投稿者「図書館」のアーカイブ

島田雅彦著 『パンとサーカス』

 

 

知能情報学部 4年生 Sさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :パンとサーカス
著者 : 島田雅彦著
出版社:講談社
出版年:2022年

物語は、架空の未来都市を舞台に、社会のあらゆる階層の人々の生活を描き出します。タイトルが示す通り、「パンとサーカス」は、古代ローマの政策を引き合いに出しながら、現代社会における消費文化と娯楽の役割を問いかけます。主人公たちは、表面的な楽しみや消費に没頭することで、本当に必要なものを見失いがちな現代人の象徴です。

個々のキャラクターを緻密に描写し、それぞれの人生に共感を呼び起こす力があります。主人公たちの内面の葛藤や成長、そしてそれに伴う挫折や失望を通して、読者は自らの生活を振り返り、本当に大切なものとは何かを考えさせられます。特に、物語の進行と共に明らかになる人間関係の複雑さや、社会の構造的な問題には、深い考察が込められています。

もう一つの魅力は、その文体にあります。島田雅彦は、緻密で繊細な言葉選びと、時折見せるユーモラスな表現で、読者を物語の世界に引き込みます。彼の描く未来都市は、一見すると非現実的な設定ですが、その中に潜む真実味は、読者に強烈なリアリティを感じさせます。この絶妙なバランスが、物語の魅力を一層高めています。現代社会の問題点を風刺的に描く一方で、希望や救いの要素も取り入れています。これは、単なる批判に終わらず、読者に前向きなメッセージを届けることに成功していると言えるでしょう。島田雅彦は、絶望の中にも微かな光を見出すことで、読者に考える余地を与えています。

総じて、『パンとサーカス』は、現代社会の虚栄と本質的な幸福を探る深い洞察に満ちた作品です。島田雅彦の優れた物語構成力と魅力的なキャラクター描写は、多くの読者にとって忘れられない読書体験を提供します。本書を通じて、私たちは消費社会の中で見失いがちな本当の価値について、改めて考える機会を得ることでしょう。

池井戸潤著 『下町ロケット』

 

 

知能情報学部 4年生 Sさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :下町ロケット
著者 : 池井戸潤著
出版社:小学館
出版年:2013年

池井戸潤の『下町ロケット』は、2013/12/26に刊行され、日本の中小企業の奮闘を描いた感動的な物語です。

主人公の佃航平は、大手企業を辞め、父が経営していた小さな町工場「佃製作所」を継ぎます。彼の夢は、自社製のロケットエンジンを完成させ、宇宙へ飛び立つこと。しかし、現実は厳しく、会社は経営危機に瀕し、社員たちの士気も低下しています。佃は、ロケットエンジンの開発に全力を注ぎますが、次々と壁にぶつかります。大手企業との競争、資金不足、技術的な課題など、数々の困難が彼を待ち受けます。特に、大手企業の圧力に屈しそうになる場面では、佃の苦悩がリアルに描かれています。しかし、佃は諦めず、社員たちと共に困難を乗り越えていく姿が感動的です。

本書の魅力は、単なる企業小説に留まらず、人間ドラマとしても優れている点です。登場人物一人一人が持つ背景や葛藤が丁寧に描かれ、読者は彼らに共感し、応援したくなります。特に、佃のリーダーシップと信念には心を打たれます。彼は、どんなに困難な状況でも、夢を諦めず、社員を信じ抜きます。この姿勢が、社員たちの士気を高め、一丸となって挑戦する原動力となります。また、技術に対する情熱も本書の重要なテーマです。

佃製作所のエンジニアたちは、自分たちの技術に誇りを持ち、常に高みを目指しています。彼らの技術者魂が、ロケットエンジン開発という壮大な夢に結実する過程は、読み応えがあります。技術の進歩と、それを支える人々の努力が描かれることで、読者は科学技術の素晴らしさと、その背後にある人間の力を実感することができます。日本の中小企業の現状と課題をリアルに描いており、経営者やビジネスマンにとっても示唆に富む内容となっています。そのため、社会人になる前の大学生にとってもためとなる作品です。

グローバル化が進む現代社会において、小さな企業がどのようにして生き残り、発展していくのか。その答えを佃製作所の奮闘に見ることができます。

[藤棚ONLINE] 文学部・ファヨル入江容子先生推薦, エルザ・ドルラン著『人種の母胎―性と植民地問題からみるフランスにおけるナシオンの系譜』

図書館報『藤棚ONLINE』 (特別寄稿)
文学部・ファヨル入江 容子先生より

 7月に入りましたが、雨降りの日々、みなさんいかがお過ごしでしょうか。曇り空に憂鬱な気分になっている方もいらっしゃるかもしれません。こんなときは、図書館に足を運び、読書に耽ってみてはどうでしょうか。運が良ければ、心に晴れ間が射すかもしれません。ある書物との奇跡的な出会いが、これまで見ていた「世界」をまるっきり変えてくれることもあるからです。雲の切れ間から日の光が差し込むように、視界が開け、暗く閉ざされた世界が、実はさまざまな色彩に満ちた多様な世界だったことに気づかされることになるのです。そのような転換、目の覚めるような出来事が読書経験には秘められています。

