金泰虎先生(国際言語文化センター)推薦『論語』

☆新入生向けの図書案内
甲南大学生の豊かな情緒を涵養させるため、推薦させて頂きたい図書は『論語』です。『論語』は、儒教経典である4書(論語・大学・中庸・孟子)の中の1つですが、簡単に言えば孔子とその弟子の言行録をもって綴った、日常生活における実践的処世や道理を説いている古典です。
『古事記』によると、応神天皇の時、百済から王仁が日本に『論語』を持ち込んだとされています。岩波書店から携帯しやすい文庫版が出ています。文庫版は、原本として日本の清原家の証本を基本に唐の開成石経と対校、そして読み下しは江戸時代における林羅山の道春点と後藤芝山の後藤点を参考にしています。
さらに、長い年月の間に数多くの注釈書が出ていますが、現代語訳には魏の何晏の集解(古注)、後漢の鄭玄注(鄭注)、南宋の朱熹の集注(新注)を参考にしています。
ところで、ある人は『論語』は社会の基盤が農業中心だった時代に書かれた書物であるため、産業社会よりも遙かに発展を遂げている今のIT(Information Technology) 時代には適応しないとか、復古主義・封建主義・行き過ぎた道徳主義を強調するなどと批評します。しかし、第1の学而篇から第20 の尭曰篇までをかみ砕いてみると、時代や社会体制とは関係なく、普遍的に通用されることを我々に提示していると思います。
大学における教養教育の弱体化、それに相まって到来したグローバル化時代は、大学生の読書生活にも大きな変化をもたらしたと言えます。つまり、多くの大学生は古典などの教養を育むような書物の読書は愚か、インターネットに流れている情報だけを頼りにしているのです。ぜひ、『論語』という古典を通して今の社会に通用する、人間の普遍的な価値観や倫理観を構築してほしいです。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より