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[藤棚ONLINE]フロンティアサイエンス学部・川内敬子先生『この世を生き切る醍醐味』

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フロンティアサイエンス学部・川内敬子先生推薦『この世を生き切る醍醐味』

樹木希林著
朝日新聞出版, 2019

 役者の樹木希林さんの亡くなる数ヶ月前のインタビューを本にした一冊です。仕事や結婚に育児、そして14年間のがん闘病生活まで、樹木希林さんが実践した“楽しく生きるためのコツ”について記されています。後半には娘である内田也哉子さんから見た母親としての樹木希林さんについて記されています。樹木希林さんは、苦しいことを周囲に伝えることなく、命を全うされ、立派な母親であったと称賛されています。

  一生のうち2人に1人が、がんにかかる時代となりました。現在、さまざまな医療へのアクセスが可能となり、“がんを不治の病である”と考えている人はそれほど多くありません。とはいえ、がんにかかると誰もがストレスを感じ、進行がんになると、多くの方が痛みを感じます。辛さや痛さを口にすることは悪いことではありませんので、樹木希林さんの素晴らしさは、苦しい思いを伝えないことであったとは思いません。樹木希林さんが、“自然の摂理の中で人は生まれては死んでいくこと“を、身をもって次の世代に遺したということを知り、樹木希林さんに対して尊敬の念が強くなりました。

  私は、“カッコいい人生の幕引きのために、日ごろから心がけておくことは何か?” という疑問に対する答えを求め、この本を手にしました。読み終えても、その答えは得られませんでしたが、樹木希林さんの考えを納得することで、肩の力が抜けました。自然の摂理の中で生きているのだから、無理に力を入れないで過ごす日も大切にしたいと考えられるようになりました。是非、皆さんも読んでみてください。

[藤棚ONLINE]マネジメント創造学部・高砂孝緒先生『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。 』

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マネジメント創造学部・高砂孝緒先生推薦『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。 仕事の「直感」「場当たり的」「劣化コピー」「根性論」を終わらせる』

 みなさんは経済学という学問にどのような印象を持っているでしょうか。中には「実生活には何の役にも立たないのではないか」と感じている方もいるかもしれません。そこで今回紹介する書籍は、『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。 仕事の「直感」「場当たり的」「劣化コピー」「根性論」を終わらせる 』です。

 この本では、実際にビジネス実装に携わっている気鋭の経済学者たちが、経済学がビジネスでどのように応用されているかを分かりやすく解説しています。また、著者たちがどれほど苦労してビジネス実装に臨んできたかも垣間見ることができます。難解な数式は一切使われておらず、経済学の初学者でも理解しやすい内容になっています。

 私は普段、西宮キャンパスで経済学の講義を担当していますが、学生たちに冒頭のような質問をすると、相変わらず「実用から少し距離のある学問」といったイメージが根強く、もどかしい気持ちになります。この本を通じて、経済学が実際にどれだけ役立つかを多くの人に知っていただければ幸いです。私自身もこの本と著者たちにならい、実践を意識した講義づくりにより一層取り組んでいくつもりです。

[藤棚ONLINE]経営学部・杉田俊明先生コラム「グローバル経営関連研究へのいざない」

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経営学部・杉田俊明先生コラム「グローバル経営関連研究へのいざない」

 グローバル経営を研究し、関連専門科目を担当する筆者が学部生にまずお勧めしたい参考書は、『グローバル経営入門(新装版)』(浅川和宏著、日経BP、2022年刊、第2版)です。

 タイトルに「入門」、と示されている通り、本書は、グローバル経営についてどうとらえたらよいのか、などについて、数ある関連専門図書のなかでは相対的に読みやすい書物となっているのが、その第一の理由です。

 そして、本書はグローバル経営からみた戦略論、組織論やマネジメント、人的資源管理、グローバル経営と異文化との関係などについても紹介し、グローバル経営関連研究がカバーする領域の広さを示しながら、それら概容をある程度まとめられているのが第二の理由です。

 ところで、実際に本書を手に取って読み始めた一年生や、関連専門科目をまだ履修していない学生からは早速、「どこが読みやすいのか」と、クレームを付けられるかもしれません。その理由は、大学に一般的にある専門科目は(経営学部の例でみれば)戦略は戦略論、組織は組織論、というように、それぞれ一つの領域のものを学ぶに対して、グローバル経営は最初から多くの領域を跨ぐものとして「ややこしい」、と思われているかもしれません。

