東野圭吾著『マスカレード・ホテル』

法学部1年 三上怜奈さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

1.紹介する本の概要
 私が紹介する本は、昨年映画化された「マスカレード・ホテル」だ。映画では、主演を木村拓哉さん(刑事:新田浩介)、長澤まさみさん(ホテルのフロントクラーク:山岸尚美)が務めている。この本は、2008年12月から2年間「小説すばる誌」で掲載され、筆者である東野圭吾さんの小説家生活の25年記念作品の第3作である。表紙には題名の“マスカレード”が英語で仮面舞踏会を意味することから、アイマスクが描かれている。個人的には、山岸が先輩に教わったという「ホテルにくる人間は客という仮面をつけている」というセリフから、「マスカレード・ホテル」という題名になったのではないかと推測している。この作品の舞台であるホテルは、日本橋の「ロイヤルパークホテル」とされ、取材協力団体として紹介されている。また、この作品以外にもマスカレードシリーズとして、「マスカレード・イブ」、「マスカレード・ナイト」がある。

2.筆者紹介
 この本の作者である東野圭吾さんは、1985年に大阪市に生まれ、大阪府立大学電気工学科を卒業し、第31回江戸川乱歩賞を著書の「放課後」で受賞され、これを機に作家デビューを果たした。この賞にとどまらず、「秘密」で日本推理作家協会賞、「容疑者Xの献身」で直木賞と本格ミステリ大賞、「ナミヤ雑貨店の軌跡」で中央公論文芸賞、「夢幻花」で柴田錬三郎賞、「祈りの幕が下りるとき」で吉川英治文学賞を受賞している。33作品がドラマ化、24作品が映画化されている。作家としてデビューする前には、エンジニアをされていたため理系知識を生かした作品を書かれることが多い。

3.作品のあらすじ
 この作品の内容を大まかに説明すると、都内で連続殺人事件が発生し、刑事の新田が現場に残された暗号を解読したことで、次の殺人現場は山岸が勤めるホテルコルテシア東京で起こると推測する。次なる被害者を出さないために、警察はホテルに潜入捜査の協力を依頼し、山岸が新田の指導係に任命される。山岸は、新田の刑事特有の目つきや姿勢、歩き方を不満に思うが、当の新田は、山岸のお客さんは神様だと言わんばかりの対応に不信感を抱いていた。次から次へと怪しげな客が訪れる中、お互いを毛嫌いする二人は無事に事件を防ぐことができるのか…。といった内容となっている。

4.物語のキーパーソン紹介
 この作品の主役である新田、山岸だけでは決して事件を解決することはできなかった、この二人に隠れた陰の立役者を紹介する。
 能勢:劇中では小日向文世さんが演じられている。品川警察署の刑事であり、連続殺人事件の最初の事件での特捜本部で、新田と組むように言われた人物である。愚鈍そうなおっさんというのが新田の第一印象であり、新田は、能勢の動作が少しのろいため、見ていてイライラすることが多かった。新田が潜入捜査に入ることを境に、二人のコンビは解消されたものだと新田は思っていたが、解消しろと命じられていないからと能勢は今でも新田と組んでいると思っており、独自に捜査した内容を時々新田に伝えに来る役どころである。
 一見、「使えないおっさん刑事」というレッテルを張られがちな見た目や動作をしている能勢は、新田にも最初こそそのように思われていたものの、署で働きながら事件について独自で調べ、自らの推理を踏まえながら捜査し打ち込む姿は、優れた刑事であると言わざるを得ない。新田も彼の推理と行動力に圧倒され、次第に彼の本当の能力に気づくこととなる。能ある鷹は爪を隠すとはまさに彼のことであると思う。

5.この作品の見どころ・良さ
 私が思うこの作品のおすすめしたいポイントとして3つを挙げたい。
 1つ目に、細かな描写も事件への伏線となっているというところだ。様々な宿泊客が訪れるホテルであるために、日々のトラブルはつきものだ。「電車までの時間が少ししかないからチェックアウトの列に並んでいられない」という客や、「禁煙の部屋であるはずであるのにたばこのにおいがする」(客自身がたばこに火をつけてにおいがするようにしていた)という客もいる。そんなお客様に対応を強いられるホテルは、どのように行動するのか、一つ一つのトラブルでさえも事件を紐解く要素になっているため、どんなに小さな情報であっても目が離せない。
 2つ目に、3で紹介したような仲の悪さである新田と山岸の関係性は事件を追うにつれてどのように変化するのか、刑事としての考え・ホテルマンとしての考え、その違いを尊重しあうことができるのか、この2点に注目だ。またここでも、能勢刑事はいい役回りをしてくれる?!
 3つ目に、東野圭吾作品の中では殺害方法が単純であり、イメージがわきやすいという点だ。2の筆者の紹介で述べた通り、エンジニア時代に培った理系知識を駆使した殺害方法が他作品では多く見られ、こんなの想像できない、と理解に苦しむ点が多々ある。その点、他作品に比べ殺害方法が単純であるこの作品は、読み進めることで新田、山岸らと一緒に事件を突き止めている感覚を味わえる作品となっている。少しページ数が多いこの作品だが続きが気になり、気が付けば読めていたなんてことがおこる。そんなことも夢ではない。

