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筧裕介著 『認知症世界の歩き方 : 認知症のある人の頭の中をのぞいてみたら?』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 認知症世界の歩き方 : 認知症のある人の頭の中をのぞいてみたら?
著者 : 筧裕介著
出版社:ライツ社
出版年:2021年

認知症についてどのようなイメージがありますか。

「記憶がなくなる病気」

「詳しく知ることがなんとなく怖い、タブーに感じる」

私はこのようなイメージを持っていました。もしも私と同じようなイメージを持たれている方がいらっしゃれば、本書はおすすめの一冊です。

本書は、認知症のある方に行ったインタビューをもとに、当事者の視点で認知症に関する困りごとや気持ちを書いた本です。また、それらを旅にたとえた形式でまとめていたり、文体が優しい語り口調であったりと親しみやすい工夫がされています。

そして、「旅人の声」として、認知症のある方が語るかのように、症状によって生じる感じ方や気持ちを交えながら、認知症に関するエピソードが紹介されています。このコーナーによって、認知症のある方が生きている世界を想像しやすくなっています。

私は本書を読んで、認知症の症状は記憶に関するものだけでなく、例えば形や大きさを正しく認識できないために黒いマットが穴に見えるなど、認知機能に関する症状も多くあることを知りました。また、そのような症状のために認知症のある方の生きている世界は、私が思っていたよりも危険で不安定なのだと思いました。ドラマなどで認知症の方がパニックに陥ったかのようなシーンを見たときに怖いと思ったことがあります。しかし、周囲が危険だらけの世界で生きていれば、当然の反応だと思い直しました。そして、他者の視点を知ることの大切さを実感しました。

また、本書には、認知症のある方の視点だけでなく、なぜそのように感じるのか、その原因に関する説明もあります。そのため、認知症のある方やその周囲の方が生活しやすくなるヒントがあると思います。また、どのような認知機能の働きが、私たちの普段の生活を支えているのかについても知ることもできます。些細に思える行動も複雑な仕組みで行われていることを知ると生活の見方が少し変わるかもしれません。

本書を手に取って、知らない世界を少し知ってみようかなという気持ちで、認知症について知ってみるのはいかがでしょうか。

織守きょうや著『記憶屋』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 記憶屋
著者 : 織守きょうや著
出版社:KADOKAWA
出版年:2015年

主人公の遼一は、恋心を寄せていた杏子のトラウマを克服するお手伝いをしていました。その中で遼一と杏子は、消したい記憶を消してくれる都市伝説上の怪人「記憶屋」の話を知りますが、遼一は記憶屋をただの都市伝説だと考え、本気にしていませんでした。しかし、ある日、杏子が遼一とのやり取りも含めてトラウマに関する記憶すべてを忘れてしまいます。このことをきっかけに、遼一は記憶屋の存在を認め、そして正体を突き止めようと、記憶屋を探しはじめます。

この小説のテーマは、「記憶を消すことは良いことか悪いことか」であると考えられます。トラウマで苦しんでいた杏子の姿と人から忘れられることの痛みの両方を知っている遼一は、このことを悩みながら記憶屋の真相に迫っていきます。また、杏子以外にも記憶屋に記憶の消去を依頼した人物が登場し、その人物がどのような目的で、誰のどんな記憶を消すことを記憶屋に依頼したのかについても明かされます。

記憶を任意で消せるという非現実的な設定やそれによって生じる本小説のテーマは、共感しづらいかもしれません。しかし、この設定やテーマだからこそ、誰もがもっている記憶の普段は意識されづらい一面である、記憶は保有者だけのものではないこと、記憶の中には自身に関わってくれた人々が存在していることにスポットライトが当たり、人とのつながりの中に自分が存在することを改めて認識し、そして考えるきっかけを与えてくれるように思います。突飛な設定によって、日常生活で当たり前となっていて忘れがちなことに気づかされる点が面白いと思いました。

なお、本小説はホラー小説に分類され、作中では都市伝説を取り上げますが、怖い要素はないので、どなたでも安心して読めます。

また、つい読み進めたくなる記憶屋の真相に迫る過程だけでなく、相手を大切に思うからこそ記憶屋に記憶の消去を依頼した人物のお話も含まれているので、メリハリがあり、最後まで興味をひかれながら読むことができると思います。

澤田智洋著 『マイノリティデザイン』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : マイノリティデザイン
著者 : 澤田智洋著
出版社:ライツ社
出版年:2021年

