長濱宏治先生(フロンティアサイエンス学部)推薦『実感する化学(上・下巻)』 

☆新入生向けの図書案内

著者: a project of the American Chemical Society
タイトル: 実感する化学 上・下巻
出版者: エヌ・ティー・エス
出版年: 2005
配置場所: 図書館 1階特設
請求記号: 430/1/2022

これを読んでいる新入生のうち、高校で学んだ科目が「実際に何の役に立つのか?」と疑問に感じた経験がない方は、どれだけいるだろうか。
私の研究分野は生命高分子科学であり、現在はバイオ高分子化学などを教えているが、そういう私も高校生時代は「研究者になるわけでもないのに、理科の勉強が何の役に立つのか」と感じており、受験科目だから仕方ないと思いながら勉強していた。高校の学習では、大学受験の対策として「暗記する」ことに重点が置かれているので、「理科がどのように世の中で役立っているのか」ということまでを教える余裕がないのであろう。
そこで、そのような疑問を感じたまま大学に進学し、これから専門的な講義を受ける学生諸君に是非とも読んでもらいたい一冊の本を紹介したい。『実感する化学(上・下巻)』である。本書は、世界最大の科学学術団体であるアメリカ化学会の出版物として、アメリカの大学生を対象に書かれた化学入門書である。本書は、現代社会の様々な課題の中からテーマを12 件選んで、それぞれの課題における化学の居場所を提示し、次いでそこにある化学の中身を詳しく、でも解りやすく説明する、という従来の化学入門書とは大きく異なるスタイルを取っている。上巻(地球感動編)では、⑴空気汚染、⑵オゾン層破壊、⑶地球温暖化、⑷エネルギー問題、⑸飲料水汚染、⑹酸性雨という環境問題に関するテーマを扱っている。また、下巻(生活感動編)では、⑺原子力発電、⑻各種電池、⑼高分子化合物、⑽医薬と薬物、⑾栄養と肥満、⑿遺伝子操作とクローニングという私達の生活に関係するテーマを扱っている。本書はアメリカ社会についての記述が主体だが、12 件の課題はどれも普遍的な内容なので、日本の状況を考えながら読むことができる。本書を読み終えた後には、「大学4年間で習得する化学の知識・技術を世の中に活かしたい!!」という気持ちがきっと芽生えていることであろう。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より