山田宗樹『百年法(上・下)』

  知能情報学部 3年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:百年法(上・下)
著者:山田宗樹
出版社:角川書店
出版年:2012年

 私が、「百年法上・下」に出会ったきっかけは書店の売れ筋ランキング上位にあったことである。店員の紹介文が「一気読みしてしまう!」というもので、長文が苦手な私でも読めるかなと思いこの本を手に取った。

  1945年日本は太平洋戦争に負け、米国の支配下のもとに共和国となり、GHQにより人不老化ワクチンが導入される。しかし人が不老化する事で政治や経済、医療、世代交代が出来ない等の問題が起きる。それらの問題を解決するため政府は、生存制限法、通称百年法「HAVIを受ける者は、処置後百年を経て、生存権を始め あらゆる権利を放棄することに同意せねばならない」という法律を施行。百年法制定後の近未来の社会では、今度は百年法による問題が起きる。結果、百年法の凍結の是非を決めるため国民投票という形で重い決断が国民一人一人に委ねられるというものである。

  印象に残っている場面は、HAVIを受けた者はSMOCにかかり実は16年ももたないという事実が発覚した場面である。SMOCの危機に晒される未来を知りながらHAVIを受けるかという人々の葛藤が見ものだと感じた。

  「不老不死なんてありえない」と思いながらも「こういう世界があったら」と思うような作品であった。永遠の時間をゆったりと暮らしていくことは幸せだろうなと考えたが、実はそんなこともないのだと実感した。一人一人の人生に限りがあるからこそ、限りある人生に喜びや幸せ、楽しみを求めることができる、そして苦しいことがあっても乗り越えることができるのではないかと思った。100年後に来る死を受け入れ永遠の若さを手に入れるか、老いていく肉体を受け入れ命の終わりを意識しながら精一杯生きるか。私自身もその問いについて考えながら読むことが出来てとても興味深い作品であった。

 また、政治や国民投票などに関心を持つ人々が少なくなってきている現代社会に通じる作品でもあるなと思った。自分の人生がかかった国民投票なら投票率は上がることが作品から見受けられたので、関心を持ってもらえるような政治づくりが大切だなとも思った作品だった。