受験や就活で、周囲から色々な助言をもらっても、やっぱりネームバリューが頭から離れないまま、他者と競争し、その隙間にスマホを見れば、すぐにSNSで他者の様子がわかって自分と比較ができてしまう。きっと社会に出ても、評価され、比較されることは続く。また、生活の中でなんとなく目にする商品や広告はすぐに変わり、前のものは思い出せない。私たちは、ものごとが大量に消費されていく社会の中で、強いことが良いことだと思い、強くなることを強いられているのかもしれません。

そのような中で、

「すべての弱さは、社会の伸びしろ」

この言葉は信じがたい言葉かもしれません。これは著者の言葉です。

著者はコピーライターで、視覚障害のある息子さんが生まれたことをきっかけに、一般的に弱さと考えられているマイノリティ性に目を向けて、それを生かす働き方をするようになりました。本書は、そのような背景をもつ著者が、マイノリティ性を生かす方法について、事例を交えて書いた本です。

本書では、マイノリティ性があるからこそ実現したアイデアが紹介されています。そのアイデアがユニークで面白かったです。また、マイノリティのためのアイデアが、結果としてマイノリティ以外の人も楽しませていて、弱さは社会の伸びしろだと実感できました。

一方、納期に追われながら、すぐに消費されるものを作る働き方に虚しさを感じていた著者が、マイノリティを生かす働き方に夢中になっていく様子からは、働くことについて考えさせられました。

「あなたの弱さは、だれかの強さを引き出す力」

これも著者の言葉で、発想力という強みをもつ著者とは違い、強みのない私は励まされました。強みがなくても、自身の弱さがだれかの強さを引き出せるのなら、周囲を良くすることに少しでも役立てるように思えたからです。

生活をしていく上で、ある程度の強さも必要で、強くなるための向上心や努力も大切だと思います。しかし、強さばかりでなくて良い、弱さがあっても良いと、本書を読んで思えました。自分にも他者にもやさしくなれる本だと思います。

大山淳子著 『あずかりやさん 桐島くんの青春』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : あずかりやさん 桐島くんの青春
著者 : 大山淳子著
出版社:ポプラ社
出版年:2018年

「一日百円で、なんでもお預かりします」という不思議なお店「あずかりや」に、物を預けに来る人や、預けられた物を主人公とした短いお話が5つ収録されています。どのお話にもやさしい雰囲気があり、少し切なくなる場面があっても、ほのぼのと読むことができます。

とくに魅力に感じるのは、預けられた物視点で語られるお話があるところです。普段は想像もしない物視点の語りがユニークで面白いです。その面白さは、自分が使っている物たちも何か考えているかもしれない、そうだとしたら何を考えているのだろうと想像してしまうほどで、本を閉じた後も楽しい気持ちが続きます。

本書では、文机とオルゴールを主人公としたお話があります。物だからか、どちらも語り口調がアニメや漫画のキャラクターのように少しコミカルで、読んでいてかわいらしく、愛着がわきます。また、元の持ち主を大切に思う姿がけなげで、きっと用意されているであろうハッピーエンドを早く読みたくなり、ページをめくる手が止まりませんでした。

この2つの中でも私はオルゴールが主人公のお話「夢見心地」がお気に入りです。120年前に作られたオルゴールが、自身を作り、そして大切にしてくれた職人に手放されたことへのショックと疑問をもちながらも、次々に変わる持ち主のもとで、懸命に自身の役目である音楽を奏でることに励む姿が描かれています。そして最後には、自分が持ち主たちによって愛されていたことや自身を手放した職人の意図に気づき、自分のやりたいことを見つけるお話です。オルゴールの言葉や生き方からは、過去や未来を糧にしながら今を誠実に生きる大切さが学べるように思います。

5つの短いお話は、それぞれで完結するので、読書の時間が取りにくいときでも、読みやすいと思います。一方で、他のお話とのつながりを少し感じるような記述もあるので、それを見つけて、にやりとするのも楽しいです。

温かいお話ばかりなので、どなたにでも楽しんでいただける一冊だと思います。

宮口幸治著 『歪んだ幸せを求める人たち』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 歪んだ幸せを求める人たち
著者 : 宮口幸治著
出版社:新潮社
出版年:2024年

「人生を悲観し、自殺しようと思った。しかし、自分を大切にしてくれている祖母を思い出し、自分が死ねば祖母は悲しむだろうと思った。だから、祖母が悲しまないで済むように祖母を先に死なせてあげようと思った。」

