2-2. 教員オススメ」カテゴリーアーカイブ

[藤棚ONLINE]文学部・友田義行先生推薦『世界は分けてもわからない』

図書館報『藤棚ONLINE』
文学部・友田義行先生より

 世界は分けてもわからない、というタイトルがもう秀逸です。世界はひとつながりの全体ですが、大きすぎて私たちには捉えきれません。そこで細分化し、分析する、つまり分けることで、私たちは「分かった」と思い込む。けれどもそれでは世界という全体は「分からない」のではないか。分子や原子や電子をとらえることで「分かる」ことも多々ありますが、一方で、花がもつ美しさや香りが見失われてしまうこともある。

 大学での研究活動も、多くは「分からない」ことを「分かる」ようにするために行われます。そのために対象を緻密に観察し、詳細かつ正確な議論を構築することが求められる。でも、時には空を見上げて胸を開き、全体としてはどうなんだろうと、頭や視点をリセットすることも必要だなあと思うのです。

 本書では、「電車に乗っているときふと顔を上げると、向かいの人もこちらを見ていて視線がぶつかり合うことが多いのはなぜか」とか、「幼児が人間の絵を描くと、頭からちょくせつ手足が生えている絵になりがちなのはなぜか」といった話題から、「脳死は人の死であるとか、胎児はどこからが人間なのかとか、なぜ人の生命を前後から縮めるような議論が繰り返されるのか」といった問題まで、様々な現象を対象としながら、全体としては上述のような思考法で世界を理解しようとする議論が重ねられています。その先に、著者が一貫して提唱している生命観である、「動的平衡」という概念が見えてきます。

 研究分野を問わず、「考え方・ものの見方」を学べる好著です。

[藤棚ONLINE]新図書館長・村澤康友先生(経済学部)ご挨拶

図書館報『藤棚ONLINE』
新図書館長・村澤康友先生(経済学部)ご挨拶

 はじめまして.4 月より新たに図書館長に就任いたしました,経済学部教員の村澤と申します.甲南大学の教育・研究を支える基盤として,図書館は重要な役割を担っております。本学図書館が引き続き学生・教職員の皆様のお役に立てるよう,微力ながら尽力してまいります.何卒よろしくお願い申し上げます.

 「読書は豊かな人間を,議論は機転が利く人間を,執筆は正確な人間を作る」という格言があります.私の知る限り,賢くなるための唯一の方法は読書です.読書を通じて私たちは,時間や空間を超えて偉人から学ぶことができます.漫画でも娯楽小説でも構いませんので,自分を豊かにしてくれる本を見つけ,積極的に読むことをお勧めします.

 私自身を豊かにしてくれた一冊として,私からはジョン・スチュアート・ミル『自由論』をお勧めします.私は本書から,自分の自由を貫き,他人の自由を尊重することの大切さを学びました.また本書は人生の指針となる格言の宝庫です.いくつかご紹介しますので,ぜひ味わってください.

人が良いと思う生き方をほかの人に強制するよりも,それぞれの好きな生き方を互いに認め合う方が,人類にとって,はるかに有益である.

自分の頭で考えず,世間にあわせているだけの人の正しい意見よりも,ちゃんと研究し準備をして,自分の頭で考え抜いた人の間違った意見のほうが,真理への貢献度は大きい.

どんなに正しい意見でも,十分に,たびたび,そして大胆に議論されることがないならば,人はそれを生きた真理としてではなく,死んだドグマ(教条)として抱いているにすぎない.

自分が言いたいことしか知らない人は,ほとんど無知に等しい.

意見の衝突は,熱を上げている当事者には良い効果をもたらさないが,もっと冷静でどちらの側にもつかない傍観者には益をもたらす.

人生の設計を自分で選ぶのではなく,世間や自分の周辺の人々に選んでもらうのであれば,猿のような模倣能力のほかには何の能力も必要ない.

人が一生をかけて完成させ,磨き上げるべき作品のなかで,一番重要な作品はまさしくその人の,人間そのものである.

無気力で無感動な人よりも,エネルギッシュな人のほうがかならず世の中に多くの益をもたらす.

たしかに,天才はごく少数しかおらず,そして,つねに少数のままだろう.しかし,天才が現れるためには,天才が育つ土壌を保持しておかなければならない.

改革の精神は,かならずしも自由の精神ではない.なぜなら,それは気の進まないひとびとにも改革を強いる場合がありうるからだ.

人が自主的に選択したものは,それが本人にとって望ましいもの,あるいは少なくとも我慢できるものだったことを示す.そして,人がもっとも幸福になれるのは,全体として,その幸福の追求手段をその人が自分で選択できるときである.

人は一般に自分の自由よりも自分の権力を守りたがる.

斉藤悦則訳 (光文社古典新訳文庫 ) より

 現代社会を生きる上で,「自由」の意義を正しく理解することはきわめて重要です.自由主義が経済にもたらす利益を論じたミルトン・フリードマンの『選択の自由』と,自由であることに耐えられない人間の弱さを指摘したエーリヒ・フロムの『自由からの逃走』を併せて読むことで,その理解はいっそう深まるでしょう.

 それから漫画も立派な読書の一つです.現代では世界中の若者が日本の漫画を読んでおり,国際交流においても重要な教養の一つとなっています.私の秘かな願いは,甲南大学図書館に日本の漫画の名作を所蔵することです(私の一押しは『進撃の巨人』です).図書館に置いてほしい漫画がありましたら,ぜひご意見をお寄 せください.


