
知能情報学部 3年生 Sさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)
書名 : 変身
著者 : フランツ・カフカ [著] ; 高橋 義孝訳
出版社:新潮社
出版年:1952年
フランツ・カフカの『変身』は、ある朝突然巨大な虫に変わってしまったグレゴール・ザムザの姿を通して、人間の存在価値や社会との関係を鋭く描いた作品である。本作の特徴は、非現実的な
設定が冒頭から提示されるにもかかわらず、その原因や理由が一切説明されない点にある。この不条理さこそが、読者に強い違和感と問いを投げかける。
グレゴールは家族を養うために働く存在であり、虫に変身した後もまず仕事の遅刻を気にする。
この姿から、彼が一人の人間としてではなく「役割」として生きてきたことが分かる。変身によって労働能力を失った瞬間、家族の態度は徐々に冷淡なものへと変わり、彼は家族の中でも不要な存在となっていく。ここには、人間が社会や家族の中で「役に立つかどうか」によって評価される残酷な現実が表れている。
また、グレゴール自身も最後まで強く抵抗することなく、状況を受け入れていく。この態度は、彼
がすでに人間であった頃から抑圧された生活を送っており、自我を持つことを諦めていたことを示していると考えられる。つまり、虫への変身は突然の出来事でありながら、精神的には以前から「人間らしさ」を失っていたとも言える。
『変身』は単なる怪奇小説ではなく、近代社会における労働、家族、孤独といった問題を象徴的に
描いた作品である。カフカは極端な設定を用いることで、人間が社会の中でどれほど簡単に疎外
され、存在を否定されうるかを読者に突きつけている。本作は現代においてもなお、人間の価値
とは何かを考えさせる力を持つ作品である。
