武井寛先生(法学部)推薦『デンマークの光と影』

☆新入生向けの図書案内

著者: 鈴木優美
タイトル: デンマークの光と影 -福祉社会とネオリベラリズム-
出版者: 壱生舎
出版年: 2010
配置場所: 図書館1階特設
請求記号: 364.023//2011

あちら「では」こうなっている,それに比べて日本「では」……と,外国でのさまざまな事情と日本とを比較して,日本の実情を嘆いたりしていると,「出羽の守」などと揶揄されることがある。確かに,表面的な数字や現象のみを比較しても,そのよってきたるゆえんが分析されていなければ,意味はないということはできよう。
とはいえ,たんなる数字の比較のみであっても,その背後に存在しているそれぞれの国の事情への興味をかきたてることもあり,考えるきっかけを与えてくれるという点では,意味がないというわけでもない。
少なくとも,諸外国と日本との比較は,彼我の違いに興味を沸き立たせ,自己を相対的に見る視点を養ってくれる。したがって,諸外国の実情について触れた書物を読むことは,学問へアプローチするうえでの,一つの通路となりうる。この意味で,「出羽の守」本もすてたものではないのである。
本書は,複数の国際調査で「世界一幸福な国」として称揚され,近年とみに注目を集めているデンマークについて,同国在住の著者が,その内側から分析したレポートである。
本書が他の「出羽の守」本と一線を画すのは,タイトルが示すとおり,高福祉社会デンマークの「影」の部分にも視線をそそいで考察している点にあるが,より興味深いのは,副題にもあるとおり,デンマークにさえも「新自由主義」の波がひたひたと押し寄せ,一定の影響力をもってきている様相を描いているところにある。
新入生のみなさんは本書から何を感じ取るだろうか。そして,日本の現状・将来についてどう考えるだろうか。一緒に議論できることがあればと願っている。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より