【図書館事務室より】
 藤棚ONLINE2026年度第1号は、今年度新たに図書館長に就任されました経済学部教授・村澤康友先生よりご挨拶いただきました。先生からご紹介いただいた「自由」に関する本、とても大切なことだと思いますので、ぜひ読んでみてください。
 図書館では、HPだけでなくX(Twitter)やこのブログでも情報発信していますので、定期的にチェックしてみてくださいね。学生の皆さんのご利用をお待ちしています。

【第12回 甲南大学書評対決】 むのたけじ著 『詞集 たいまつⅠ』

4月21日(火)に開催された第12回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

文学部教授 西 欣也 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名 : 詞集 たいまつⅠ
著者 : むのたけじ
出版社: 評論社
出版年:1976年

 

以下、西 先生からの書評です。

 

はっきり言って、最近書かれた哲学・思想の入門書を30冊読むよりも、この3行読んで噛み締める方が、思想というものの本質をよく掴むことができます。そのくらい、むのたけじさんという人はスゴイ。

そこらの思想書よりも平明な日本語で書かれているのに、おそろしく力強く、人間として優しさのこもった確かな思想。「切れば血の出る」思想とは、まさにこのようなものです。アリストテレスやニーチェばかりが哲学ではありません。

しみじみ感じるのは、この本が読まれていた50年前と比べて、私たちが言葉を通して世界に向かい合う力はひどく低下したなあということ。甲南大学の皆さんも、今とは真逆の発想に満ちたこの書物の世界から、時代の変化を感じ取ってみてください。本書を毎日パラパラめくっていけば、思っても見なかったような仕方で視野が広がり、考える欲求が刺激されて、生きることの意味が豊かに迫ってくるはずです!

 

 

第12回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

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【第12回 甲南大学書評対決】 寮美千子編 『名前で呼ばれたこともなかったから―奈良少年刑務所詩集―』

4月21日(火)に開催された第12回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

文学部教授 西 欣也 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名 : 名前で呼ばれたこともなかったから―奈良少年刑務所詩集―
著者 : 寮美千子
出版社: 新潮文庫
出版年:2024年

 

以下、西 先生からの書評です。

 

「詩」というと、恋心をウジウジと書き連ねたものという印象があるかもしれませんが、人間の思いの結晶した言葉が詩です。なので、心に深く強い思いがあってそれを適切に表現すれば自然と良い詩が生まれます。

この本の中の詩はその見本。奈良少年刑務所での「社会性涵養プログラム」から生まれた詩集が話題となり、その続編が本書です。想像を絶する暴力や孤独の中で育った少年たちが、おそらく人生で初めて他人にまっすぐ気持ちを伝えようとした言葉は奇跡のような魅力をもっています。きっとこの少年たちは普通の人々よりもはるかにピュアで繊細な部分を持っていて、だからこそ虐待や親の不和に耐えることができずに取り返しのつかない問題を起こしてしまったのではないでしょうか。罪を犯したのは「自己責任」として矯正施設に閉じ込めている私たちの社会のあり方について反省させられます。

この少年たちの持っているようなみずみずしい感性を活かすことのできる世の中が早く来ないかなあ。

 

 

第12回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

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【第12回 甲南大学書評対決】 夏目漱石著 『坑夫』

4月21日(火)に開催された第12回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

文学部教授 西 欣也 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名 : 坑夫
著者 : 夏目漱石
出版社: 岩波文庫 ほか
出版年:2014年

 

以下、西 先生からの書評です。

 

『こころ』や『坊ちゃん』は知っていても『坑夫』は知らないでしょ?夏目漱石の作品の中では問題作とされていて、岩波文庫でも長いあいだ絶版が続いていました。村上春樹の小説『海辺のカフカ』の中で、「不完全であるが故に人間の心を強く引きつける」小説とコメントされたこともあり、再び注目を集めています。

問題作と言われたのは、いわゆる「人権上問題のあるとされる」表現が用いられているため。もちろん、漱石自身が差別意識を持っているわけではありません。家をとび出した温室育ちの主人公が、社会の底辺に生きる人々のリアルは状況に出会って感じた衝撃がストレートに書かれているのです。一方で、物語の推進力や人物造形など深みがある点は、さすが漱石。

アンダークラス層が増え続ける格差の時代、文学を通じて社会に向き合ってみたい人には特にオススメの一冊です。

 

 

第12回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

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[藤棚ONLINE]全学共通教育センター・西浦太郎先生推薦「風の歌を聴け」

図書館報『藤棚ONLINE』
全学共通教育センター・西浦太郎先生より

風の歌を聴け(村上春樹、講談社、1979年)

 今回、ご紹介したいのは村上春樹さんのデビュー作「風の歌を聴け」です。私は普段、あまり小説を読まないのですが、この作品は、ある人に勧められて読み、とても印象に残っています。

 本書を読んだ後の私の感想は、「この人は化け物だな」というものでした。そして、この人が今後、表現し、生み出していく世界はどのようなものなのだろう、と感じずにはいられませんでした。(他の人にはあまり分かってもらえませんが・・・)。いずれにしても、彼の後の作品の萌芽が多く含まれた一冊なのかもしれません。

 あまりネタバレになると良くありませんが、小説は世界に対して無関心なトーンで進み、最後にある女性との出会いと、別れがあり、そしてDJの言葉があります。

 人の言葉にならない悲しみや気持ちを聴き、苦しむ人と共に居続けようとする姿勢について考えさせられる作品です。

 また、読んだ後に、本のタイトルについて考えてみるのも面白いかもしれません。