「仕事終わりに雨が降っていたので、会社の入り口の傘立てで、置いてあるはずの自分の傘を探した。しかし、見つからなかった。誰かに盗まれたと思い、犯人の心当たりとして何人かが思い浮かんだ。途中で自分の机の近くに傘を置いたことを思い出したが、犯人候補として思い浮かんだ人物などへの怒りを強く感じていたので、傘を取りに戻るのも面倒だと感じ、他人の傘を黙って使っても問題ないと思った。」

この2つのお話を読んで、あなたはどう思いましたか。両者とも悪いことだけれども、後者の気持ちはわからなくもない、前者の気持ちは理解しがたいと思ったかもしれません。そして、後者は身近な、前者は自分とは関係のないお話のように思ったかもしれません。

しかし、著者は「歪んだ幸せを求めている」点で両者は共通していると考えています。歪んだ幸せとは、自身の幸せを求めすぎるあまりに他人を巻き込み、不幸にしてしまう幸せのことです。そして、本書では歪んだ幸せを引き起こす5つの歪みである「怒りの歪み」、「嫉妬の歪み」、「自己愛の歪み」、「所有欲の歪み」、「判断の歪み」について紹介しています。

本書を読んで、私は、非行は人の不幸を願って起こされるものではなく、自身の幸せを求めすぎて起こされるものだと認識が変わりました。そして、非行少年たちと同じように「幸せになりたい」と思う私も、歪んだ幸せを求めてしまうこととは無縁ではないと感じました。また、前述した2つ目のお話のように、歪んだ幸せを求めた行動は身近にもあります。

そのため、歪んだ幸せの原因となる5つの歪みについて知り、自身の行動を見直したり、5つの歪みと向き合ったりすることで、適切な行動ができるようにしたいと思いました。また、本書はその助けとなる本だと思いました。

熊代亨著 『「若者」をやめて、「大人」を始める : 「成熟困難時代」をどう生きるか?』

 

 

文学部 1年生 Nさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 「若者」をやめて、「大人」を始める : 「成熟困難時代」をどう生きるか?
著者 : 熊代亨著
出版社:イースト・プレス
出版年:2018年

この本は異なる世代との接し方について学べる本です。今の時代、ネットを通じて様々な世代と繋がれるといっても、それは共通の趣味を持っていたり、価値観が似通っていたりするという共通点があるからです。では、現実社会でかかわりたくなくともかかわらざるを得ない、自分とは違う世代の人たち、それが自分より年上の世代かどうかを問わず、仕事であるからどうしてもかかわらないといけない場合、どのように接すればよいのかということを学べる本です。

この本は題名の通り、今、若者である学生や自分のことをまだ若い、大人になり切れていないと思っている人たち向けに書いてあります。そのため、まず、「大人とは何か」というところからスタートします。
この本の面白いところは主語、読む対象が若者だけに限定されていないところにあります。そのため、ほかの章では、若者の持つアドバンテージのみがフォーカスされた結果、いつまでも「若者」のマインドを持った中年が多くいる、またその問題点を述べ、若者ではなく中年の視点からも述べているのです。これには私も驚きました。確かに、最近よい、とされている上司は同じ目線になって考えてくれるという点が入っていますが、それになろうとして年甲斐もなく、若者のような流行を追い求めたり、言葉遣いを若者風にしたりする中年は多くいます。しかし、心身共に壊してしまう可能性があると筆者は述べているのです。体力が衰えているのに若者のように振舞えば、体を壊してしまうし、今までの経験が積み重なっているにも関わらず、何も知らないかのようにすべてを新鮮に感じることはできません。それを追い求めすぎると心をも壊してしまう原因になります。

では、中年は何も起きない平凡な人生をずっと過ごすしかないのでしょうか?そんなことはありません。「大人」には「大人」の生き方があるのです。若い世代には苦し紛れにしか聞こえないかもしれませんが本当にある、ということを中年の筆者が体験をもって教えてくれます。また、これを通して若い世代に向けて、絶対に嫌な大人に会う時もあるがその時はどうすればよいのかというようなことも教えてくれます。

このように、この本では異なる世代との接し方を様々な視点から筆者の経験も含めて書いてあるので、読み終わるとなんだか誰かの人生を経験してきたかのような気持ちにさせてくれます。「大人」になるとはどういうことなのか?いつも疑問に思っていたことが何となくわかるようになる1冊です。