 理由のもう一つは、一般的な参考書や教科書から、あるいは、基礎や専門科目のなかで、一般に目にすることも聞くこともない、専門的な概念や理論が本書において頻出していることかもしれません。エントリー・モードや、OLIパラダイム(所有の優位、立地の優位、内部化の優位)などがその典型例だと思われます。

 しかし、これらこそがグローバル経営関連理論の土台であり、グローバル経営関連研究の神髄に触れ始めるものでもあります。筆者が本書を勧める最大の理由は実はこの点にあります。

 グローバル経営は実態として今の世界では日常になりつつありながらも、それは単なる一般経営の延伸、といまだ誤認される向きがあります。本書を閲読すれば、グローバル経営関連研究は経営学を横断的に包摂し、グローバル経営固有の理論を含め、エリアスタディーズやグローバルスタディーズ、地政学なども含むものとして理解できるようになるはずです。

 つまり、広範囲、横断的な学びに加えてグローバル的な課題に即応する能力を養うのがグローバル経営関連学びともいえます。グローバル社会での活躍を目指す者に勧めたい研究領域であり、本書の閲読がそのステップの一つになることを期待しています。

[藤棚ONLINE]知能情報学部・田中雅博先生コラム「本学図書館の入館システムを作りました」

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知能情報学部・田中雅博先生コラム「本学図書館の入館システムを作りました」

 図書館入り口の入館の際に、通常のカードタッチの横に別のカードリーダーが設置されていて、「それもタッチしてください」という表示が、3月頃から7月末まで続きました。入館される皆さんは、よくわからないけど何か面倒だなと思っていたのではないかと思います。
 8月以後、扉を常時開放状態にする、新しい入館システムに変更になりました。現在は、旧システムを停止させ、ゲートは常にオープンな図書館になっています!

 入館時にはゲートの上に設置してあるカードリーダーにIDカードをタッチしていただき、そのまま通過してください。カードを読み取れれば読み取り成功音が出されます。カードから個人IDを読み取り、それに従って3つのメッセージ、すなわち(1)図書館からの一律のメッセージ、(2)学部ごとのメッセージ、(3)個人ごとのメッセージ(ない場合は、ここにも別の一律メッセージ)がカードタッチ後、一定時間表示されます。カウンターから呼び出しがある方は、音声メッセージも出ます。別のセンサーで通過確認をしており、通過時にも音がでます。一方、IDカードを使わずに入館した場合は、ブブーという音で警告のメッセージが出ます。また、入館ゲートから退館しようとした場合も同じく音が出ます。音と表示がいろいろ出るようになっていますから、よく確認してください。カードが別の大学のものであったり、期限切れ、再発行時に無効になったカードなどを検知したりしたときはエラー表示がなされます。同じカードを続けて読ませようとしたら、しばらく動作しませんので、注意してください(一度のタッチで複数回読み取る誤動作を避けるための措置ですので)。手作りですから、さらに今後、機能を追加したり、図書館システムと連携させたりすることも原理的には可能です。

 大学が業務として使うシステムを、教員あるいは学生を含む研究室が作るというのはあまり例がないかもしれませんが、実は大学は、大学が必要とするものを中の教員や学生らが作ってそれを実験してみるという格好の場だと思っています(本システムづくりには学生は参加していませんが)。

 私の研究室では、7~8年前から数年前頃、同じく図書館入り口にKoRo(コロ)という、ディスプレイとインタラクティブに手の動作で指示を出し、Leap Motionというセンサーでそれを読み取り、動画を自動選択して進行する図書館館内案内、さらに、入館者自動検知、ディープラーニングによる顔認証、スクレイピングによる電車の遅延情報提供や気象情報の提示と、季節や天候に基づく俳句の提示、体操判定、ロボット音声での返答をする図書館職員との音声通話など、多種多様な機能を盛り込んだロボットを作って置かせてもらっていました(KoRoのボディは和田先生が主体的に設計して作られたものです(現在は、13号館玄関にあります。「KoRo、どこに行ったのかな?」と思っている方、是非13号館に来てみてください。会えますよ!)。KoRoの場合は、図書館自身の必要性というよりも、無理を言って置かせてもらったという感じでしたが、その時も図書館にはご理解いただき、当方の研究室アクティビティは大いに高まりました。設置場所も動線の脇にあって、無視すれば何も気にしなくてよいものでした。それに比べれば、この入館システムは単機能で技術的にも特段の新規性はありませんが、これを使わなければ図書館には入館許可がおりないという、図書館が必要としている業務用のシステムであるという点がKoRoとは根本的に異なっています。大学は、このように、実験の場として、あるいは、さらに、業務への応用の場として利用が可能であることを示すことができました。