6.映画としてのマスカレード・ホテル
 この作品は、2019年1月18日から映画館で公開され、興行収入は46.4億円に上り、大ヒット映画となった。映画サイズに縮小するため、山岸のワインに対する推理で新田が感心する描写(5で紹介した二人の関係性にかかわる場面)等が今作品では割愛されており、原作を読んでいるものからすると、少し重要な点が抜けていると感じても仕方ない点がある。しかし、本を読むのが苦手だという人には映画をお勧めしたい。というのも、監督を担当したのは「古畑任三郎」、「ショムニ」などの作品の演出を手掛けた鈴木雅之さん、脚本は「信長協奏曲」、「鍵のかかった部屋」等を執筆した岡田道尚さん、音楽を「Always 三丁目の夕日」で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞した佐藤直紀さんが手がけるなど、才能ある演出家を起用しているためだ。多くの作品を経験してきた彼らが魅せるマスカレード・ホテルの世界は可憐で圧巻である。

7.この作品から学ぶこと
 この作品には、現代を生きていく私たちに数多くの生き抜くための知恵を与えてくれる。新田、山岸はともに固有の職業についており、その職種にあった対応や求められる能力を教えてくれるのはもちろんのこと、職種に関係なく人としてどうあるべきなのか、どのように人と接するのかの『アドバイス』がこの本にはつづられていたように私は思う。
 例えば、5で紹介した新田・山岸の関係性の描写から分かるように、『まるで話が合わない人(価値観の相違などがある人)との協力の際には、相手の立場に立ったうえで、相手の意見の意味を考え、また、尊重しながら自分の意見をどのように伝えれるのが最適かを考えるべきである。この人とは合わないから関わらない、場合によってはその方が良いこともあるが、そのような対応をとるのではなく、お互いを尊重する姿勢が大切である。』、とのアドバイスや、他にも、新田の能勢に対する印象の描写から分かるように、『外見や表面上だけでその人の行動を見て、[この人はこんな人だ!]と判断してはいけない。』とのアドバイスが読み取れる。
 現在はコロナ禍により、リモートでの授業形態が進み、実際に会えなくとも同級生や先生の表情を見ることができたり、授業内での様子を見ることができる。そこからイメージを持つことは容易である。二つ目のアドバイスから分かるように、“偏りのある勝手なイメージ”を持つことはその人を傷つけたり、自分自身の視野が狭まったりと良いことは何もない。この二つ目のアドバイスというのは、コロナ禍での私たちが肝に銘じておくべきことではないだろうか。

8.最後に
 この作品は、映画化されただけでなく、2020年1月5日~1月13日の間、梅田芸術劇場で宝塚歌劇団花組の方々で舞台化もされている。舞台を現在見ることはできないのだが、様々な媒体を通じてこの作品に出合うことができるのだ。マスカレード・ホテルの本、映画のどちらかにでも触れる人が増え、新田と山岸の二人とともに、事件を解決する人が一人でも増えてほしい、また、数多くの生き抜くための知恵を盗んでほしいと思う。

:参考文献:
 東野圭吾作品ナビサイト マスカレード・ホテル https://higashinokeigo.net/detail/076.html 6月30日
 年代流行 東野圭吾 原作ドラマ作品一覧/年代流行 https://nendai-ryuukou.com/article/047.html 6月30日
 MOVIE WOLKER PRESS 東野圭吾 https://movie.walkerplus.com/person/149714/ 6月30日
 映画評価ピクシーン 2019年映画興行収入ランキング日本おすすめ(上半期/下半期/洋画/邦画) https://pixiin.com/ranking-japan-boxoffice2019/ 6月30日
 映画『マスカレード・ホテル』公式サイト マスカレード・ホテル http://masquerade-hotel.jp/staff.html 6月30日
 梅田芸術劇場 『マスカレード・ホテル』|梅田芸術劇場 https://www.umegei.com/schedule/846/#_stagepic 7月20日

参考:【映画】マスカレード・ホテル / 鈴木雅之監督 ; 岡田道尚脚本 ; 東野圭吾原作