角田光代著 『八日目の蟬』

 

 

知能情報学部 4年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 八日目の蟬
著者 : 角田光代著
出版社:中公文庫
出版年:2011年

希和子は浮気相手とその妻が出かけた自宅に忍び込んだ。部屋で泣く赤ん坊を抱き上げようとした際に、赤ん坊が希和子に向って笑いかけた。希和子は夫婦の間に生まれた赤ん坊を見るだけのつもりだったが、気づくと赤ん坊を抱えて逃亡していた。希和子は赤ん坊に薫と名付け、友人の家や老女の家、宗教施設のエンジェルハウスなど、生活の場を転々としながら薫を育てる。小豆島での生活を最後に、希和子が誘拐犯として薫と引き離されるところで逃亡劇は幕を閉じる。大人になった薫こと恵理菜は、エンジェルハウスでかつて共に過ごした千草の接近をきっかけに、希和子や自分の親、そして自分自身について、見つめ直すこととなる。

逃亡生活の最中、希和子の目に入る様々な媒体から自分に捜索の手がどこまで伸びてきているのかを知る際の焦燥や、薫の授乳やおむつ替え、発熱からくる子育てをした経験のない希和子にとっての困惑や不安など、その心情描写はあまりにもリアルで、まるで読者も希和子と共に逃亡していると錯覚させられる。そのため、逃亡劇としてのドキドキハラハラとした感覚が読者をまとう。また、エンジェルハウスでは外部からの情報が遮断され、希和子と薫は女性のみの集団生活を強いられるため、そのカルトチックでミステリアスな空気感に、読者も不安にかられるだろう。物語後半では、希和子や実の母を通して、薫が子供に対する愛情について考え、葛藤する姿が描かれる。浮気相手の子供を育てる、それは倫理的には問題があるのかもしれないが、生命の運命として、種の保存として子供を育てるのは本能、むしろ必然ではないのか。生まれてくる子供は、美しい世界をその目で見る、それを果たす義務が自分にはあるのではないか、あなたも考えさせられるだろう。

このように、一つの物語の中で様々な感情に出会い、思考させられるのも、本作の魅力の一つであるかもしれない。ぜひ手にとって、筆者の生命に対する美しさの考え方や、登場人物たちに対するいとおしさを感じてほしい。