 振り返ってみるに、知能情報に限らず、それぞれの学部では、研究している内容が大学そのものに関係づけられるものもいろいろあると思います。大学そのものを研究・実験対象として利用することもできる「中規模」大学の良さを本システムの開発を通じて実感じました。

 なお、手作りですから、いろいろ粗もあると思います。何かお気づきのことがあれば、是非知らせてください。可能な範囲で改良を続けていきたいと思います。

[藤棚ONLINE]経済学部・寺尾建先生コラム「〈幸せ〉と〈不幸せ〉のあいだ」

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経済学部・寺尾建先生コラム「〈幸せ〉と〈不幸せ〉のあいだ」

 話題として今回取り上げる書籍は、直木賞作家である西加奈子氏の最新刊『くもをさがす』(河出書房新社、2023年)です。

 本書が今年の4月に出版されて以降、著者初のノンフィクションであることからも各方面で話題になっていることは知っていましたし、著者の西加奈子氏には会ったこともあり(正しくは、少し離れたところから見たこともあり)、そしてまた、2020年4月24日にYouTubeにアップロードされて、2023年6月26日時点までの再生回数が11万回を超えている動画(https://www.youtube.com/watch?v=F9mwmsYFh4k)を過去3年間の累計で10回以上視聴する程度には氏に関心を抱いてはいました(氏が好きだというミュージシャンが自分とまったく同じだったので、氏のことを他人とは思えなかったからです)。

 それでも、私は、本書を読むつもりはありませんでした。本書では氏が罹患した乳がんの治療についての詳細が記されていることがわかっていたので、読むと心がしんどくなるような気がして、そのことが怖かったからです。

 ところが、私が尊敬する文学部のA先生(A先生は、西加奈子氏に直接会って話をしたことがある人です)が本書を読んだ週に担当するすべての授業で本書についての話をしたという事実を人づてに聞き、すぐに取り寄せて読みました。

 読んで、心がしんどくなることがなくはなかったですが、人生とこの世界についての大切なことを学ぶことができました。それは、たとえば、「不幸そうに見える」と「不幸である」とは違うということ、そしてまた、「幸せそうに見える」と「幸せである」とは違うということ、それゆえ、「不幸そうに見えるけれども、幸せである」ということはありうるということです(同じ理由から、避けたいことではありますが、「幸せそうに見えるけれども、不幸である」ということもありえます)。

 「目に見えることは、実際のところ、どの程度がほんとうのことなのだろうか?」──このことを、人生とこの世界(そこには、自分にとって大切な人とその人生も、当然含まれます)について、忘れずにいつも心に留めておきたいという思いを、本書を読んであらたにしたところです。

[藤棚ONLINE]理工学部・池田茂先生推薦「鏡の中の物理学」

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理工学部・池田茂先生推薦「鏡の中の物理学」


 私の研究室の書棚にある教科書や専門書に紛れて、解説を含めても全部で129ページの薄い一冊の文庫本があります。今日紹介するのはこの本、「鏡の中の物理学」です。1965年にノーベル物理学賞を受賞された朝永振一郎先生が執筆された短編集で、第1刷が1976年に発行されていますので、半世紀近く前に世に出た本ってことになります。3つの短編が含まれており、そのなかの1つ目がこの本のタイトルとなっているお話で、鏡に映った世界と現実の世界という私たちの日常にある場面を通して、相対論がどのような理論であるかが説かれています。後半の2つの話では、量子論に関する考え方について、たいへんユニークで独特な書き方で説明されています。

 この本を買ったのは多分大学院在学中だったかと思います。どんな思いで買ったかはよく覚えていませんが、処分せずにずっと書棚の片隅にありました。改めて拝読すると、「而して」など、ちょっと最近は拝見しない表現も混じってはいますが、平易な文章のなかにユーモアがあってとても読みやすく、知的好奇心をくすぐられる名著であることを再認識しました。ただ、一読して相対論や量子論のアウトラインがわかるのかと言われると、その辺はなかなか初学者にはきっと難解で、先生が説きたいことを本当に理解するには、これらの学問をしっかり深く学ぶことが必要かなとも思いました。

 この本のもう1つの(隠れ)テーマとして、「どうして科学をやろうとするのか」が述べられています。ともすれば目先の成果や社会的なインパクトに流されがちな(自然科学)研究の本当の在り方について、先生の考え方が強いメッセージとして書かれているように感じました。駆け出しの研究者であった若かりし私がこの小さな本をいつまで手放さなかったのは、現在の私が研究することの意味を見誤らないようにするため、「初心忘れるべからず」と思ってのことであったのかもしれません。