラめくっていけば、思っても見なかったような仕方で視野が広がり、考える欲求が刺激されて、生きることの意味が豊かに迫ってくるはずです!

 

 

第12回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

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【第12回 甲南大学書評対決】 寮美千子編 『名前で呼ばれたこともなかったから―奈良少年刑務所詩集―』

4月21日(火)に開催された第12回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

文学部教授 西 欣也 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名 : 名前で呼ばれたこともなかったから―奈良少年刑務所詩集―
著者 : 寮美千子
出版社: 新潮文庫
出版年:2024年

 

以下、西 先生からの書評です。

 

「詩」というと、恋心をウジウジと書き連ねたものという印象があるかもしれませんが、人間の思いの結晶した言葉が詩です。なので、心に深く強い思いがあってそれを適切に表現すれば自然と良い詩が生まれます。

この本の中の詩はその見本。奈良少年刑務所での「社会性涵養プログラム」から生まれた詩集が話題となり、その続編が本書です。想像を絶する暴力や孤独の中で育った少年たちが、おそらく人生で初めて他人にまっすぐ気持ちを伝えようとした言葉は奇跡のような魅力をもっています。きっとこの少年たちは普通の人々よりもはるかにピュアで繊細な部分を持っていて、だからこそ虐待や親の不和に耐えることができずに取り返しのつかない問題を起こしてしまったのではないでしょうか。罪を犯したのは「自己責任」として矯正施設に閉じ込めている私たちの社会のあり方について反省させられます。

この少年たちの持っているようなみずみずしい感性を活かすことのできる世の中が早く来ないかなあ。

 

 

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【第12回 甲南大学書評対決】 夏目漱石著 『坑夫』

4月21日(火)に開催された第12回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

文学部教授 西 欣也 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名 : 坑夫
著者 : 夏目漱石
出版社: 岩波文庫 ほか
出版年:2014年

 

以下、西 先生からの書評です。

 

『こころ』や『坊ちゃん』は知っていても『坑夫』は知らないでしょ?夏目漱石の作品の中では問題作とされていて、岩波文庫でも長いあいだ絶版が続いていました。村上春樹の小説『海辺のカフカ』の中で、「不完全であるが故に人間の心を強く引きつける」小説とコメントされたこともあり、再び注目を集めています。

問題作と言われたのは、いわゆる「人権上問題のあるとされる」表現が用いられているため。もちろん、漱石自身が差別意識を持っているわけではありません。家をとび出した温室育ちの主人公が、社会の底辺に生きる人々のリアルは状況に出会って感じた衝撃がストレートに書かれているのです。一方で、物語の推進力や人物造形など深みがある点は、さすが漱石。

アンダークラス層が増え続ける格差の時代、文学を通じて社会に向き合ってみたい人には特にオススメの一冊です。

 

 

第12回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

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前田正子(マネジメント創造学部)『子どもの消えゆく国で : 「無子高齢化」と地域の子育て』

■『子どもの消えゆく国で : 「無子高齢化」と地域の子育て
岩波書店 , 2026.2
■ ISBN  9784000617444

■ 請求記号 334.31//2087
■ 配架場所 図書館1階・教員著作コーナー
■ 編著者 前田正子(マネジメント創造学部)著

<自著紹介>
2024年に49歳になった女性の国際比較をすると、子どもを産んでいない女性の比率が世界で最も高いのは日本です。一方、地方から波が引くように人が減っていますが、地域では何が起こっているでしょうか。この本では、女性の無子割合が上がる背景を考えるとともに、このまま少子化が進むと社会に起こることや、人口減の地方の実情を取り上げています。少子化の進む日本の今と未来を考える本です。

 

平野恭平(経営学部)『日本合成繊維工業確立史 : 消極的代替から積極的利用へ』

■『日本合成繊維工業確立史 : 消極的代替から積極的利用へ
ミネルヴァ書房 , 2026.2
■ ISBN  9784623100033

■ 請求記号 586.6//2001
■ 配架場所 図書館1階・教員著作コーナー
■ 編著者 平野恭平(経営学部)著

<自著紹介>
私たちの身の回りには,ナイロン・ポリエステル・アクリルといった合成繊維が存在しています。今となっては当たり前の素材ですが,かつては天然繊維の代わりとなることが期待された時期もありました。本書は,このような合成繊維が,次第に独自の新しい素材として取り扱われるようになっていく過程を描いたものです。そこにみられる経営の面白さと難しさを読み取ってもらえると嬉しいです。

 

内村直之 [ほか] 著 『はじめての認知科学』

 

 

フロンティアサイエンス学部 4年生 島村 大地さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : はじめての認知科学
著者 : 内村直之, 植田一博, 今井むつみ, 川合伸幸, 嶋田総太郎, 橋田浩一

出版社:新曜社
出版年:2016

認知科学と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。私は当初、心理学の一分野であると考えていました。しかし、認知科学は心理学だけにとどまらず、多様な分野が結びついた総合的な学問です。人工知能などの情報科学分野や、脳科学といった理系分野の要素も含まれています。それらを体系的に理解し、学ぶことができるのが、この『はじめての認知科学』という本です。

この本の前半では、「こころとは何か」という問いから始まり、人間がどのように考えるのかという思考プロセスについて多く述べられています。代表的な例として、モンティ・ホール問題が取り上げられています。この問題では、三つの扉のうち一つが当たり、残り二つが外れである状況において、被験者はまず一つの扉を選びます。その後、実験者が外れの扉を一つ開け、残された二つの扉のうちから再び選択できるかを問いかけます。直感的には、どの扉を選んでも確率は同じであるように思われるかもしれません。しかし、場合分けによって計算すると、最初に選んだ扉から変更した方が当たる確率は高くなるという、直感に反する結果が得られます。このように本書では、人間の直感と論理との間に生じるズレを示す例が紹介されており、読んでいて非常に興味深いと感じました。

また、本の後半では人間や動物の知覚機能や認知科学の分野についての歴史が書かれております。例えば、目の前に音が出ている機械があった際、人間であればその音が容易に聞こえることはできます。しかし、仮にその音が超音波のような波形であったとすると、人間には聞こえません。一方で、その超音波を用いて生活している動物がイルカです。イルカは自ら超音波を発し、その音が物体に反射して戻ってくるのを感知することで、周囲に何があり、どこに存在しているのかを把握しています。

このように、認知科学の領域には、人間だけでなく動物の知覚や認知の仕組みに関する非常に興味深い題材が数多く存在しています。本書は、そうした認知科学の面白さに触れながら学ぶことのできる一冊であり、ぜひ多くの人に手に取ってほしいと感じました。