 今回、ご紹介するのは、私にそのような気づきをもたらし、翻訳に至った書物、フランスの哲学者エルザ・ドルラン〔Elsa Dorlin:1974-〕『人種の母胎――性と植民地問題からみるフランスにおけるナシオンの系譜』(人文書院、2024年)です。
著者のドルラン氏はフランス国立トゥールーズ・ジャン・ジョレス大学教授として、現代政治哲学を講じ、性(セックス)/ジェンダー/セクシュアリティ、「人種」および階級の交差的課題、身体論、暴力論を主な研究領域として、精力的に執筆・研究活動を続けています。
本書では、17・18世紀におけるフランスを中心としたヨーロッパの医学文献・資料を丹念に読み解くことにより、現代に続く性差別および人種差別を正当化する支配原理の淵源に鋭く切り込んでいます。
 女性の身体は、いかにして、病理化、つまり「病」に苛まれる身体として規定されることを通じ、その劣等性が徴づけられ、男女間のヒエラルキーが正当化されるに至ったのか。さらには、女性間の身体もまた「病」によって、ブルジョワあるいは貴族階級の白人女性と、客体化された例外的女性たち(庶民階級の女性、農村女性、女性同性愛者、黒人女性、先住民女性)として区別されるに至ったのか。また、このような「女性」の身体と同様の問題設定において、植民地における「原住民」およびアフリカ大陸から強制移送されたアフリカ人の身体は、どのように病理化されたのか、また、この医療的操作よって、「健康」である「白人」の優位性が徴づけられ、「人種」をめぐる権力関係がいかに正当化されていったのか。これらの問いに応答しつつ、植民地が、「フランス国民(ナシオン)」を胚胎するための「実験場」であったということが明らかにされていきます。

『人種の母胎』

エルザ ドルラン 〔Elsa Dorlin〕 著,ファヨル入江 容子
人種の母胎 ― 性と植民地問題からみるフランスにおけるナシオンの系譜
人文書院, 2024/06
ISBN: 9784409041277
原書タイトル:La Matrice de la race. Généalogie sexuelle et coloniale de la Nation française, Édition la découverte

 甲南大学で本年5月に行われた翻訳刊行記念講演会では、「性」と「人種」はそれぞれ別個のカテゴリーをなしているわけではなく、前者が後者の「モデル」を提供しているというよりは、分かち難く、より複雑に結びついていることが強調されていました。原著出版から現在まで、人種差別と性差別をめぐる状況はあまり変わったとはいえないとおっしゃっていたことも印象的でした。
 ドルラン氏は、岡本キャンパスを散策の折には、なんぼーくんと記念写真を撮るなど、彼女の研究内容からは全く想像がつきませんが、日本の「かわいい」ものがお好きなようでした。なお、KAWAIIは国際語です。講演会後に、討論者を務めてくださった鵜飼哲先生(一橋大学名誉教授)と三人で訪れた元町のバーでは、おすすめした灘のお酒――中でもすっきりとした飲み心地のもの――をとても気に入ってくださり、たった1日半という短いご滞在でしたが、神戸を満喫されたようでした。また甲南大学に来てくださるといいですね。

梅本剛正(全学共通教育センター)『金融商品取引法 』

金融商品取引法』(ベーシック+プラス)
中央経済社 , 2024.4
■ ISBN  978-4-502-49171-9
■ 請求記号 338.16//2182
■ 配架場所 図書館1階・教員著作コーナー
■ 編著者 梅本剛正(全学共通教育センター)著

<自著紹介>

 前著『金商法入門』と同じく,枝葉は省いて金商法の骨格部分を読者が理解できるようにすることを目的にしました。とくに今回は金融リテラシー教育の観点から「資産運用業などの規制」も新たに加えたため,前著よりページ数は大きく増えました(ついでながら,定価を下げたので大変お買い得かと)。

神戸市立三宮図書館で『LLブックにふれてみよう』を展示しています!

 

去る6月11日(火)まで甲南大学図書館1階閲覧室で展示していました、KONAN ライブラリ サーティフィケイト 学生企画『LLブックにふれてみよう』のLLブックとポップが、神戸市立三宮図書館で展示されています。

 

KONAN ライブラリ サーティフィケイト 学生企画『LLブックにふれてみよう』も合わせてご覧ください。

 

 

 

今回、甲南大学図書館にてLLブックを展示するにあたり、図書をすべて神戸市立三宮図書館にお借りしました。そのご縁のもと、このような図書館間での展示に至りました。
この場をお借りいたしまして、ご協力いただきましたすべての皆様へ感謝申し上げます。

 

神戸市立三宮図書館は仮移転中で、現在KIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸)2階にあります。おしゃれで洗練された雰囲気のある、とても素敵な図書館です。

 

 

 

KONANライブラリサーティフィケイトでは、このような甲南大学図書館を飛び出しての活動もしていただける機会があります!

図書館は皆さんの活動を応援しています。ぜひライブラリサーティフィケイトで活動の幅を広げてみませんか?

 

尾原宏之(法学部)『「反・東大」の思想史』

「反・東大」の思想史』(新潮選書)
新潮社 , 2024.5
■ ISBN  978-4-10-603909-6
■ 請求記号 377.21//2082
■ 配架場所 図書館1階・教員著作コーナー
■ 編著者 尾原宏之(法学部)著

<自著紹介>

ネットでは、24時間体制で学歴トーク・大学序列トークが露骨に繰り広げられています。それを見て元気になったり、意気消沈したりする人も多いことでしょう。一般的に日本の学歴の頂点とされるのは東大ですが、歴史上、東大に逆らった元気な勢力や人物は意外に多く、東大とアンチのせめぎ合いが日本を作ったといえます。本書の執筆動機の一つは甲南大学生を学歴病から救済することです。