デーヴ・グロスマン『戦争における「人殺し」の心理学』

何か面白い本を読みたいなぁと思った時には、図書館で探すことをお勧めします。
本棚をよーく見てください。
たくさんの人が読んだ本は、ボロボロになっています。
特に、はじめから最後まで何度も読まれた跡がある本にハズレはありません。
商業的な企みは何もなく、みなさんの先輩方が「面白い」と思って読むのをやめられなかった本です。

今回は、そんなボロボロになった1冊をご紹介します。
(でも、修理できない状態になってしまったので、新しい本を購入しました。)

デーヴ・グロスマン著『戦争における「人殺し」の心理学』(ちくま学芸文庫)
3階書庫小型 S081.6/ク8/79

*書庫の本ですので、2階カウンターで利用を申し込んでください。

兵士が人を殺すことは仕事です。
ですが、簡単にできる仕事ではありません。
人は、本能的に同種を殺すことに強烈な抵抗感を持っています。
仕事であっても、人を殺すことで自らも傷つき、社会も深手を負います。

軍(国)としては、兵士にはできるだけ効率的に人殺しをしてもらわなくてはならない。
けれど、兵士の上司・同僚としては、部下や友達が傷つくことに、痛みを感じないわけがない。

この問題に正面から取り組んだのが、著者のデーヴ・グロスマンです。
20年以上アメリカ陸軍に所属した心理学・社会学者で、兵士の心のケアにもあたってきました。

グロスマンの研究テーマは、いかに心に負担をかけずに人殺しを実行させるか、ではなく、人間の心の仕組みを科学的に理解することから、戦争を見直すということです。
そのため、この本は、戦争を肯定する本でも、否定する本でもありません。

グロスマンは、この本の「第1部 殺人と抵抗感の存在」を次の文章で締めています。

「殺人への抵抗が存在することは疑いをいれない。そしてそれが、本能的、理性的、環境的、遺伝的、文化的、社会的要因の強力な組み合わせの結果として存在することもまちがいない。まぎれもなく存在するその力の確かさが、人類にはやはり希望が残っていると信じさせてくれる。」P096-097

(konno)